減量中に強化されてしまった空腹シナプスを沈静化

ダイエットとその後のリバウンド回避がもっと簡単になるかもしれない研究

Image:Lee Charlie / Shutterstock

過去にダイエットで何kgか落としたことがある人なら、その後の体重維持がいかに難しいかをよくご存じだろう。体重のコントロールは、ホルモンや代謝、神経などの要因もあり、意思の力でどうこうというよりも、生物学的な問題である可能性の方が高い。世界のダイエット商品市場は2022年で2344億ドルといわれており、さらに2030年までに4716億ドルにまで達すると推定されている

多くの人が直面するのは、ダイエットのために行ったカロリー摂取制限の反動による“ヨーヨー現象”だ。やっとの思いで減量に成功したとしても、大半の人は2年以内に、平均して減らした体重の半分を、5年後には8割を再び脂肪として身体に蓄えてしまうという。そうなれば、周囲の人からは、結局リバウンドしてしまったと見なされることが多く、本人も身体的また心理的に辛い気持ちになってしまう可能性がある。

独マックス・プランク代謝研究所(MPIMR)とハーバード大学医学大学院の研究者らは、人の脳は減量を経験すると神経回路が大きく変化し、飢餓感を司る神経に強い信号が送られることを発見し、科学ジャーナルCell Metabolismに報告した。この信号を抑制することができれば、減量後もその体重を維持する薬を開発し、身体がその体重に落ち着くまで、リバウンドを抑えられる可能性がある。

MPIMRの研究者Henning Fenselau氏は、これまでの研究は主にダイエット直後の短期的な効果ばかりを対象としていたと指摘し、「われわれは長期的に脳内で起こっている変化を調べたかった」とこの研究について述べている。そして、実験用マウスに減量をさせるとともに脳の活動をモニタリングし、視床下部にあるAgouti-Related Peptide(AgRP)と呼ばれるニューロンを詳しく調べた。AgRPは空腹感をコントロールするニューロンとして知られており、これを刺激すると急激に食物摂取量が増加することがわかっている。

今回の研究においては、マウスが減量のための食事制限を受けているときにAgRPニューロンを活性化する神経回路が増幅され、減量後もその増幅された状態が続くことで、常に空腹を感じるシグナルが脳に伝えられていることがわかった。

ハーバード大学のBradford Lowell氏は「今回の研究で起こっているのはシナプス可塑性と呼ばれるプロセスであり、これら2つのニューロン間の物理的な神経伝達物質の接続が、ダイエットや減量によって大幅に増加し、これが長期にわたる過剰な空腹をもたらすことがわかった」と述べている。ちなみにシナプス可塑性とは、人が何かを暗記したり、計算をしたりするとき、また運動の練習など、“何かを習得する”際に、同じ動作や失敗を繰り返しつつ、正しい方法を身につけていく時に機能する脳の作用を指す言葉だ。

今回の研究、つまりダイエットにおいては、体重を減らす過程で空腹を感じるAgRPが繰り返し刺激されたことで、それが大きく活性化した。そして、研究者らがこのニューロンへのシグナルの伝達を阻害するようにしてみたところ、AgRPの活性状態が沈静化し、マウスは食物摂取への反応が穏やかになったという。これはつまり、ダイエット後のリバウンドを抑制する効果につながるということだ。

Fenselau氏は「この研究結果は、長期的に見てヨーヨー現象を抑えられるようになるかもしれない」「マウスでなく、人でもAgRPが増幅されるメカニズムをブロックする方法を発見し、ダイエット後の体重維持を楽にする治療法を見つけ出すことがいまのわれわれの目標だ」としている。

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