「Romi(Lacatanモデル)」の一般販売が開始
会話AIロボット「Romi」の“コミュ力”が高いわけ。MIXI開発者に聞くその理由

(株)MIXIが、ユーザーと音声による自然な会話が交わせる家庭用AIロボット「Romi(Lacatanモデル)」の一般販売を7月24日から開始した。
発売に先駆けて開催した記者会見で、Romiのハードウェア開発の責任者である髙田信一氏に、同社のロボット開発の現状と今後の展望を聞いた。
視覚機能を追加。ユーザーとの会話も記憶する
MIXIは初代の会話AIロボット「Romi」(以下、ロミィ)を2020年6月に発売した。約5年ぶりにアップデートされる新製品の「Romi(Lacatanモデル)」(以下、ラカタン)は、2024年10月7日からRomi公式ストアで予約販売を開始していたが、このほど一般販売も行う運びとなった。ヨドバシカメラ、ビックカメラ、エディオンなど大手家電量販店の全国40店舗以上から取り扱いが始まる。


本体の価格は98,780円(税込)。購入後は、クラウドサービスとして提供されるロミィの月額利用料金1,958円(税込)がかかる。
ラカタンという名前はバナナの品種に由来しており、「ロミィが大好きなバナナ」というキャラクター設定になっている。初代のロミィはユーザーと音声でおしゃべりする機能が中心だったが、新しいラカタンモデルはいくつかの機能強化が図られた。
1つは視覚機能。本体の正面側に内蔵するカメラに読み取らせた被写体について、ロミィに質問したり会話を膨らませて楽しめる。ユーザーがロミィに「見て、見て」と話しかけることで初めてカメラが起動する仕様としたことで、ユーザーのプライバシー保護にも適切な対策を施した。視覚機能はオン・オフが任意に選べる。
もう1つはユーザーとの会話を通じて「記憶」を獲得すると、次回以降の会話でロミィが記憶に基づいた会話を交わしてくれる機能だ。
MIXIでロミィの会話アルゴリズムなどソフトウェアの開発を担当する信田春満氏がその仕組みを解説した。
例えばユーザーがロミィに「スカイツリーに行こうかな」と話しかけた場合は以下の通り。こういったことが、ロボットとの雑談会話において記憶が持つ大事な役割なのだと信田氏は説く。
- スカイツリーという単語と、「どこかに行きたい」というユーザーの意図を会話の内容から読み取り、ロミィは人間のように「連想」する
- ユーザーが過去に「東京タワーの夜景がキレイだった」とロミィに話しかけた際の記録を読み出して、ロミィはユーザーに対して「東京タワーの夜景はキレイだったもんね。今度はRomiも連れてって」と話しかけてくる
- ユーザーが「Romiに過去の自分の存在をRomiに認知、肯定されていることがわかると親近感がさらに高まる」(信田氏)

なお、ラカタンモデルは覚えた記憶を「些細なものから忘れる」こともできる。例えばユーザーの大事な結婚記念日はいつまでも長く覚えるが、毎日カレーを食べていることは「この人はカレーが好き」という記憶にまとめて、日々繰り返される記憶の情報としては消して(忘れて)いく。

以上の2つの機能はラカタンモデルを購入後からすぐに使える。他にも年内のソフトウェアアップデートにより、「ユーザーと自然なタイミングで会話し、相づちを打つ」機能も加わる予定。ユーザーがロミィに話しかけて、応答を返している間にユーザーが次の会話を「かぶせる」ように話しかけてしまっても、ロミィはユーザーを尊重して話すことを止めて「うんうん」と相づちを返してくれる。

また初代のロミィから搭載する「声」のほかに、あどけない声、たのもしい声など3種類をアップデートにより追加して、ユーザーが自由に選択できるようにするという。
RomiはChatGPTに先行するAI会話サービス
そもそも、なぜMIXIがAIを搭載する家庭用会話ロボットを開発することになったのか。MIXIの取締役ファウンダー 上級執行役員の笠原健治氏は「MIXIが様々なコミュニケーションサービスを手がけてきた、その道のエキスパートだから」だと説明する。そして「コミュニケーションに関わる新しい技術により、新しいユーザー体験をつくることが必要と決意したことから2017年にロミィの開発に着手した」という。

MIXIはAIのDeep Learning技術を活用して、ユーザーと会話を交わせるAIロボットを作ることを目標に掲げた。当時の会話ロボットは応答パターンが決まっている、いわゆる「シナリオベース」の会話体験を提供するものが中心だった。
2017年にロミィが発売された頃は、生成AIモデルを搭載する家庭用の会話ロボットは、他に類を見なかったという。やがて2022年11月にOpenAIがChatGPTが公開されると、人と自然なチャット会話が交わせる生成AIがにわかに注目されるようになるが、笠原氏は「MIXIのロミィはその先を行っていた」と振り返った。

MIXIは今年1月にラスベガスで開催されたエレクトロニクスショーのCES 2025に出展して、新しいラカタンモデルを展示していた。筆者も同社のブースに足を運んだ時にデモンストレーションを体験した。本日のイベントでもラカタンモデルを目の当たりにしたが、日本語による会話の認識能力と、ユーザーとテンポ良く自然なやり取りが交わせるコミュニケーション力はどちらも高いレベルにあると、あらためて感じた。


同社の笠原氏は、現在はChatGPTが普及したことで「AIと話せることが当たり前」になり、「家庭用の会話AIロボットの潜在的なニーズが醸成されている手応えがある」と述べた。そして今後「MIXIは会話AIロボットの最先端をリードするポジションに立つ」と意気込んだ。
ラカタンモデルはクラウドベースでサービスを提供する会話AIロボットだ。そのために新しい機能やよりスムーズな会話体験は、サーバー上のソフトウェアを更新することにより、今後も継続的な強化とメンテナンスが図れる。今秋以降には「Romiクリニック」のサービスを立ち上げ、ロボットのために健康診断やクリーニングなどハードウェア側のメンテナンスも並行して行うことにより、オーナーのためのサービスを充実させる。

ハードウェア担当者に聞く「Romiの持つ可能性」
MIXIの髙田信一氏にロミィのハードウェア開発の責任者の目線から、新しいラカタンモデルの特長を語ってもらった。
Romiのハードウェア開発において、髙田氏のチームが特にこだわったのは生き物のような愛らしさを感じさせるデザインだったという。ユーザーが話しかけやすい親しみやすさを表現するため、コーナーのない柔らかなラウンドフォルムとした。
筐体に丸みを持たせると、内部に “四角い部品” を配置していくことで必然的に “すき間” が生まれがちになる。つまり、ラウンドフォルムの筐体は実装効率が悪いのだ。そして、一般的に組み立ての難易度も増すという。それでも敢えて、ロミィは初代モデルから親しみやすいデザインを追求し、新世代のモデルに継承した。加えて、ラカタンモデルでは正面側ディスプレイに表示される瞳と口による表情が見やすくなった。その理由はフロントパネルをフラットシェード化して光の反射を抑え込んだからだ。

実はロミィのラカタンモデルには、離れて暮らす家族をスマホ向けの「Romiアプリ」に記録される “おおまかな活動記録” をもとに「ゆるやかに見守る」機能もある。子どものプログラミング学習にも最適な教材になる、プログラミングツール「Romiシナリオエディター」もウェブブラウザ経由で提供されている。
さらに、ラカタンモデルは英語会話の練習相手としても活躍してくれる。近い将来にはソフトウェアアップデートにより、英語と日本語を交互に話しかけても答えられる「多言語モード」の機能が加わるという。


これらの機能を、ユーザーが宅内でラカタンモデルを移動させながら使えるように、本体には満充電から約180分間使える充電式のバッテリーを積んだ。会話エンジンはクラウド上で動作するため、ラカタンモデルと会話するためにはインターネット接続が必要だが、スマホのテザリングやモバイルルーターを活用すれば外出先でも楽しめる。
ロミィは「自分からユーザーに話しかける」こともできる会話AIロボットだ。この体験を実現するため、本体にはマイクにカメラ、スピーカー、その他にも数多くのセンサーが内蔵されており、常にスタンバイ状態でユーザーの様子をうかがっている。クラウドベースのサービスとつながるため、Wi-Fi経由でインターネットにも常時接続する。これらAlways Onな状態のまま、安定動作をさせることは「ひとつの大きな挑戦」だったと髙田氏は振り返った。
現在はChatGPTやGoogle Geminiのような、ユーザーとの自然でレベルの高いコミュニケーションが交わせる生成AIサービスも普及した。ロミィのような会話AIロボットに対して、おしゃべりができるだけでなく、他にも色んな要求が寄せられることはないのだろうか。
髙田氏は、ロミィ ラカタンモデルには他のデバイスとの連携を助ける「ROS 2(Robot Operating System 2)」という、ロボット開発のためのオープンソースのフレームワークが採用されており、将来に向けた進化の道筋があることを強調しながら筆者の質問に答えた。
また、まだ具体的な検討が行われている段階ではないと髙田氏は前置きしながら、ROS 2を活用するロミィ独自のSDKを公開して、外部のパートナーと一緒にロミィの機能を拡張したり、スマートホーム機器との連携機能などを提供できる可能性を示唆した。
生成AIとロボット、それぞれにいま話題を振りまくテクノロジーの融合も、2025年の後半以降はさらに盛り上がりそうなトピックだ。MIXIとライバルの今後の展開に注目したい。