宇宙開発も環境を考慮する時代

木造人工衛星「LignoSat」今夏打上げへ。再突入時の汚染物質発生軽減に期待

Image:Kyoto University/Gakuji Tobiyama

京都大学は昨年、国際宇宙ステーションで10か月にわたる木材サンプルの宇宙暴露試験を完了した。これは研究開発中の人工衛星「LignoSat」の骨格となる木材を選定するための実験だった。

実験に使用された木材はヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバで、宇宙での暴露実験から持ち帰られた木材は強度試験や元素組成、結晶構造の分析などが行われ、最終的にマグノリアとも呼ばれるホオノキ材が、特に割れにくく高い安定性を示したことから、LignoSatの機体に使用されることが決まった。

元宇宙飛行士で、現在は京都大学大学院総合生存学館SIC有人宇宙学研究センターで宇宙開発に関わる研究を行っている土井隆雄氏は「地球の大気圏に再突入するすべての人工衛星は、燃焼して微少なアルミナ粒子を生成する。その粒子は何年にもわたって大気圏上空に浮遊することになる」と述べている。

また、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学によって行われた研究では、再突入した衛星が燃え尽きる際に発生するアルミニウム成分が、太陽の紫外線から地球を守るオゾン層の深刻な破壊を引き起こす可能性があると指摘されている。

Image:Kyoto University

そして、LignoSatの研究は、将来的に地球環境に影響を与えるかもしれないこの問題に取り組むため、金属ではなく木材による人工衛星の構築を実現しようとしている。

最初の実験は、地上の実験室内に宇宙空間を再現した状態で行われた。この実験では、木材サンプルには測定可能な質量の変化や分解、損傷の兆候などは発生しなかった。

次に、これらの木材サンプルはISSへと持ち込まれ、冒頭に述べた10か月の暴露試験が行われた。実際の宇宙空間への暴露を経ても、木材が劣化の兆候を示すことはなかったとのことだ。このプロジェクトの責任者である京都大学教授の村田功二氏は、このことについて、宇宙空間には木材の燃焼を引き起こす酸素や、腐食させる微生物が存在しないことなどが理由として考えられるとした。

今回、テストされた木材サンプルのなかでも最も堅牢であったホオノキ材は今年の夏に打ち上げを予定しているLignoSat2の構築に使用されることになる。村田氏は、LignoSat2の目的のひとつは、宇宙空間における木造構造物の変形の度合いを調べることだと説明し「木材は、一方では耐久性があり安定しているが、もう一方で寸法の変化や亀裂が生じやすい可能性がある」と述べている。

まだ打ち上げに使用するロケットは決定されていないが、もしLignoSat2が軌道上の運用で良好なパフォーマンスを発揮できれば、以後、より多くの衛星の構築用資材として木材が使われるようになる可能性も考えられる。

そして、それらの人工衛星は、寿命が尽きて大気圏に再突入した際にも、大気圏上層部にアルミニウム成分をまき散らし大気汚染化したり、オゾンホールが出現するのを防止できるかもしれない。

ちなみに、近年はSpaceXのStarlink衛星コンステレーションのように、インターネット用の小型衛星が一度に大量に軌道に送り込まれるようになった。これらは寿命を迎えては大気圏に再突入して消滅する(一説には1日約2トンが落下するとも言われている)ため、大気圏上層部の汚染が進む可能性が指摘されている。

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