【連載】佐野正弘のITインサイト 第111回
LINEMOの「ベスト」プランは、楽天モバイルの「最強」への対抗策なのか
2023年にソフトバンクブランドで「ペイトク」、ワイモバイルブランドで「シンプル2」と、立て続けに料金プランの変更を発表したソフトバンク。だが同社のもう1つのブランド「LINEMO」に関しては、料金プランに動きが見られずその行方が不安視されていた。
“10GBまでなら最安”の料金プラン「ベストプラン」発表
そこで昨日6月6日、ソフトバンクは発表会を実施し、LINEMOの新料金プラン「LINEMOベストプラン」「LINEMOベストプランV」を、7月下旬以降に投入することを明らかにしている。この料金プランは、現行の料金プラン「ミニプラン」「スマホプラン」に代わって提供されるもので、使用した通信量に応じて料金が変化する、段階制の仕組みを採用したことが大きな特徴となる。
LINEMOベストプランの場合、通信量が3GBまでの月額料金は従来のミニプランと同様、990円となる。だが、同じ月に3GBを超過して利用した場合、ミニプランでは料金が変わらず速度制限がかかっていたが、LINEMOベストプランでは料金が2,090円に上がり、10GBまで高速データ通信を利用できる。
一方のLINEMOベストプランVは、通信量が20GBまでの料金が月額2,970円となり、それを超過すると3,960円に料金はアップするが、30GBまでは高速データ通信が可能だ。いずれも段階制を採用したことで、従来通りの低価格を維持しながらも、データ通信を多く使用した月も手間なく高速通信を維持できることがメリットとなるようだ。
ちなみにLINEMOベストプランVの月額2,980円という料金は、現在のスマホプランの料金(月額2.728円)より上がっているように見える。だがLINEMOベストプランVは、スマホプランでは月額550円のオプション扱いとなっていた、5分以内の国内通話が無料になる「通話準定額」がセットになっているので、そのことを考慮すれば安くなったと見ることもできる。
段階性のベストプラン導入に至った背景
同日に実施された記者説明会では、ソフトバンクの専務取締役 コンシューマ事業推進統括の寺尾洋幸氏が、LINEMOベストプランの導入に至った理由について説明。見直しの発端は、小容量であるLINEMOのミニプランで、3GBの通信量上限を超える人が増加傾向にあることであったという。
実際同社が提示した資料では、2024年4月時点で3割以上のユーザーが超過しているとのこと。動画の利用増加などにより、利用者のデータ通信量が全体的に増加傾向にあることが要因と考えられる。実際寺尾氏はソフトバンク全体の動向として、小容量のワイモバイル・LINEMOから大容量のソフトバンクブランドに移るユーザーが増加傾向にあると説明。大容量から小容量のブランドに移るユーザーと拮抗する規模になってきているという。
ただ、全ての人が大容量通信を求めているわけではなく、現在もスマートフォンユーザーの4人に3人は月当たりの通信量が10GB以下とのこと。そこで、ミニプランの利用者がユーザーがLINEMOから離脱しないためにも小容量プランの強化が必要だとして、LINEMOベストプランでは10GBまで利用できるよう、段階制の仕組みを採用するに至ったようだ。
LINEMOベストプラン、LINEMOベストプランVは共に、従来のLINEMOのプランと同様、契約に際する制約などはなくシンプルさを維持。後者は通話定額の仕組みが加わった分値段が上がったとはいえ、料金水準もおおむね維持されている印象だ。ただ一方で、寺尾氏は適切な料金水準でサービスを維持するためにも、新料金プランで2つの制約を新たに加えたという。
1つは、データ通信量を超過した後の速度制限で、LINEMOベストプランの場合月当たりの通信量が15GBを超過、LINEMOベストプランVでは45GBを超過した場合、通信速度が128kbpsに低下するという従来以上に厳しい制限がかけられるとのこと。ワイモバイルのシンプル2でも同様の仕組みが導入されており、ネットワークの公平性の観点からも、低速になってもなおデータ通信を大量に使い続ける人には、一層厳しい制約をかけるに至ったようだ。
そしてもう1つは契約解除料の導入で、加入当月に解約すると990円の解除料がかかるという(8日間までの契約キャンセルは除く)。これは携帯各社が実施している、番号ポータビリティ(MNP)での転入者に向けたスマートフォンの値引き販売を目当てとして、低価格のプランを契約直後、非常に短い期間で他社へ転出してしまう、いわゆる「MNP弾」を防止するための措置となる。
2019年の電気通信事業法改正で、契約期間を長期間拘束する割引に対して非常に厳しい規制がかけられたことで、解約が容易になり短期間での契約・解約がとてもやりやすくなったことから、MNP弾のような行為が大幅に増えて携帯各社を悩ませている。それだけに寺尾氏も、「業界全体で(MNP弾のような行為を)阻止しないといけない」と話し、ごく短期間での解約には法律で可能な限り厳しい解除料を設定したとしている。
無論、こうした措置の対象となるのは非常に悪質な使い方をしている人に限られる。それゆえ、大半のユーザーは一連の措置の影響を受けることはないので、自衛のためにも妥当な措置といえるだろう。
一方で、気になるのは楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」をかなり意識した内容のように見えることだ。段階制の料金プランはRakuten最強プランが先に採用しているものであるし、サービス内容にはだいぶ違いがあるとはいえ、3GBを超えると料金が変わるという仕組みは共通している。
加えて一部の記者からも、「ベスト」という名前が「最強」を意識したものではないのか?という声が挙がっていた。サービス内容から名称に至るまで、どうしても楽天モバイル対抗というイメージが強い印象を与えてしまっていることは確かだろう。
ただ寺尾氏は「常に業界全体の競争環境を見ているが、一方で顧客ニーズにも応えなくてはいけない」と、必ずしも楽天モバイルだけを意識して提供されたプランという訳ではない様子を示している。その上でソフトバンクが見据えているのは、より大きな視野での競争軸であるようだ。
具体的に言えば、「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEMO」といった3つのブランドを活用し、LINEヤフーやPayPayなどと構築を進めているソフトバンクの経済圏に、いかに顧客を留め続けられるかということ。そのためには、家族に重きを置いたソフトバンクやワイモバイルブランドでは取りこぼしてしまう、小容量を求める単身者を取り込む基盤としてLINEMOを強化する必要があったといえそうだ。
ただ経済圏の強化という意味でいうと、LINEMOでは未だにLINEヤフーの「LYPプレミアム」を提供できていないなど、他にも課題はいくつか存在している。新料金プランで改良が進んだLINEMOだが、ソフトバンクの経済圏を担う存在として存在感を高める上では、まだ超えるべき壁は多いといえそうだ。