「透けて見えるような~」ではなく「透けて見える透明な肌」

チートスの着色料で肌が透明に?マウスなら脳まで観察できたとの研究報告

Image:Alesia.Bierliezova / Shutterstock.com

「チートス」といえば、その食感の良さが好みの人にはたまらない人気のコーンスナックだ。そして研究者らは、そのチートスの代表的なフレーバーである「チーズ」に使われている黄色の食品着色料が、皮膚を透明にする作用があることを発見し、科学誌Scienceに報告した。

研究者らは、チートスやドリトスなどに用いられている着色料のタートラジン(日本では黄色4号などとも呼ばれる)をマウスの胃と頭部の皮膚に薄く塗布してみたところ、生きている状態のマウスの皮膚を通して、その内部組織を観察できるようになったという。Wall Street Journalは、研究者たちはマウスの筋肉の脈動や脳の血管まで見ることができたと伝えている

Image:Eric Isselee / Shutterstock.com

日々、おやつとしてなんとなく食べていたスナック菓子の着色料が体内に蓄積したおかげで、何年か後になって腹の皮下に溜まりまくった脂肪組織が透けて見えてきたりすれば、なんとも嫌な気分になることだろう。

食品に含まれる様々な着色料の取り扱いは国によって異なっており、ある国では日常的に使われているものが、別の国では何らかの懸念のために禁止されている、というケースもある。またそれらはときに、科学的な研究に用いられる場合にも悪影響を及ぼす可能性がある。

マウスの皮膚が透明になるという効果は副次的なものであり、特に研究分野では有用な効果であるように思える。しかし、スナック菓子に含まれる染料が、いったいどうやって動物の皮膚を透明にするのだろうか。

通常、皮膚組織は光を当てると、それをすべて反射や吸収するのでなく、散乱させる性質を持っている。明るい懐中電灯を手指に当て手反対側から見ると、うっすらと光が透過して見えるのはこのためだ。

光を透過するものには、すべて屈折率がある。屈折率とは、真空中の光の速度と、その物質を通過するときの実際の光の速度の比率で表される。

説明によると、動物の細胞は水の中に脂肪を保持する膜で構成されているという。そして、透明な水の屈折率は1.33だが、細胞膜の屈折率は1.4であるため、光の散乱が起こる。また組織にはさまざまな物質が含まれているため、その種類によって屈折率も異なり、さらに屈折率の異なる物質が隣接している。この屈折率の差が、光をさまざまな方向に散乱させ、皮膚を透明でないようにしているとのことだ。

ところがマウスの皮膚にタートラジンを塗布すると、この屈折率が細胞膜のそれに近づき、光を透過しやすくなった。具体的には、青色の光は皮膚に吸収されたものの、赤やオレンジ寄りの光は透過するようになったため、マウスの体内がオレンジ色に染まって見えるようになったという。

もちろん、屈折率を正確に一致させるのは困難であるため、透けて見える組織はやや不鮮明だった。しかし研究者らは、マウスの体のさまざまな場所を観察でき、もともと半透明なマウスの頭蓋骨のおかげで、生きたマウスの脳の内部を観察し、ニューロンの発火さえも観察できたとしている。また、研究者らは、侵襲的な処置なしで生きたげっ歯類の内臓を観察できたのはこれが初めてだと主張している。

この研究は、マウスを対象に着色料を塗布した実験しか行っていないため、この効果が人の皮膚でも有効に作用するのかは示されていない。ただ、もし人間に対して安全に利用できるようなら、ある程度はレントゲンやCTスキャンよりも手軽かつ詳しい検査を可能にするかもしれない。たとえば、血液検査の際に静脈を発見しやすくできるかもしれないし、色素を検出しやすくして刺青・タトゥー除去にも役立つ可能性が考えられる。

なお、研究メンバーのひとりであるスタンフォード大学のグオソン・ホン氏は、ヒトの皮膚は実験用マウスの皮膚に比べ10倍も厚いと述べている。そのため着色料の塗布だけで効果が現れるかはわからないが、研究チームは将来的に人体での効果を確認する日が来るかもしれないと述べている。

ちなみに、この研究で扱われた黄色4号の食品着色料は日本でも認可されており、ポピュラーな着力量として菓子・清涼飲料水や数の子などの食品から、ファンデーションなどの化粧品にも使われている。一方で、欧州の一部の国では使用が規制されている例もある。

関連キーワード: