声は歌手の財産

著名人の声を無断使用する「AIカバー曲」、Googleが音楽レーベルと“著作権ライセンス”検討中

Image:Phonlamai Photo/Shutterstock.com

Googleとユニバーサルミュージックが、人工知能を使って音楽アーティストの声やメロディをそっくりに模倣して生成する「AIカバー」の楽曲に対して、著作権の使用ライセンスを供与するための枠組みを作ることを協議している。

Googleとユニバーサルによる議論はまだごく初期の段階だが、状況に詳しい人物によると、ファンがAIで模倣したアーティストの声を使用した楽曲を正当に作成し、著作権所有者に対して必要な支払いを行うための枠組みを構築することを目指しているという。またアーティスト本人は、自身のAI音声を第三者に使わせるかどうか、選択できるようにするとのことだ。

これは今年4月に、ラッパーのドレイクの声を模倣した「フェイク・ドレイク」が他のアーティストの楽曲を歌う動画が、音楽ストリーミングサービスやYouTubeなどで人気となり、社会的にも認知されるまでに至ったことが発端となっている。

フェイク・ドレイクのケースでは、原曲のボーカル部分をAIで模倣・生成したドレイクの声で置き換え、まるで本物による歌唱のように聞こえるレベルに仕上げている。そのため何も知らずにこれを聴けば、本人によるカバーと誤認することもあり得るだろう。また、これがニュースになったことで、同じようにAI模倣音声で音楽を製作し公開する例が増え、いまではYouTubeなどで数え切れないほどの「AIカバー曲」がアップされている。

たとえばクイーンのフレディ・マーキュリー、マイケル・ジャクソン、フランク・シナトラなどは、無数にAIカバー曲が作られているアーティストのひとりだ。いずれも非常に高い人気を誇った歌手ながらすでに鬼籍に入っているため、AIカバーでもいいから新たな音源を聴きたいという心理が作用しているのかもしれない。

ネタ的な例では、AIドナルド・トランプとAIジョー・バイデンによるデュエット曲や、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する悪役「ディオ」の声を模倣したAI音声がヘヴィメタルバンド「Dio」の楽曲を熱唱するものもある。

ユニバーサルミュージックの法務担当は、7月に米国の議員に対して「アーティストの声は彼らの生計と公のイメージの中で最も価値を持つ部分であり、それをどのような手段であれ奪うことは間違っている」と述べている。

一方、ワーナーミュージックのロバート・キンクルCEOは、投資家との会話でAIによるアーティストの模倣は「適切な枠組みが整っていれば」と前置きしつつ「ファンがAIカバーやAIを駆使したマッシュアップといった新たなユーザー駆動型コンテンツでもって、彼らの好きなアーティストに最高の賛辞をおくれるようになるかもしれない」と語った。

初期のYouTubeでは、動画を公開する人々が、そのBGMにそれぞれが好きな楽曲を追加していた。音楽レーベルはYouTubeに対して著作権の侵害に当たるとし、最終的にYouTubeが音楽著作物に関する包括的契約を各レーベルと結んだことで、一応の決着を見た。今回のAIカバーの問題も、当時と同じような状況と言えそうだ。

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