【連載】山本敦の発見!TECH最前線 第17回
今夜発表? アップルの「Siri AI搭載スマートホーム端末」、鍵になるのはApple Watch
かねてから噂されてきた、アップルの新しいスマートホーム端末がいよいよ登場するのではないかと注目を集めている。
米アップルのワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントであるグレッグ・ジョズウィアック氏が、10月9日の日本時間未明、自身のXアカウントに「Welcome home」と題する発表予告を投稿した。
発表は日本時間の10月13日午後10時に予定されている。この発表の前に、その体験と普及の可能性を考えてみたい。

スマートホームは「流行っている」のか
突然だが、スマートスピーカーやディスプレイ付き端末は家庭に定着しているのだろうか。
2026年、GoogleはGeminiを搭載する新しいGoogle Homeスピーカーを日本で発売した。既存のGoogle Nest Hubシリーズを含むスマートディスプレイにも、Gemini for Homeを広げていく方針だ。Amazonも2025年秋に最新世代のEcho Show 8とEcho Show 11を発表し、日本でも展開している。
ただ、スマートホームが日本の家庭に広く普及したとは、まだ言いがたい。マイボイスコム(株)が2026年に実施した調査結果によると、スマートホーム関連機器の所有者は2割弱にとどまっているという。その認知度は約7割に達するものの、内容について知っているという回答はやはり約15%と、所有者の規模感に近い。
同社が公開する調査概要では、スマートホームのイメージとして「費用がかかる」のほか、「トラブル時、災害時、停電時などの対応が大変」「操作や設定、メンテナンスが難しい・わかりにくい」といった回答も挙がったようだ。
こうした結果からは、「スマートホーム」を掲げる機器を買い揃えるだけで暮らしが便利になるわけではない、という認識が垣間見えてくる。

大型家電にも広がるMatter対応、次の課題は?
この状況を変えるうえで期待されるのが、機器間の共通規格Matterだ。対応機器が増えれば、メーカーごとに異なるアプリや仕組みを気にせず、インターネットにつながるスマート家電やセンサーを連携しやすくなる。
これまではスマートプラグや照明、センサーなど小型の機器が目立ったが、規格で定義されているデバイスタイプは、洗濯機や食洗機、冷蔵庫、ロボット掃除機といった大型家電にも拡大してきた。
筆者が今年の9月にコンシューマーエレクトロニクスのイベント「IFA 2026」を取材した際、シーメンスやボッシュのスマート家電を展開するBSH Hausgeraete GmbHのエルコ・ランマーティンク氏に、同社の商品におけるMatter対応の進展を聞いた。
ランマーティンク氏は、シーメンスの冷蔵庫では対応製品がすでに欧州や中国で販売され、ユーザーから良い反響を得ていると語る。ボッシュのロボット掃除機もMatter認証を取得した製品として会場に展示されていた。本機については、充電・清掃ステーションをランドリールームなどの収納下にビルトインし、汚水を排出する設計によって、家電を住空間に溶け込ませようとしている提案も面白かった。

同氏の説明からは、Matterが家電を個別に操作するための規格に留まらないことも見えてくる。太陽光発電の余剰電力や電気料金の安い時間帯を踏まえ、住まい全体のエネルギー管理システムと連携して家電の運転を最適化できれば、生活者が毎回アプリで開始時刻を設定する手間も減らせる。
一方、冷蔵庫のようなスマート家電のMatter対応については、Matter対応デバイスを制御する「Matterコントローラー」を提供するアップルやAmazonに向けて、対応するデバイスタイプの早期拡充を働きかけている段階だとランマーティンク氏は語っていた。
Matter対応家電の利便性を広げるには、機器だけでなく、それらを制御するスマートホームプラットフォーム側の対応も必要になるからだ。

スマートホームの拡大にはAIと専門家の力が欠かせない
AIを活用するユーザーインターフェースも広がり始めた。Gemini for Homeは質問に答えるチャットAIに留まらず、音声での家電操作やカメラの映像情報を使ったモニタリングにも対応する。
Alexa+も米国での展開を進め、ボーズやJBLの新しいWi-Fiスピーカーなど、Amazon純正のEchoデバイス以外のオーディオ機器に広がっている。ただし、Alexa+の日本語対応がまだできていない。
Alexa+の日本語対応が慎重に進められている背景には、「家庭で自然に使える体験」を実現しようとする同社の姿勢がある。
筆者が2025年に米Amazonの担当者に取材した際には、国や地域によって異なる生活習慣や、家庭で使われる家電・サービスへの適応に加え、複数の操作を正確に実行する難しさ、自然な会話と素早い応答を両立させることの重要性について説明を受けた。

家族が一緒に利用するスマート家電を操作するAIには、単に言葉を理解する以上の能力が求められる。ユーザーの意図を的確にくみ取り、確実かつ信頼性の高い動作に繋げなければならないからだ。
スマートホームの普及を考える際、ホームシアターインストーラーが担ってきた役割にも目を向けるべきだ。照明、シェード、空調、音響、セキュリティ機器など専門知識を持つインストーラーが住宅ごとに統合し、使いやすい操作環境を作ってきた。
アップルが新しいスマートホーム端末を一般向けに販売する一方で、BtoB領域にもスマートホームの普及を広げる余地は大きい。専門のインストーラーと協力して住宅への導入を支援したり、マンション開発事業者やホテル、介護施設などと連携したりすることも考えられる。
デバイス単体の販売に留まらず、住まい全体を対象とするサービスとして提案できれば、スマートホームの普及を加速させる有効な手段になり得る。
Siri AIだけでは完成しない、大切なのは「暮らしの設計」
家族が壁スイッチで照明を消した結果、スマート電球が音声操作に反応しなくなった。そうした問題は、スマートホームを導入した経験のある方ならば一度は経験していると思う。
Siri AIに期待したいのは、「エアコンを26度に下げて」という指示を自然な日本語で理解することだけではない。アップルが掲げる「パーソナルコンテキストの理解」が住まいに設置したセンサーやスマート家電と結びつくことも挙げられる。
例えば「そろそろ休みたい」と伝えた際に、本人の好みや在室状況を踏まえて、寝室の空調や照明を整えるといった使い方も考えられるだろう。Siri AIがユーザーの生活文脈を理解することで、操作の手間をさらに減らせる可能性がある。
大事なことは家族がどの部屋をどう移動し、いつ何を操作するのかを俯瞰したうえで、デバイスの置き場所やセンサーを加えた自動化を設計することだ。人の動きを検知して照明をつける、起床に合わせてカーテンを開ける、外出時にエアコンや照明を確認するといった機能も、暮らしの動線に合って初めて役に立つ。
複雑になりがちなシステムを安定して連携させる段階で、スマートホームを理解するインストーラーの知見が活きてくるだろう。

もうひとつ大事なことは、ユーザーがスマートホームを「導入する目的」をできる限り明確に決めておくことだ。「離れて暮らす親の安心を支えたい」「夜間の室内移動を安全にしたい」「日々の健康管理を無理なく続けたい」といったテーマを定めたほうがいい。
ただ漠然とスタイリッシュなデバイスを増やしても、暮らしの困りごとが解決しなければ、やがて使われなくなる。個々のセンサーやサービスを、本人や家族が使いやすい形に結びつけることが重要になる。
アップルの強みは「ヘルスケア」の豊富な知見
アップルのスマートホームが競合と差をつけるとすれば、Apple WatchやiPhoneの「ヘルスケア」「ワークアウト」に蓄積される情報との連携が重要な鍵になると筆者は考えている。
2015年の発売から11年、Apple Watchはユーザーのアクティビティや睡眠の記録、心臓の健康を見守ってきた。特にSeries 4では、心電図アプリや不規則な心拍の通知、転倒検出が加わり、デバイスの普及が進んだ。
そして近年では、睡眠時無呼吸の兆候や高血圧パターンを知らせる機能も拡充されている。いずれも医師の診断に代わるものではないが、ユーザー自らが日々の変化に気づき、医療機関へ相談するきっかけを作る。
睡眠中も手首に装着するApple Watchは、本人の身体に結びついたデータを継続して記録できる。許可した家族と健康データを共有する仕組みもあり、見守りや家族の安心に役立つ可能性もある。

もしアップルがディスプレイを搭載するスマートホーム端末を商品化すれば、本人や家族に必要な情報を視覚的に、よりわかりやすく伝えられるだろう。さらにSiri AIが音声操作を助ければ、アプリや小さな画面の操作に慣れていない人にも利用を促せられる。
スマートホーム端末と居住空間の状況を把握するセンサーを組み合わせることにも、大きな意味がある。筆者が今年、ラスベガスで開催されたCES 2026を取材した際には、旭化成エレクトロニクスがカメラを使わずに人の転倒を検知するミリ波レーダー技術を展示していた。
浴室のようなプライバシーが重視される場所にカメラを設置することには抵抗があるだろう。また、入浴時にはスマートウォッチを外す人も多い。こうした場所では、身体に装着する必要がないミリ波レーダーのようなセンサーが役立つ。
一方、カメラやレーダーには設置場所によって死角が生じるほか、複数人がいる環境では誰の状態を検知したのかを判別しにくいという課題もある。そこでApple Watchが、特定のユーザーに紐づく生体情報を補完する役割を果たせるのではないか。住宅側のセンサーとウェアラブルデバイスは競合するものではなく、互いの弱点を補い合う関係にある。

こうした連携は、健康管理だけでなくホームセキュリティにも応用できる。例えば、夜中に住人がベッドを離れて廊下を歩いたとき、住宅側のセンサーだけでは住人と侵入者を区別できないかもしれない。
そこで本人の行動を示す情報と住宅側のセンサーを組み合わせれば、照明を点灯するのか、防犯アラームを作動させるのか、状況に応じて対応を変える仕組みも考えられる。
もちろん、実現には本人を識別する精度の向上やプライバシーへの十分な配慮が欠かせない。それでも、単に「人がいるか」を検知するだけでなく、「誰が、どのような状況にあるのか」まで把握し、適切に応答することはスマートホームが次に目指すべき進化の方向ではないだろうか。
普及は急がず、暮らしに根付く体験を
筆者は今年のCESで、AIとセンシングが高齢者の見守りや健康支援に向けて進化する様子を取材した。長く健康に、自立して生きるという願いを日々の住まいの中で支える仕組みは、エイジテックの大きな可能性でもある。ウェアラブルとスマートホーム端末の連携は、来年のCESでも重要なテーマのひとつになるとみている。

アップルの新しいスマートホーム端末が日本でいつ使えるようになるかは、Siri AIの日本語体験にも左右される。アップルは日本語版Siri AIのベータ提供を始めているが、先述した通り、家庭の中心に置く端末では音声対話の不自然さや誤操作がそのまま製品全体への印象に繋がる。
英語で快適に動くことと、日本語で毎日安心して使えることは別の課題だ。また、日本と米国の住まいは、それぞれ広さや設備なども違う。米国など英語圏から段階的に導入し、サービスの品質やインストーラーとの連携を整えてから展開するという予測もできる。
端末のデザインや画面の操作感にはもちろん期待しているが、購入後に使い道が見つからず、暮らしの便利さも感じられないデバイスでは意味がない。家族の「実現したいこと」に沿って体験を設計し、時間をかけて普及させることがアップルのスマートホームに問われる課題だ。
とはいえ、もし10月13日にアップルが発表する新製品がApple Watchと連携する端末であれば、私もすぐに買って試してみたくなるだろう。
