【連載】佐野正弘のITインサイト 第233回
1100万回線突破、「通信に不安」も“楽天モバイルの好調”が続く要因
KDDIとのローミング契約更新で利用できるエリアや通信品質が大きく変化するなど、さまざまな課題が生じている楽天モバイル。だが契約の伸び自体は好調で、2026年9月24日にはMVNOによるサービスも含む全契約数が1,100万回線を超えたことを明らかにしている。
そのうちMVNOによる契約や、BCP(事業継続計画)用の回線などを除いた、携帯電話会社としての純粋な契約数も1,018万回線と、既に1,000万回線を超えている状況にある。2025年末に1,000万契約を超えて以降も、順調に契約数を伸ばしていることは間違いない。

そうした楽天モバイルの好調ぶりは、各種調査からも見えてくる。携帯各社の通信品質調査で知られる英Opensignalのレポートによると、日本の携帯大手による市場の中で、楽天モバイルのシェアは約6〜7%程度ながらも、他社からの乗り換えによる新規契約獲得シェアは約13%に上っているという。
Opensignalによると、楽天モバイルの成長には、1つに低価格でデータ通信が使い放題になる「Rakuten最強プラン」のような、競争力のある料金プランが影響しているという。競合3社が相次いで料金値上げを実施する中、楽天モバイルは2025年にRakuten最強プランを当面「値上げしない」と宣言して以降、現在に至るまで値上げは実施していない。
ただ、価格だけが同社の強みではないとOpensignalは見ているようだ。実際、NTTドコモ、au(KDDI)、ソフトバンクとの転入・転出を比べた場合、3つの事業者で加入者1人が転出するごとに、楽天モバイルは1.83人の加入者を獲得しているというが、それに加えて競合のサブブランドやオンライン専用ブランドと見られる「同程度の価格帯で競合するブランド」に対しても、転出1件当たり1.31件の契約を獲得しているという。

それゆえOpensignalでは、「加入者増加が価格競争力だけでは説明できない」としており、他の理由としてネットワーク品質の継続的な改善も挙げている。同社の分析データによると、楽天モバイルの5G通信における平均速度が、2025年8月からの1年間で約22%短縮されているほか、契約数が急増する中でも「一貫した品質」は一定して維持されているとのことだ。
そしてもう1つはサービスであり、楽天モバイルが力を入れる楽天グループ各社のサービスとのシナジー、そして「楽天経済圏」のエコシステムが大きく影響している可能性が高い。別の調査会社であるMMD Labo代表の吉本浩司氏も、同社が2026年10月22日に実施した記者勉強会で、楽天モバイルユーザーへのアンケートからコストパフォーマンスの高さに加え、楽天経済圏の存在が利用者に高く評価されていると話していた。
物価高の昨今にあって、Rakuten最強プランの価格面での魅力が非常に大きいことは確かであるし、「楽天市場」など楽天グループのサービスを多く利用し、「楽天ポイント」を獲得して節約に生かしている人ならば、一層楽天モバイルを利用することのメリットが大きいことは間違いない。「全くつながらない」となれば話は変わってくるだろうが、そこそこの通信品質を維持してくれるならば、コストパフォーマンスの方を重視したいという人達が楽天モバイルを選んでいる様子が見えてくる。
それだけに楽天モバイルは契約拡大に一層まい進する姿勢のようで、2026年10月30日にはコンビニエンスストア大手のファミリーマートと連携し、「ファミマまるごとメディア」を活用してファミリーマート店舗の駐車場に「楽天モバイルキャラバンカー」を出店するという、新たな施策を始めている。

「ファミマまるごとメディア」とは、ファミリーマート店内のデジタルサイネージによる動画広告配信と、店舗駐車場などを活用したリアル体験イベントをワンストップで提供するもの。楽天モバイルはその仕組みを活用し、同社の実店舗が近くにないエリアで、ファミリーマートの駐車場に臨時の店舗を出店し、楽天モバイルのサービスや製品を案内するという。
まずは東京都と和歌山県に計4店舗を出店し、2026年10月30日から11月28日まで展開。その後の展開については未定だというが、楽天モバイルではより広範囲での出店を前向きに考えている様子だ。

携帯電話会社にとって実店舗は契約を増やす上で重要な拠点となるが、後発である楽天モバイルの実店舗は競合より少なく、様々な形での店舗展開を模索してきた経緯がある。それだけに、以前から協力関係にあるファミリーマートとの連携で、実店舗を展開できていないエリアの契約獲得につなげられれば、同社の契約獲得に大きなメリットとなることは間違いない。
楽天モバイルにとって契約の拡大は売上の拡大、ひいては悲願でもある黒字化の実現にも近づくことから、今後も様々な策を講じて契約獲得にまい進していくことになるだろう。ただ依然として懸念材料も多く、KDDIのローミングエリア縮小による通信品質の低下は、やはり大きな課題だ。
実際、Opensignalによる先のレポートに、2026年10月のローミング契約変更の影響は反映されていない。それゆえ今後、ローミングエリア縮小の影響が急速に出てくる可能性もないとは言い切れないだろう。
その楽天モバイルの隙を突いて顧客を奪おうとする動きが進んでいることも見逃せない。そのことを示しているのが「副回線」、さらに言えばKDDIのオンライン専用ブランド「povo」である。
povoは維持費が実質的にかからないプリペイド方式であること、そしてスマートフォンに2つのSIMを搭載し、2つのネットワークを利用できるようになったことを生かし、2026年6月から副回線としての利用を拡大するキャンペーンを実施。それに加えてテレビCMを積極展開するなどして、副回線の利用拡大に大きく踏み切っている。

一連のpovoの動きは、楽天モバイルを狙い撃ちするものとして注目されている。実際、MMDLaboが実施した調査でも、主回線に楽天モバイル、副回線にpovoを選ぶ人が多かったとされているし、Opensignalの調査でも、競合各社のブランドが楽天モバイルに契約を奪われている中にあって、povoブランドだけは楽天モバイルと互角の争いをしているという。
povoが副回線を強化する狙いは、利用者に通信品質の良さを実感してもらうことで、将来的に副回線から主回線への変更を促すためだ。それだけにpovoを利用する楽天モバイル回線ユーザーが増えることは、楽天モバイルが大きな懸念材料を抱えることにつながってくる。

さらに言えばもう1つ、昨今の物価高は楽天モバイルにも着実に影響を与えており、Rakuten最強プランの料金をいつまで維持できるかが不透明だというのも、大きな懸念材料である。コストパフォーマンスで獲得した顧客は、コストパフォーマンスで他社に流出する可能性が非常に高いだけに、楽天モバイルが現在の料金水準を維持できるかという点も、今後の競争を見据える上で重要なポイントになるだろう。
楽天モバイルが非常に好調であることは間違いないが、だからといって同社が安心できる状況にないことも、あまり変わっていないというのが筆者の見方である。1つかじ取りを誤れば、かつての「月額0円廃止」の時のように顧客が大量に流出する可能性もあるだけに、同社はまだまだ油断ならない経営が続くことになるのではないだろうか。
