【連載】佐野正弘のITインサイト 第232回

ほとんどの機種で機能制限される「Androidのマイナンバーカード」、一体なぜなのか

佐野正弘

「iPhone Duo」の販売が始まり、iPhoneに再び注目が高まったが、そのiPhone向け対応が進んでいるのが「マイナンバーカード」である。

顔写真が付いたマイナンバーカードは本人確認書類として活用できるのはもちろんのこと、最近では「マイナ保険証」への対応で、医療機関に行く際に提示や読み取りが求められることも増え、活用の機会が確実に増加している。

そのマイナンバーカードをスマートフォンに搭載し、専用のリーダーにタッチするだけでマイナンバーカードが必要な手続きを済ませられることを知っている人もいるかと思う。だがこれまで、iPhoneとAndroidスマートフォンでは、その対応に大きな差があった。

元々マイナンバーカードはAndroid向けの対応が先行していた。実際Android向けには、マイナポータルやマイナ保険証の利用などに必要な「電子証明書機能」をスマートフォンに搭載する、「Androidのスマホ用電子証明書サービス」が2023年5月から提供されている。

マイナンバーカードには大きく「電子証明書機能」と「属性証明機能」の2つがあり、従来スマートフォンで利用できる機能はプラットフォームによって差があった(Image:デジタル庁)

だが2025年6月、iPhone向けに「iPhoneのマイナンバーカード」の提供が始まったことで、状況は大きく変化した。なぜならiPhoneのマイナンバーカードは電子証明書機能に加え、マイナンバーカードの表面にある氏名や住所、顔写真などの「属性証明機能」も利用可能で、マイナンバーカードのフル機能に対応していたからだ。

属性証明機能は対面、あるいはオンラインサービスで本人確認をするのに不可欠なもので、マイナンバーカードを搭載したiPhoneを使えば、それ1台で本人確認も可能となっている。電子証明書機能のみの対応にとどまっていたAndroidでも、属性証明機能への対応を求める声が多く挙がっていたことから、デジタル庁でも対応を進めていた。

iPhoneのマイナンバーカードは提供当初から属性証明機能に対応し、本人確認にも活用することができた。写真は2026年2月に三重県名張市でデジタル庁が実施した、被災者情報把握システムの実証実験より

その結果、デジタル庁は2026年10月20日、Androidでも属性証明機能の搭載が可能になった「Androidのマイナンバーカード」の提供開始を発表。これでようやくiPhone、Androidといったプラットフォームを問わず、スマートフォンにマイナンバーカードを搭載できるようになったのだが、Androidのマイナンバーカードの内容を確認すると、実際には大きな課題を抱えている様子だ。

2026年10月20日から「Androidのマイナンバーカード」が提供開始。Androidスマートフォンでも属性証明機能も含めたフル機能を利用できるようになったが、現時点では非常に大きなハードルが存在する(Image:デジタル庁)

そのことを示しているのが対応機種である。デジタル庁のWebサイトでAndroidのマイナンバーカードの対応機種を確認すると、リストアップされた機種のうち、電子証明書機能と属性証明機能の両方に対応する機種はごくわずかに留まっている。

その多くは直近1〜2年のうちに発売されたもので、ミドルクラス以上が主だ。メーカーによっても対応状況に大きな差があり、Googleの「Pixel」シリーズは2021年発売の「Pixel 6」以降、サムスンであれば2024年に発売された「Galaxy S24」以降のハイエンドモデルや折り畳みモデルであれば対応している。だが、他メーカーでは対応機種が数機種、あるいは1機種もないところも少なくない。

属性証明機能への対応はメーカーによってかなりの差がある。比較的対応機種が多いサムスンの場合、「Galaxy S24」シリーズ以降のハイエンドモデルではほぼ対応しているようだ

電子証明書機能と属性証明機能とで、対応機種にここまで大きな差が生じているのはなぜか。それは双方の機能が用いているセキュリティの仕組みによるところが大きい。

電子証明書機能の場合、端末内の安全な場所に電子証明書を保管するため「GP-SE」(Global Platform-Secure Element)というチップが用いられており、それを利用するには「おサイフケータイ」への対応が必要になる。それゆえ対応にはおサイフケータイ、ひいてはFeliCaの搭載が不可欠というハードルはあるが、そこに対応してさえいればある意味対応はしやすかった。

マイナンバーカードの電子証明書機能には「GP-SE」というICチップが用いられており、「おサイフケータイ」の仕組みを用いてこれを制御し、セキュリティを確保する仕組みだ(Image:総務省)

だが、属性証明機能の場合、「StrongBox」と呼ばれる別の専用チップを用いてセキュリティを確保する仕組みとなっている。すなわち、対応には別途専用のチップを搭載する必要があり、メーカー側がそれを事前に搭載していたか否かで対応に大きな差が出ているわけだ。

Googleの場合、Pixelシリーズで古くから独自のセキュリティチップ「Titan M」シリーズを搭載していたし、サムスンも以前から、ハイエンドモデルを中心にハードウェアベースのセキュリティ機能「Knox Vault」を搭載してきた経緯がある。

つまり、メーカー側がハードウェアベースでのセキュリティに注力していたかどうかが、属性証明機能対応の分かれ目になっていると見ることができそうだ。

Googleは「Pixel」シリーズに古くから専用のセキュリティチップ「Titan M」シリーズを搭載。最新の「Pixel 11」シリーズにも「Titan M3」が搭載されている

他のメーカーも新しい機種では対応が進んできている。それだけに今後新しい機種が登場し、そちらへの買い替えが進めば、属性証明機能にも対応したAndroidスマートフォンを利用する人が増えていくというのが、デジタル庁の見解のようだ。

ただ、そこに大きく水を差すことになりそうなのが、昨今のスマートフォン価格高騰である。円安やメモリ価格高騰によってスマートフォンの価格が急騰していることは多くの人が知るところだが、それだけにメーカー側は少しでも安くスマートフォンを販売するため、優先度が低い機能を削る傾向が強まっている。

つまりメーカー側がより多くスマートフォンを販売するため、マイナンバーカードへの対応よりも価格を重視して、今後StrongBoxを搭載しない傾向が強まる可能性が大いに考えられる。とりわけAndroidスマートフォンでニーズが大きい、価格重視の低価格のモデルほどその傾向が強まるものと考えられるが、低価格のモデルほど消費者の需要が大きく、購買層のすそ野も広い。

それだけに、低価格モデルにStrongBox非搭載の流れが長く続くほど、属性証明機能対応スマートフォンの普及がいつまでも進まない事態に陥りかねないことが懸念される。マイナンバーカードのスマートフォン搭載を進めるには、対応するスマートフォンをメーカーが提供しやすく、消費者が買いやすくする仕組み作りも求められるところではないだろうか。

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