一攫千金…とはいかず

CERN、鉛が金になる「錬金術」的現象を発見。ただし、その寿命は一瞬

Image:Mrs.Moon/Shutterstock.com

欧州原子核研究機構(CERN)の科学者たちは、古代エジプトや古代ギリシア、中世ヨーロッパの錬金術師が目指した、鉛を金に変える錬金術的現象を起こすことが可能であることを発見した。この実験は、素粒子をとてつもない高速度で衝突させ、鉛の物理的特性を操作して金に変えるというものだ。

念のため断っておくと、これは錬金術ではない。確かに鉛は金に変化するが、それは一瞬の出来事で、すぐに消滅してしまう。そもそも実験には、同機構が運用する世界で最も強力な粒子加速器である大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の稼働が必要となるため、まったくもって実用的でもない。

LHCの本来の目的は、宇宙が誕生したビッグバン直後の宇宙に存在した、極めて高温かつ高密度な物質を再現することだ。そのために、鉛イオンどうしをぶつけ合いその様子を観測する。

そして、この分析の間、CERNの研究者らは鉛の原子核が中性子や陽子を落とす原因になるニアミス、つまり直接的な衝突が失敗した際に起こる現象に着目した。ニアミス遭遇では、高速で移動する鉛の原子核を取り囲む強力な電磁場が、短い光子パルスを発生させる。 これらの光子が原子核と相互作用すると、電磁解離と呼ばれる現象が発生し、陽子と中性子が原子核から放出される。

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鉛原子は金原子より陽子が3つ多いだけの組成であるため、まれに陽子が3つ振り落とされると、その瞬間に鉛原子が金原子に変化するのだ。研究者らは、0度熱量計(ZDC)と呼ばれる特殊な機器を使用して、これらのまれな現象を測定した。 

研究者は「われわれの検出器が、数千個の粒子を生成する正面衝突にも対応できると同時に、一度に数個の粒子しか生成されない衝突も検出する感度を持っていて、電磁気的な『核変換』プロセスの研究を可能にしているのは印象的なことだ」と述べている。

ただ実際のところ、生成された原子が金の状態を保っているのはほんのわずかな時間だけでしかない。それはすぐに加速器の側面に高エネルギーで衝突して大量の粒子に分裂崩壊してしまうため、鉛から金を量産することはできない。そもそも2015~2018年に行われた実験で生成されたと考えられる金の量も、全部あわせて29pg(ピコグラム)にすぎないとのことだ。

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CERNは、最近の実験では設備の定期的な改修にともない、以前に比べればほぼ2倍の量が生成されるようになったとも述べている。だが、それでもまったく何の役にも立たない量でしかないことに変わりはなく、錬成された金で富を得ようというのは、少なくともいまは現実的な話ではない。

研究者は、「今回の解析はLHCにおける金生成の兆候を体系的に検出し、実験的に解析した最初のものだ」と述べ、さらに「この結果はまた、電磁解離の理論モデルを検証し、改善するものでもある。このモデルは、物理学的な本質的な興味だけでなく、LHCや将来の衝突型加速器の性能の大きな制限であるビーム損失の理解と予測にも使われる」とした。

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