AIだけで小国級の電力消費になる?
AI産業の莫大な電力消費、4年以内にオランダやスウェーデンに匹敵するとの報告
昨年以来、OpenAIのChatGPTやMidjourneyの画像AIなど、生成AI市場の成長は著しい。しかし、この成長の裏には、心臓部であるAIモデルを強化学習させるために、AIの開発者は高性能なGPUのクラスターを回し、莫大な電力を消費している。
このようなコンピューティングニーズが拡大するにつれ、エネルギーコストが急激に増大し、さらにGPUなど高性能チップのサプライチェーンにも影響を及ぼす可能性も懸念されている。
アムステルダム自由大学のオランダ人研究者アレックス・デフリース氏は、学術誌Jouleに掲載された研究で、生成AI技術の急成長により、2027年には人工知能関連の活動が消費する年間電力需要が、小さな国と同等レベルにまで増加する可能性を指摘した。
デフリース氏によると、たとえばニューヨークのAIアプリケーション関連企業Hugging Faceは、同社のAIモデル「BLOOM」の強化のために、433MWhを消費した。また、GPT-3、Gopher、OPTといったモデルはそれぞれ、強化のために1287MWh、1066MWh、324MWhを消費したと報告されている。
ミシガン大学の電気工学およびコンピューター科学准教授、モシャラフ・チョードリー氏は、GPT-3 モデルの強化のために使われた1287MWhという電力量は、米国の平均的な家庭1件を120年まかなうに十分な量だと述べている。
しかし、デフリース氏はAIが電力を消費するのは学習の最中ではなく、むしろ生産を開始して新たなデータに基づいて出力を生成するときのほうだと、NVIDIAとGoogleのデータを引用して述べ、「Googleの親会社Alphabetも、トレーニングのコストと比較した推論のコストについて懸念を表明している」と研究で報告した。
現在、1日最大90億件もの検索を処理しているGoogleが、自社の検索エンジンにAIを搭載すれば、年間約30TWhの電力が必要になるとデフリース氏は試算している。これはアイルランドの年間電力消費量にほぼ匹敵する。Googleは自社の電子メールサービスに生成AIを組み込んでおり、AIによる検索の強化も試験中だ。
したがって、近い将来急速に成長すると予想されるAIサーバーの生産速度の予測では、2027年までに世界のAI関連の電力消費量は年間85~34TWhにまで増加する可能性がある。これは冒頭に述べたように、オランダ、スウェーデン、アイルランドといった比較的小さな国の年間電力消費量に匹敵する規模だ。
いま世界中の企業が、AIハードウェアとソフトウェアの効率化やエネルギー消費量削減に取り組んでいる。だが、そうして努力してもジェボンズのパラドックスのように、かえって需要を増大させるだけの結果になる、とデフリース氏は主張している。
AIは産業の革命から日常生活の向上まで、信じられないほどの可能性をもたらす。一方で近い将来、われわれはそのエネルギー消費を注意深く管理する必要が出てくるかもしれない。