【連載】佐野正弘のITインサイト 第15回
5万円台で上位機と同チップの「Pixel 6a」。Googleがスマホ戦略を大きく変えた理由
米グーグルが、2022年5月に実施した「Google I/O 2022」で新デバイスの1つとして発表した、スマートフォン「Google Pixel 6a」。他の「Pixel 6」シリーズと同様、チップセットにグーグル独自の「Tensor」を搭載し高い性能を実現しながらも、「a」が付くことからもわかるように、他のPixel 6シリーズと比べ価格を抑えたモデルとなることから注目されていた。
そのPixel 6aは、日本でも7月28日に発売されることが既に明らかにされており、他のPixel 6シリーズと同様、グーグル自身が販売するだけでなく、KDDIのauブランドとソフトバンクからも販売される予定だ。発売が迫り、グーグルはメディア向けに説明会を実施。改めてPixel 6aの詳細について説明した。
5万円台の新スマートフォン「Pixel 6a」
同社のプロダクトマネジメント・ディレクターであるソニヤ・ジョバンプトラ氏によると、Pixel 6aは「プレミアムエントリーデバイス」という位置付けになるとのこと。先にも触れた通り、Pixel 6aに搭載されたTensorは他のPixel 6シリーズと同じものであり、その性能も共通している。
ちなみに、前シリーズの「Pixel 5」と「Pixel 5a(5G)」は、共にクアルコム製の「Snapdragon 765G」を採用していたが、これはハイエンドより1つ下、ミドルハイクラス向けのもの。一方でTensorは、性能重視のハイエンド向けチップセットであることから、Pixel 6aの性能がプレミアムであることに間違いないだろう。
それでいて価格は5万3,900円からと、Pixel 6(7万4,800円)やPixel 6 Pro(9万9,800円)と比べるとかなり抑えられている。5万円台のスマートフォンは、ミドル~ミドルハイクラスのチップセットを搭載していることが多いだけに、ハイエンドクラスの性能を5万円で購入できるとなれば、お買い得さはかなり高い。
上位モデルとは異なる、いくつかの性能の違い
ただ価格を抑えている分、性能面では上位モデルと比べ、いくつかの違いがあるようだ。1つはディスプレイサイズが6.1インチとよりコンパクトになっていること、2つ目はRAMが6GBに減らされていることだ。
そしてもう1つ、大きな違いとなるのが背面カメラだ。Pixel 6/6 Proは共に、5,000万画素の広角カメラと1,200万画素の超広角カメラ、Pixel 6 Proはそれに加えて4,800万画素の望遠カメラも搭載していたが、Pixel 6aは広角カメラの画素数が1,220万画素と、性能を抑えたものを採用することでコストダウンを図っているようだ。
ただPixel 6aはTensorを搭載していることから、Tensorが得意とするAI技術を活用し、写真の中の不要なものを除去する「消しゴムマジック」や、特定の物の色を変更できる「カモフラージュモード」など、充実したカメラ機能を利用できる。Pixelシリーズは元々、コンピュテーショナルフォトグラフィーに力を入れてきただけに、引き下げられたカメラ性能をTensorを生かしたソフト技術で補うというのが、Pixel 6aのカメラに対する考え方といえそうだ。
これらPixel 6aとPixel 6/6 Proとの違いを比べてみると、グーグルはPixel 6シリーズで、スマートフォン戦略の大幅な転換を図っているのではないかと筆者は感じている。
従来のPixelシリーズはカメラ性能を共通化し、そこにコンピュテーショナルフォトグラフィーを取り入れて、どの機種でも同じ撮影体験を実現することに重きを置いてきたが、先にも触れた通り、Pixel 6aはカメラの性能で上位モデルと明確な差が付けられており、従来のPixelシリーズとは異なる方針で開発された印象を受けるのだ。
チップセット共通化を促す、独自開発の「Tensor」の存在
一方でチップセットは、性能の高いTensorを全モデルに搭載し、スマートフォン上での体験の共通化を図ることに力を注いでいることが分かる。なぜカメラではなく、チップセットの共通化に注力しているのかを考えると、それはTensorの存在があるからだろう。
Tensorは、他社から調達してきた従来のチップセットとは異なり、グーグルが独自開発したものだが、1つあたりのコストを抑えるには大量に製造する必要があり、そのためにはより多くの機器にTensorを搭載して販売数を増やす必要がある。一方でTensorはAI関連処理の性能を強化し、他社製スマートフォンなどと差別化するために開発されたものなので、他メーカーに販売することは考えていないだろう。
そうなると、Tensor搭載デバイスの販売を増やすには、自社製品のラインナップを拡大する必要がある。そこでグーグルは、Pixel 6/6 Proの発売から時間を空けて差別化を図りながらも、同じTensorを搭載しながら、より安価なPixel 6aを販売するに至ったのではないかと考えられる。
しかもグーグルは、Pixel 6aが発表されたGoogle I/Oの場で、タブレット「Pixel tablet」を2023年に発売し、そちらにもTensorを搭載する予定であることを明らかにしている。こちらもTensorの搭載でAI関連技術による差別化を図るだけでなく、Tensorを採用するデバイスの幅を広げて、Tensorそのものの販売を増やすことが大きな狙いといえるだろう。
そして同様の戦略は、競合のアップルが取っているものでもある。アップルは独自のチップセット「A」「M」シリーズを開発しているが、それらを大量に製造し、複数のデバイスへ複数年にわたって横展開することで低コスト化を実現している。元々Mac向けに開発された「M1」を例に挙げると、翌2021年には「iPad Pro」シリーズに搭載されており、2022年にはより低価格の「iPad Air」にも搭載するなど、横展開によって販売数を増やしている様子を見て取ることができるだろう。
ここ最近、スマートフォンの差別化要素が少なくなってきたことから、大手メーカーを中心として、あえて汎用のチップセットを用いずに独自の半導体を開発し、それをスマートフォンの差異化要素とする動きが急速に広がっている。
それだけに、今後スマートフォンメーカーが勝ち抜くことを考える上で、開発した半導体をどう活用するかという、やや長い目線でのロードマップ戦略も問われることになりそうだ。