【連載】佐野正弘のITインサイト 第231回
CMFも売却、厳しい状況のNothingは日本市場で生き残れるか
メモリ価格の急騰などによって価格が大幅に高騰し、非常に厳しい状況に追い込まれているスマートフォン市場。そうした状況に多くのメーカーが苦しんでいることは間違いないのだが、中でもその厳しさを鮮明にしたのが、新興メーカーの英Nothing Technologyに関する報道だろう。
Nothing Technologyといえば、背面が透けて見えるデザインを採用し、LEDが光る独自のインターフェース「Glyph」を導入するなど、デザインに注力した独自色の非常に強いスマートフォンを提供していることで知られる。日本でも早い段階から市場参入しており、2026年も4月15日にはスマートフォン新機種「Nothing Phone (4a)」「Nothing Phone (4a) Pro」の発表イベントを実施するなど、積極的に新製品を投入している。

だが2026年7月、そのNothing Technologyを巡って、日本をはじめとした12以上の市場から撤退するとの海外報道がなされたのである。現在の著しいメモリ価格高騰などは、Nothing Technologyのように規模の小さい新興企業ほど受ける影響が大きいだけに、この報道が大きな衝撃を与えたことは間違いない。
ただ同社はこの報道を即時に否定し、その後日本でも「Headphone(1) Pro」などのオーディオ新製品を国内投入。2026年10月20日にはスマートフォン新機種「Nothing Phone (4b)」の国内発売を発表するなど、製品を継続的に投入しており撤退の様子は見せていない。Nothing Technology Japanのマネージングディレクターである黒住吉郎氏も「将来は不測のことがある」としながらも、新製品を出したことで当面日本での事業は継続する姿勢を明確にしている。

しかし、同社が厳しい状況にあることは間違いなく、そのことを示しているのがサブブランド「CMF」の売却だ。CMFブランドはNothing Technologyの中でも、デザインにこだわりながらより低価格で購入しやすい製品を提供するブランドと位置付けられ、日本でもこれまでスマートフォンの「CMF Phone 2 Pro」など、いくつかの製品が投入されている。
だが同社は2026年9月に、そのCMFブランドを分離して合弁会社を設立することを発表。新会社の株式のうち51.1%は、インドの電子機器メーカーであるOptiemus Infracomが持つことを明らかにしている。引き続きNothing Technologyが一定の株式を保有するとはいえ、CMFブランドが事実上、インド企業に売却されたことは確かだろう。
それゆえ今後、CMFブランドのスマートフォンはインド市場を最優先に開発がなされ、日本向けに適した製品が登場するとは限らないと黒住氏は話す。とりわけモバイル通信に必要な周波数帯は、日本とインドとでは違いがありその対応に手間やコストがかかることから、日本でのCMFブランドスマートフォンの製品投入ハードルは大きく上がることになりそうだ。

一方で、CMFブランドのオーディオ関連については引き続きNothing Technologyが直接開発・販売をしていくとのこと。実際、2026年10月12日にはCMFブランド初のポータブルスピーカー「CMF Speaker S」「CMF Speaker M」や、ワイヤレスイヤホンの新製品「CMF Buds Neo」の国内発売を発表している。

Nothing Technologyのメインブランド「Nothing」に関しても、厳しい市場環境を受け今後の戦略に変化が出る可能性を、黒住氏は示唆している。とりわけ大きな影響が出ると考えられるのがFeliCaへの対応だ。
黒住氏はこれまで、日本ではFeliCaに対応する重要性が高いとして取り組みを継続してきたが、黒住氏が同社に参画した2024年時点と比べ「コード決済が増えるなど、環境が変わってきている」と説明。競合でもFeliCa非搭載のモデルも徐々に増えていることから、今後は市場環境を踏まえて搭載の有無を判断していくと話している。

FeliCaに対応しなければ、その分カスタマイズにかかるコストを減らせ、よりスマートフォンをより安く提供できる。スマートフォンの価格高騰を受けてか、同社が国内向けカスタマイズを削ってでも安くスマートフォンを提供することに重きを置く可能性を高めてきたことは、大きな変化であることに間違いない。
そしてもう1つは直営店の展開だ。Nothing Technologyはお膝元の英国・ロンドンに続いて、2026年2月にインド・ベンガロールに直営店をオープンしているが、その際米国のニューヨーク、そして日本の東京にも直営店を展開する予定であることを明らかにしていた。

その後はより具体的に、東京での直営店を2026年中に展開したいとの話もなされていた。だが、黒住氏は計画を取りやめた訳ではないとしつつ「経済状況が変わり始めている。今は最適な(オープンの)タイミングを見定めている状況」と回答している。店舗展開は当面見送るものと見ることができよう。
それでもなお、同社が新製品を投入し日本での事業を継続しようとしていることはプラス材料といえるのだが、黒住氏も「マーケットが予断を許さない状況」と話しているように、メモリ価格などスマートフォン市場を巡る問題の解決に向けた糸口は見えていないのが実情だ。それだけに今後も同社が、日本で現在のスタイルを維持して製品投入を続けられるかは不透明であることに変わりはなく、2027年に向け一層予断を許さない状況が続くことになりそうだ。
