アルトマンが出資していたHumane AI Pinはアイブが「非常に劣悪」と批判
OpenAI、ジョニー・アイブの「io」を約9300億円で買収。ハードウェア開発本格化へ

OpenAIは、アップルの元チーフデザイナーであるジョニー・アイブ(Jony Ive)氏が共同設立したAIデバイススタートアップ「io」を約65億ドル(約9300億円)で買収することで合意した。この買収は、OpenAIにとって過去最大規模の案件である。
「io」は2023年に設立された企業であり、アップルの元デザインチームのメンバー約55人が在籍している。iPhoneやiPad、Apple Watchの開発に携わったScott Cannon、Evans Hankey、Tang Tanらも名を連ねている。買収後、ioのエンジニアやデザイナーはOpenAIに合流し、AIを搭載した消費者向けデバイスの開発を加速させる見通しである。
なお、アイブ氏本人はOpenAIに直接参加せず、「OpenAIとio全体で深くクリエイティブとデザインの責任を担う」とされている。また、彼が率いるデザイン会社LoveFromも引き続き独立して活動しつつ、OpenAIのハードウェアおよびソフトウェアのデザイン戦略に関与するという。
The Wall Street Journal報道によれば、今回の買収は現金を使わず、全額を株式(オールストック)で行ったとされている。OpenAIは約65億ドル相当の自社株をioの株主に提供するかたちで買収を実施。同社はすでにio株の23%を保有しており、残る77%に対して約50億ドル相当の株式を新たに発行したと報じられている。
OpenAIは創業以来、利益を出したことがなく、マイクロソフトからの130億ドルの投資に対しても、2030年までに収益の20%を分配する契約を結んでいるとされている。こうした資金状況に関する懸念に対し、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は「メディアは我々自身よりもOpenAIの収益と資金調達を心配している。ご心配ありがとう」と皮肉交じりにコメントしている。
アルトマン氏とアイブ氏は共同インタビューで、今回の提携の目的について「人類を高める素晴らしい製品を創造すること」と語っている。
注目すべきは、アルトマン氏がかつて失敗に終わったAIウェアラブルデバイス「Humane AI Pin」の大口投資家だった点である。
同製品はスマートフォンに代わる革新的なデバイスとして注目を集めていたが、初年度に約10万台の出荷を目指したものの、実際に売れたのは約1万台。返品も相次ぎ、購入者の手元に残ったのは約7000台にとどまったと伝えられている。今年初めには、HumaneはHPに1億1600万ドルで買収されたが、これは当初目標としていた10億ドルから大きく下回る額であった。
さらにアイブ氏は、Bloombergのインタビューで「Rabbit R1やHumane AI Pinは非常に劣悪な製品だった。製品に新しい考え方が感じられない」と厳しく批判した。これに対して、Rabbitの創設者Jesse Lyu氏は、アイブ氏を「ヒーロー」と称賛しつつも、「我々が努力をやめて買収され、事業を終了したHumaneと並べて語られるのは望ましくない」と不満を表明している。
OpenAIの公式動画に登場したアイブ氏は、「これまでで最高の仕事。iPhoneやMacBook以上の完成度」と自信を見せている。その発言通りの製品が、今後本当に世に出るのか、大きな注目が集まりそうだ。