法規制を強化するとゲーム開発を萎縮させると反発も

ゲーム販売後の「プレイ不能」に反対運動。EUで署名100万突破、立法化の可能性

多根清史

Image:Ubisoft

「Stop Killing Games」は、ゲーム会社が販売済みのビデオゲームを一方的にプレイ不能にする行為の合法性に異議を唱える消費者運動である。今月初め、この運動の公式サイトでEUイニシアティブの署名が100万件を突破し、EU域内での立法化が現実味を帯びてきた。

EUイニシアティブとは、EUが管轄する政策分野において、EU加盟国7か国以上から合計100万人以上の署名を集めることで、欧州委員会に対し新たな立法を提案できる制度である。単なる請願や陳情とは異なり、市民側から政策を提案できるという特徴がある。

このStop Killing Games運動は、YouTuberであるロス・スコット氏が主導し、とくにユービーアイソフトによる『The Crew』のサービス終了とライセンス剥奪をきっかけとして、2024年から本格化した経緯がある。

同運動はゲーム保存の重要性を訴え、計画的陳腐化(planned obsolescence)や消費者権利の侵害、文化的保存の困難さを問題として提起している。さらに各国の消費者保護機関への苦情提出や、イギリス議会・フランス当局への請願も行っており、このEUイニシアティブ署名活動もその一環である。

ただし、まだ2つの課題がある。1つは署名の中に無効なものや偽名、EU域外からの署名が含まれている可能性があり、実際に有効な署名数が足りているかどうかの精査が必要である点だ。そのため主催者のスコット氏は「最低でも10%多く署名を集める必要がある」と述べており、署名活動は継続中である。7月7日現在、署名数は120万人以上に達している。

もう1つの課題は、大手ゲーム企業や業界団体からの強い反発である。エレクトロニック・アーツ、マイクロソフト、任天堂などが加盟する業界団体は「プライベートサーバーでは公式サーバーのようにプレイヤーデータの保護や違法コンテンツの排除、安全なコミュニティ管理のための仕組みを維持できないため、権利者に法的責任が及ぶリスクが高まる」とし、さらに「多くのゲームは最初からオンライン専用として設計されているため、プライベートサーバーやオフライン対応を義務付けると開発コストが大幅に上昇し、結果的に開発者の創作の自由を狭める」と指摘している。

ここでいうプライベートサーバーとは、公式サーバーの運用終了後にユーザーが自前のサーバーを立て、ゲームを継続して遊べる手段のことを指す。メーカー側の主張としては、それでは海賊版ソフトの配布サーバーと変わらないという懸念があるのだろう。

さらに、別の業界団体であるVideo Games Europe(こちらも任天堂やEAなどが加盟)は「この取り組みはゲームの開発コストとリスクを高めるだけでなく、ゲームデザインに萎縮効果を与え、ヨーロッパでそうしたゲームを提供する意欲を削ぐ要因になる」と述べている

実際、EUの規制強化により、他の地域で提供されている機能がEU域内では提供されない事態が現れている。たとえば「MacとiPhoneの画面ミラーリング機能がEU域内では使えない」という具体例もある。ともあれ、今後の動向を注視したいところである。

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