検出速度優先でも精度は9割

外科医すら見落とす脳腫瘍を10秒で判別。AIモデル「FastGlioma」をミシガン大学らが開発

Image:University of Michigan

ミシガン大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校が率いる研究チームは、外科医でも見落としがちな状態の脳腫瘍を高確率で発見できるAIモデル「FastGlioma」を開発したと、学術誌Natureに発表した。

このAIは、脳腫瘍の除去手術を行ったあとで、取り残された組織の量を約92%の精度で計測できるという。また、人間の医師がMRIスキャンや蛍光色素を使って脳腫瘍を検出する場合は25%近くを見落としてしまうのに比べ、FastGliomaが高リスクの残存腫瘍を見逃す割合はわずか4%弱だった。

さらに、このAIは脳腫瘍の確認を行う処理を最短10秒ほどの時間で完了できるため、脳腫瘍除去手術を手がける外科医にとって強力な助っ人になる可能性がある。

Image:FastGlioma

論文によれば、脳神経外科医が脳腫瘍を完全に除去できることはまれであり、そこには残存腫瘍と呼ばれるものが残る。この残存腫瘍は、腫瘍除去後にできた空洞の縁に沿って、健康な脳組織によく似た見た目で存在することが多いため、どうしても見逃されがちになってしまう。当然ながら、残った腫瘍はがんの再発リスクを高め、余命を短縮させ、再度の手術が必要になると研究者らは述べている。

ミシガン大学医学部の神経外科上級研究者であるトッド・ホロン博士は「FastGliomaは人工知能ベースの診断システムであり、(脳腫瘍の一種である)びまん性神経膠腫患者の包括的管理を即座に改善でき、脳神経外科の分野を変える可能性を秘めている」と述べた。さらに「現在の標準的な腫瘍検出法よりも迅速かつ正確に機能し、他の小児および成人の脳腫瘍診断にも応用できる」「この技術は、脳腫瘍手術の指針となる基礎的なモデルとして役立つ可能性がある」とした。

FastGliomaのAIモデルは、1万1000以上の手術標本と、健康な脳組織やがん腫瘍のユニークな顕微鏡写真400万枚を使用して、強化学習された。その能力を評価する試験では、研究者らは脳腫瘍の手術を受けた220人の患者から採取した、新鮮で未処理の検体サンプルを分析させた。

その結果、高解像度な検体サンプル画像を使用した場合、FastGliomaは約100秒以内に最大92%の精度で残存腫瘍を検出することができた。また、やや低解像度の画像を使う「高速モード」を使用した場合でも、90%の精度を維持することができたという。

この結果に関し、ホロン博士は「これはつまり、腫瘍の浸潤を極めて高い精度で、短時間で検出でき、手術中にさらに切除が必要かどうかを判断して外科医に知らせる能力があると言うことだ」と述べている。

ホロン博士はさらに、AIを他のがん種と健康な組織とを区別するために強化させることもできるとした。また、ミシガン大学医学部脳神経外科のアディティア・パンディ氏は「今後の研究では、肺がん、前立腺がん、乳がん、頭頸部がんなどの他のがんにFastGliomaワークフローを応用することにフォーカスしていく」としている。

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