【連載】佐野正弘のITインサイト 第229回
KDDIローミング終了の案内を避けた楽天モバイル、顧客と真剣に向き合えているか
2019年に新規参入した楽天モバイルは、自社でネットワークを整備するまでの間、KDDIとローミング契約を結び、地方など一部のエリアをKDDIのネットワークで賄ってきた。そのローミング契約は一度延長の末、2026年9月30日に終了した。
だが、その直前に至るまで楽天モバイル側からはローミング契約の終了、そして新たにKDDIと締結した契約内容に関して、正式なアナウンスがなされることはなかった。

楽天モバイル側の発表を振り返ると、2026年8月12日にKDDIと詰めの協議をしていることがプレスリリースで打ち出され、楽天モバイルがカバーに時間を要するエリアは10月以降もローミングを継続すること、楽天モバイルが十分カバーできているエリアはローミングを縮小することが明らかにされていた。
さらに2026年9月5日には、ユーザー向けにも同様の発表がなされている。しかし、その後10月に入ってもなお、正式にどのエリアでローミングが終了し、どのエリアで継続されるのか、楽天モバイル側から正式なアナウンスはなされていない。

ユーザーとしては非常に不安を覚えるところだが、実はローミング相手のKDDI側から、2026年9月30日にメディアに向けた正式な案内がなされている。その内容を確認すると、2026年9月末でこれまでの楽天モバイルとのローミング契約は終了し、10月から新たなローミング契約に合意したとのことだ。
その上で、楽天モバイルが提供するエリアは9月末でローミングを終了、提供していないエリアは一部地域で今後もインフラ維持に協力するとし、ローミングを継続することを明らかにしている。ただその内容をよく見ると、ローミング継続エリアは「楽天モバイルが基地局整備を行う大前提」のもとで「一定期間」提供され、「ローミング提供エリアは、順次縮小していきます」とも触れられている。
KDDI側からすると、新たな契約は従来の契約とは違い、あくまで楽天モバイルが整備するまで一時的にインフラを維持する措置と位置付けられていることが分かる。とはいえ、2026年10月以降のローミング提供エリアをKDDIのエリアマップで確認すると、引き続き広範囲にわたってローミングが継続されるようだ。
ただし、その内容を2026年9月末までのエリアと比べてみると、大都市圏周辺のエリアがかなり縮小しているようだ。既に東京23区や名古屋市、大阪市など大都市の中心部ではローミングが終了していたのだが、今回の契約ではさらに周辺エリアのローミングも大幅に縮小している。


新たな契約におけるKDDIの最大の狙いは、都市部でのローミングを急いで終了させることと見て取ることができそうだ。楽天モバイルはデータ通信無制限を安価で利用できる「Rakuten最強プラン」を提供しており、比較的若いユーザーが多いことから、都市部在住かつデータ通信を積極的に利用する人が多いと思われる。
そうしたユーザーらがローミング経由でKDDIのネットワークに多くのトラフィックを発生させ、通信が混雑することで既存のKDDIユーザーにも影響を与えていた。しかもKDDIが楽天モバイルにローミング提供しているのは、同社が保有するプラチナバンドの1つで広いエリアをカバーしている800MHz帯。最も多くの端末が接続する可能性が高い周波数帯だけに、その混雑が与える影響は他の周波数帯より大きいものと推測される。
それだけにKDDIは、混雑が生じやすい都市部近郊のローミングをいち早く終了させ、自社ユーザーの通信品質を向上させたかったのだろう。ただ、楽天モバイルから見ると都市部近郊での通信容量が減少し、通信品質が低下するなど大きな課題を抱えることにもなる。
楽天モバイルにとって以前のローミング契約の終了、そして新しい契約への移行は競争上不利なものであるだけに、既存ユーザーへの積極的なアナウンスは避けたかったというのが本音ではないだろうか。だが、明確な説明をしないという姿勢によって、既存ユーザーの不安が一層高まっているように思えてならない。

既存ユーザーが楽天モバイルに不安を抱く出来事は、これだけではない。楽天モバイルは2026年8月31日、楽天グループの「楽天ID」と連携せずに楽天モバイルを利用しているユーザーに対して、2026年12月以降楽天モバイルを自動解約するという方針を突然示したが、2026年9月14日にその方針を撤回するという一幕があった。

楽天モバイルでは、楽天モバイル経由で楽天グループのサービスを利用した増収効果をARPU(1ユーザー当たりの平均売上)に取り入れている。この施策は、ポイントなどを獲得して短期間で他社に乗り換える「ホッピング」行為の防止に加え、楽天モバイルの顧客と楽天グループのサービスの連携をより強固なものにすることで、売上を高めることを狙ったものと考えられる。
ただ、この施策が実行されたとなれば、ID連携をしていないユーザーが、突然生活に必要な電話番号を失う可能性もある。その猶予期間が数か月しかなかったことから、批判も少なからず生じていた。しかも一部報道では、この件を巡り総務省が聞き取りを実施したとされている。結果的に楽天モバイルは方針を撤回したが、唐突かつ一方的な措置で既存ユーザーに不安を与える対応だったと言わざるを得ないだろう。
楽天モバイルはここ最近、既存ユーザーへの配慮に欠ける対応が目立つように思えてならない。それは、売上を高めるための施策には積極的な姿勢が目立つ一方、ローミングに対する一連の対応などからも見える。それだけに同社は今後、不利な点も含めた積極的な情報発信など、顧客からの信頼を高める取り組みが強く求められるだろう。
