NEXRADは米空軍や航空気象サービスなどが利用しています

気象レーダーを「謎の兵器」と信じる過激派陰謀グループによる襲撃の可能性、NOAAが米気象局に警告

Image:Sundry Photography/Shutterstock.com

アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、米国立気象局(NWS)に対し、全米各地に設置されているドップラー気象レーダー施設に対する民兵組織からの襲撃の可能性を警告した。

NOAAがNWSに送った文書によると、反政府民兵組織と定義されるグループである「Veterans on Patrol」は、NWSのドップラーレーダーネットワーク「NEXRAD」を気象兵器だと信じており、「アメリカ国民がこの『兵器』を破壊するのを禁じる法律はないと主張している」のだという。

NEXRADシステムは1990年代、米国各地に設置されたドップラー気象レーダーのネットワークだ。タイムリーに各地の降水量を検知することが可能なほか、竜巻や激しい雷雨の発生場所を高精度で特定する能力を持つ。そして、そのデータは米空軍や連邦航空局(FAA)も利用している。

NOAAのセキュリティオフィスは最近、レーダー施設付近を巡回する件の民兵組織のメンバーと複数回の遭遇を経験しており、文書中で「このグループは最終的に施設に進入し、破壊するための弱点を特定するための訓練に参観するよう呼びかけている」とNWSに報告した。そして、NWS職員が現地で作業する際には、2人1組のバディ体制で行動し、不審な活動をする者を見かけた場合は「直接関わらず、地元法執行機関に通報」するようアドバイスしている。

Washington Postは7日、Veterans on Patrolの創設者マイケル “ルイス・アーサー” マイヤー氏にコメントを求めたところ、同団体が「レーダー施設への攻撃計画を進める」「攻撃シミュレーションの準備が整い次第、可能な限り多くのNEXRADをオフラインにするつもりだ」と述べたと報じている。

なお、米国では新政権とDOGEによる政府機関の閉鎖や人員削減が相次いでおり、NWSも例外なく影響を受けている。特に新規採用が凍結され、かつ施設を維持する技術者が90人も削られた現在の状況でレーダー施設が故障すれば(させられれば)、迅速な復旧対応が困難になることが予想される。NWSの職員はCNNに対し、「今の国の全体的な状況を考えると、今回のことは特に懸念すべきことだ」と語った。

Veterans on Patrolが気象レーダーをどんな兵器だと考えているのかは定かではないが、同団体は以前、白人至上主義やピザゲートのような政府の陰謀論を支持する立場を示していたことが知られている。ピザゲートとは、2016年の米大統領選挙期間に拡散された、民主党のヒラリー・クリントン候補陣営の関係者が人身売買や児童性的虐待に関与し「ピザ屋の地下で子どもを殺害」していると主張する陰謀論のことだ。

米国に限らず電波を扱う設備には陰謀論がささやかれることが多い。たとえば、新型コロナのパンデミックの時期には、携帯電話の5G基地局が新型コロナウイルスを拡散させていると主張するグループが、実際に基地局に放火した事件が発生した。

人は自分にとって都合の良い、自分の考えを肯定する情報を信じやすい傾向がある。ネット社会では、情報は基本的にユーザーが自ら収集するものであり、ウェブやSNSにおける検索やネット広告には推奨アルゴリズムが作用するため、特定の方向性の情報に興味を持つと、類似の情報が続々とユーザーに提供される。そして、仮にそれが誤った情報であっても、その方向性に関する情報が多く供給されることで確証バイアスが形成されやすくなる。人どうしの社会的な関わりがほとんどなくなったパンデミック下の巣ごもり生活の時期に、陰謀論を信じる人が増加したのはそういった背景も一因と考えられる。

気象レーダーが何らかの兵器だと信じるのも、5Gアンテナが新型コロナウイルスを拡散していると信じるのも、同じような思考による誤解から生じているのかもしれない。

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