移植順が巡ってくるまで生きるための人工心臓
磁気浮上ローター式の埋込型人工心臓、患者に初移植。弁不要で故障リスク低減
2013年から埋込型人工心臓を開発してきたBiVACORとテキサス心臓研究所(THI)は、米国食品医薬品局(FDA)が監督する初期の実現可能性調査の一環として、初めて患者への移植手術を行った。
心臓の内部には右心房と右心室、左心房と左心室という4つの部屋がある。それらの役割は、身体に酸素を届けて戻ってきた血液を一時的に蓄える右心房、右心房から取り込んだ血液を肺へと送り出す右心室、肺で酸素を補給し戻ってきた血液を一時的に蓄える左心房、それを身体中へ送り出す左心室という分担だ。そして、4つの部屋の出口には弁があり、血液が逆流するのを防ぐようになっている。
BiVACORの埋込型人工心臓は、心臓の構造をそのまま再現すると弁のような可動部分が摩耗してしまいいずれ故障してしまうのに対し、磁気浮上ローターを使って装置の血液循環機能を駆動することで、摩耗の問題を回避しているのが大きな利点だ。
これは初めての埋込型ではないが、リニアモーターカーと原理的に同じ磁気浮上の技術を使う初めての完全人工心臓(Total Artificial Heart)だ。
チタン合金を使用し、拳ほどの大きさに作られたTAHは、充電式の小型外部コントローラーの操作により動作し、毎分12リットルの血液を送出する能力がある。これは成人男性が運動するのに十分な血液循環量だとさる。また、他の人工心臓は血液を送り出すために柔軟なポリマー製ダイヤフラムを使用しているが、BiVACORは、そのような部品は開閉を繰り返す打ちに摩耗していくが、BiVACORの人工心臓ではその心配はなく、より長期間能力を維持できる可能性があると話している。
ただ、そうは言ってもこの人工心臓は埋め込めばそのまま永続的に使い続けることを目的としておらず、現段階では、やはり長くなる心臓移植までの待ち時間を生きながらえられるようにすることを目的としている。
BiVACORの創設者兼CTOであるダニエル・ティムズ氏は今回の初めての患者への移植について「このTAHの開発により、重い心臓病を患う人々が移植を待つあいだ、切実に必要とするであろう選択肢を提供することに一歩近づくことができた。臨床試験の次の段階を継続することを楽しみにしている」と述べた。
高齢社会化が進み、心不全の新規発症数も右肩上がりに増加している。現在、より長期使用が可能な埋込型人工心臓の実用化は日本でも求められており、国立循環器病研究センターでは動圧軸受を用いた軸流ポンプ型の補助人工心臓を開発している。
- Source: The Texas Heart Institute(1) (2) BiVACOR
- via: New Atlas