チーム間では意見の相違も

F1ドライバーの背骨痛める激しい上下振動「ポーパシング」の解決策導入へ

Image:AlessioDeMarco/Shutterstock.com

自動車レース最高峰のF1では、今年の車体規則改定により、車体下面と地面の間により多くの空気を流し、そこから大きなダウンフォース(車体を路面に押さえつける力)が発生するようになった。このダウンフォースは、マシンのコーナリング速度を上げる効果がある。

しかし、シーズン前のテスト走行の段階で各チームは、マシンが高速で走行する際に、昨シーズンまではみられなかった激しい上下方向の振動が発生することに気づいた。これはマシン設計段階の風洞試験では発生しなかった問題だった。その後、シーズン開幕までに各チームはポーパシングと呼ばれるこの現象をかなり改善することに成功したが、一部のチームはいまだドライバーに負担を強いているのが現状だ。

そして先週末に開催されたアゼルバイジャンGPでは、昨年のチャンピオンチーム、メルセデスAMG F1チームのドライバー、ルイス・ハミルトン選手がレース後にマシンから降りることすらままならないほど疲弊した姿が国際映像に映し出され、この問題が浮き彫りになった。

現代のF1マシンは、車体と地面の間に取り込み圧縮された空気が後方から抜ける際に膨張、つまり気圧が低くなることで車体を路面に吸いつけつつ、後方に素早く空気が抜ける仕組みになっている。走行速度が大きくなるほど取り込む空気が増え、ダウンフォースも大きくなるものの、ある時点で取り込んだ空気を処理しきれなくなると空気が車体を押し上げてしまい、ダウンフォースが抜けてしまうのだ。

今問題となっているのは、このダウンフォースが抜けた状態から、すぐにマシンがエアを処理できる状態に戻り、再び車体が地面に吸い付く格好になって車体が沈むことだ。

サーキットのストレート区間を高速走行する際に、F1マシンは車体が路面に吸い付いては開放、吸い付いては開放と、このサイクルを激しく繰り返す格好になるため、ドライバーは上下に揺さぶられてしまう。

アゼルバイジャンGPでは、その上下動でドライバーにかかる加重が最大6Gにもなると伝えられていた。つまり、ドライバーは300km/hを超える速度で走行しながら、自体重の6倍の力で頭を叩かれ続けるような状態になっていると言えるだろう。

F1ドライバーたちが構成し、ドライバーの待遇や仕事環境改善などのために活動するグランプリドライバーズアソシエーション(GPDA)は、この問題について早急に改善するよう、アゼルバイジャンGP後にF1運営サイドに申し入れを行った。これに対し6月16日、国際自動車連盟(FIA)はポーパシング現象を改善するため技術指令「TD039」を発行し、改善計画を明らかにした。

この技術指令では、各チームはマシンのボトムに合板木材を貼り付けなければならないと規定している。レース中にマシンがポーパシングを起こし、ボトムが路面に繰り返し接触すると、この合板が次第に削れてしまう。FIAはこの合板の厚みが一定レベルを超えないよう各チームに指示した。この指令は即時効力を発揮し、今日6月17日に走行を開始するカナダGPから適用されるとのことだ。

またFIAはポーパシングの発生許容量について、カナダGPの期間中に行われる3度のフリー走行セッションで各チームからポーパシングに関するデータを収集し、最低地上高、ダンパーセッティング、スプリングレート、空力プロファイルといったパラメーターに安全な指標を打ち出すとした。

各チームは、車高を上げる方向でのセッティングや、タイヤの空気圧の変更、フロントウィングの角度調整などはまだ許されるが、ポーパシング対策で示された規定値を違反した場合、FIAはチームにマシンの車高を10mm程度上げるよう命令できるとのことだ。

ちなみにGPDAは、この問題についてドライバーの立場からFIAに改善を申し入れたが、チームそれぞれの思惑は大きく異なっている。ポーパシングは開幕前、どのチームにも同じように発生していたが、シーズンが始まるころには、多くのチームが目に見えて改善できていた。しかし、マシン設計を極端にコンパクト化したメルセデスAMG F1チームは、その分フロアを支える構造を得にくく、走行中に発生するダウンフォースでフロアが “しなる” 状態になってしまうため、ポーパシング抑制策がとりにくいと指摘されている。

一方、現在コンストラクターズ(チーム単位)ランキングで首位に立つレッドブルF1チームや、影響が少ない他のチームは、アゼルバイジャンGP後に規則変更反対の意向を示していた。レッドブルの立場で言えば、自分たちは解決できている問題なのに、それができないチームのためのルール変更を行うことは不公平だというわけだ。

いずれにせよ、激しい振動によって高速走行時にドライバーの集中力が削がれれば、大きな事故にもつながりかねない。安全あってこそのスポーツである以上、改善策の導入はやむなしといったところだ。

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