でも、すぐに取り下げられました
「ヒューストン、問題発生」トランプ法案で決まった“スミソニアン博物館のスペースシャトルのテキサス移送計画”に待ったがかかる

ドナルド・トランプ大統領が7月4日に署名して施行された減税・歳出法案「One Big Beautiful Bill(大きく美しい法案)」のなかには、現在はスミソニアン博物館群のひとつである国立航空宇宙博物館に展示しているスペースシャトル・ディスカバリー号を、テキサス州に移送し展示するという「スペースシャトル帰還法案」法案が含まれている。
しかし、米国上院のディック・ダービン議員が、スペースシャトルを持ち出そうとする政府および共和党に待ったをかけた。
スペースシャトル計画が2011年に終了した後、NASAはエンタープライズ号、アトランティス号、エンデバー号、ディスカバリー号という4機のスペースシャトルを、そのままの姿で展示する博物館を選定した。
そして現在、エンタープライズ号はニューヨークのイントレピッド海上航空宇宙博物館に、アトランティス号はフロリダ州にあるケネディ宇宙センターに、エンデバー号はロサンゼルスのサミュエル・オシン航空宇宙センターにそれぞれ展示され、ディスカバリー号はスミソニアン協会が管理・運営するスミソニアン博物館群のひとつで、バージニア州北部にある国立航空宇宙博物館別館に展示されている。
トランプ法案では、このディスカバリー号をテキサス州ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターまで、約1400マイルも移送することを定め、そのための予算として8500万ドルを割り当てる条項が含まれている。この予算のうち8000万ドルはシャトルを収容し展示する新しい建屋のために充てられ、残る500万ドルが、シャトル移送費とされている。
だが、もともとスミソニアン協会が議会に提出した見積もりでは、ディスカバリー号のテキサスまでの移送にかかる費用は3億~4億ドルにものぼるとされていた。さらに、ダービン議員がNASAとスミソニアン博物館からの情報により調査したところ、移送にかかる推定費用総額は3億500万ドル近くにもなり、この金額には建屋建設にかかる1億7800万ドルが含まれていないという。
また、スミソニアン博物館がディスカバリー号に関する権利一式を所有していると主張していることについて調べたところ、2012年にNASAが署名した書類に、この宇宙船に関する「すべての権利、利益、所有権、および所有権」がスミソニアン博物館に譲渡されている事を示す記述が確認できたとのことだ。
「これは移管ではない」「12年前の競争で負けたテキサス州による強奪だ」とダービン議員は述べ「スミソニアン博物館の歴史上、展示品を誰かが持ち去り、強制的に占有するのは初めてのことだ。一体何が起こっているのか?テキサス州にはこれを主張する権利はない」
ダービン議員は、ディスカバリー号に関係する権利関係を調べたところ、そもそも議会がスミソニアン博物館のコレクションからスペースシャトルや関連する遺物を撤去する権利を有していないことを確認したという。
そして木曜日の公聴会で自らの主張を取り上げるため、「退役したスペースシャトルをある場所から別の場所へ移送するために資金を使うことを禁止する」とする修正法案を提出した。その法案の名は「Houston, we have a problem」(ヒューストン、問題発生)だ。
だが、ダービン氏は異議を唱えはしたものの、その後に修正案を撤回した。米国の議員は、自らの見解を公にして周知し、問題提起するために目立つ格好で修正案を提出することがある。たいてい、そのような修正案はすぐに撤回される。ダービン議員は撤回後、次のように述べた。
「われわれが扱っているのは廃棄物と呼ばれるものだと思う。8500万ドル相当のだ。これは議論の余地のある問題で、スミソニアン博物館やNASAなど、他の機関もこの問題に関心を持っていることを知っている。私はこの修正案を撤回するが、同僚たちには率直に考えてもらうことを求める」「この問題について、時間をかけ、真剣に検討して欲しいと願う」
ちなみに、なぜ12年間スミソニアン博物館で展示されてきたディスカバリー号をヒューストンに移送する法案が書かれたのかについて補足しておくと、もともとスペースシャトルのミッションコントロールセンターがヒューストンにあったにもかかわらず、現存するシャトルの実機がひとつもそこにないからだ。テキサス州の共和党議員らは長年にわたり、独自のスペースシャトルを展示することでもっとこの地域の認知を高めたいと考えてきた。
「One Big Beautiful Bill(大きく美しい法案)」に含まれる、元の法案を書いたテキサス州選出のジョン・コーニン上院議員は「ヒューストンは長年にわたり、我が国の有人宇宙探査計画の礎となってきた」と述べ、同じくテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員も、「この地域に、このような歴史的な宇宙船を導入することは、この都市がこの国の宇宙ミッションに欠かすことのできない貢献をしてきたことを強調し、アメリカの商業宇宙パートナーシップの強さを際立たせ、宇宙におけるアメリカのリーダーシップの遺産を継承する将来の世代のエンジニア、科学者、開拓者に刺激を与えることになるだろう」と述べている。
なお、現在ジョンソン宇宙センターには、スペースシャトルの実機はないものの、以前はエクスプローラーと呼ばれていたスペースシャトルの実物大レプリカ「インディペンデンス」が設置されている。
- Source: Ars Technica
- Coverage: USA Today