飲尿健康法とは違います

“汗や尿から飲み水をつくる”宇宙服システム、米大学が開発。映画『デューン』着想

Image:Claire Walter

飲尿健康法などという民間療法が20年ほど前に日本でも話題になったことがあるが、汗や尿などの身体から排泄される液体のほとんどは水分である。そして、宇宙空間では水ほど貴重なものはないと言っても過言ではない。

SF映画『デューン』の世界では、砂漠の惑星アラキスで人々が使用する「スティルスーツ」という便利な衣服が登場する。このスーツを着る人々は、汗や尿を吸収し、それを濾過して飲めるようにすることで、体の貴重な水分を保つことが可能だ。

一方、宇宙飛行士が着る宇宙服の場合は、真空に近い宇宙空間から飛行士の身体を守るための気密性を維持する能力はあるものの、身体から出た水分を回収する機能はない。飛行士は長時間にわたる船外活動(EVA)の際は「Maximum Absorbency Garment」(通称MAG)と呼ばれるパンツを着用するが、機能的には “おむつ” にほかならず、使用済みのMAGはそこに吸収された貴重な水分とともに廃棄される。

2021~2023年に国際宇宙ステーション(ISS)で行われたEVAは37回あり、その平均時間は6時間26分だった。長い場合は8時間を超えることもある。その間に体外に排出された水分は、すべて失われることになるわけだ(実際には、EVA前に飛行士は用を済ませ、MAGがその目的に使われることはほとんどないそうだが)。

コーネル大学の研究者ソフィア・エトリン氏は、「スティルスーツ」に着想を得て、宇宙服内で回収した尿を濾過し、飲料水化するシステムを開発している。このプロジェクトに関する論文は最近、Frontiers in Space Technologiesに掲載された。

エトリン氏のシステムでは、飛行士は改良されたMAGを着用する。このMAGには、男女それぞれに使用可能な液体回収カップが組み込まれており、湿度センサーによって排出が検知されると、ポンプが作動してカップの裏地から液体を吸引、バックパックに収められた順浸透および逆浸透ろ過システムに送り込んで、塩分やその他の成分と純粋な水分を分離する。

そして、得られた精製水には電解質を加え、長時間かかる船外活動の間に、飲料として身体に補給できるようにする。

Image:Karen Morales

現在の試作版では、38x23x23cm、8kgほどのバックパックに水分回収ユニットが収められている。このユニットでは、500mlの液体を回収して再び飲料水化するのに、5分程度の時間がかかるとのこと。また現在のところ水分の再利用率は87%であり、実用化にはさらなる改良が必要だろう。

現在の宇宙服にも飲料水パックは備えられているが、エトリン氏のシステムの改良が進み、定期的に再利用水をパックに補充できるようになれば、その容量はもう少し小さくできるかもしれない。

エトリン氏は近い将来、自身の発明が宇宙服に採用されると確信している。しかし、この装置を可能な限り快適なものにするには、宇宙飛行士による協力も必要になるとエトリン氏は述べている。そして「現在のものはとても時代遅れになっているのに、誰もこれについて何もしていないというのはちょっとおかしい。新しいシステムの推進に自分が貢献できればと思う」とした。

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