【連載】佐野正弘のITインサイト 第225回

戻らぬドコモの通信品質への信頼。どこまで改善したか、担当者に聞く

佐野正弘

2023年の通信品質低下が現在も尾を引き、顧客からの信頼が高まらないNTTドコモ。それだけに、同社も通信品質向上に向けては積極的な取り組みを続けている。中でも同社が2026年度に力を入れて改善を進めているのが大都市部、とりわけ通信トラフィックが多い南関東4都県と大阪府、愛知県だ。

これらを同社では「主要都市圏」と呼び、積極的な通信品質対策を進めている。だが、現在まで同社が主要都市圏を中心にどのような対策を進めてきたのだろうか。NTTドコモの執行役員ネットワーク本部長の引馬章裕氏と、執行役員ネットワーク本部無線アクセスデザイン部長の増田昌史氏にグループインタビュー形式で話を聞いた。

取材に応えるNTTドコモの増田氏(左)と引馬氏(右)

なぜNTTドコモが主要都市圏での対策に重きを置いているのかといえば、2025年度までの分析により、同社のネットワークに大きく2つの弱みがあったことが影響している。その1つは、広域のカバーに適した4G向けの低い周波数を5Gに転用する取り組みが競合に大きく遅れ、場所によって5Gの通信品質が低下しやすい状況にあったことだ。

そこで同社は、2026年3月に終了した3Gに用いていた800MHz帯の一部を4Gに転用して帯域幅を1.5倍に拡大。空きが出てきた4G向けの700MHz帯を5Gに積極的に転用した。

大容量通信に強い3.7GHz帯や4.5GHz帯など「サブ6」などと呼ばれる周波数帯と同じ基地局に展開した結果、東京の山手線では5Gの継続率がおよそ70%から90%へと大きく向上するなど、移動中の通信品質向上に貢献しているという。

3Gの終了で空きが出た800MHz帯の一部は4Gに転用され、4Gの800MHz帯の通信容量は1.5倍に拡大。これが700MHz帯を5Gに本格転用する道筋となった

もう1つが、大都市圏での設備容量が競合に見劣りしていたことである。そこでNTTドコモでは主要都市圏での通信品質を大幅に強化、2026年度第1四半期で約2,500局の基地局を設置したが、そのうち6割が主要都市圏向けになるという。

大都市圏での通信品質対策も大幅に強化しており、2026年度第1四半期に整備した5G基地局1500局のうち、主要都市圏向けが900局を占めるとのことだ

さらに、5G専用の機器で構築され4Gの影響を受けない、スタンドアローン(SA)運用の5Gエリアも積極的に拡大した。5G SAのエリアが広がれば4Gにかかる負担も減るだけに、5G SAの広がりも通信品質対策で重要な意味を持つ。

だが、通信トラフィックは、今後も1.2倍のペースで増加していくと引馬氏は話す。同社が通信品質を大きく落とした2023年より一層大きな通信量をこなすことができなければ、再び通信品質が大きく落ちてしまいかねない。

そこで同社はこれまで、顧客の直接的な申告だけでなく、SNSの声や「d払い」などアプリから収集する顧客の通信体感データ、通信機器のトラフィックデータなど、さまざまな情報を分析してきたとのこと。結果として顧客が集中する都市部、そして通勤・通学で利用される鉄道動線の品質改善が必要であることを認識しており、それらに集中的にリソースを割いて対策を進めてきたという引馬氏は話す。

実際、同社では先の分析結果を踏まえて、全国主要都市中心部の人が集まるエリアに向け設備を強化。その結果、利用が集中する時間帯であっても2026年8月には通信速度100Mbpsを超える地点が253箇所中247箇所に達したという。

ユーザーや基地局などのデータ分析結果を踏まえ、全国主要都市の中心部の通信品質対策を強化。混雑する時間帯であっても、多くの場所で100Mbps以上の通信速度が出るようになったという

利用客の多い鉄道動線の代表格でもある山手線や大阪環状線でも、対策を進めたことで快適に利用しやすい時間が右肩上がりで改善したとのこと。今後も同社が主要鉄道動線と位置付ける、全国の59路線で通信品質対策を進めるという。2027年3月までにはさらに、対策済みの路線を39にまで増やしたいと引馬氏は話している。

この通信品質向上に大きく貢献しているのは、多数のアンテナ素子を用いて個々の端末に電波を届け、通信容量を増やす「Massive MIMO」という技術だ。かつてNTTドコモは、このMassive MIMOの導入遅れが通信品質低下の一因として指摘されることが多かっただけに、現在では採用を積極的に進め、通信品質向上を図っているようだ。

鉄道動線に向けては、これまで対策が進んでいなかったJR新松戸駅やJR尾久駅に、最新型のMassive MIMOユニットを設置。その結果、通信速度の大幅な改善が進んだとのこと

だが今後を見据えると、スマートフォンでもAIが人に代行して作業をする「AIエージェント」が普及し、通信トラフィックのパターンが大きく変わることで、対策がより難しくなるとの見方も出てきている。それだけに同社としても、今後に備えた通信品質対策をいくつか打ち出している。

その1つが、サブ6の3つの周波数帯にMassive MIMOを導入し、まとめて用いることで設備容量をおよそ3倍にする「Tri-Band Massive MIMO」の活用である。こちらは既にイベントでの活用が進んでいるものだが、今後はそれを通信容量が非常に大きいエリアにも導入していくようだ。

「Tri-Band Massive MIMO」は2026年8月に「SUMMER SONIC 2026 OSAKA」の通信品質対策で導入されたが、今後はイベント以外での活用も進められる

2つ目は基地局の最適化技術強化である。同社では2025年11月より、基地局ごとの通信品質をリアルタイムで検出し、自動で最適化する「MantaRay SON」というシステムを導入。基地局に接続する人が少ないときは1人あたりの通信速度を向上させ、接続する人が増えてきたら、多くの人に一定のパフォーマンスが出るよう通信を制御することにより、体感品質の確実な向上という成果が出ていると増田氏は話している。

そこで2026年8月からは、その最適化を基地局ごとではなく、複数の基地局を一体で制御するようシステムを変更していくとのこと。これによりエリア全体での通信品質を最適化し、より快適な通信環境を実現できるようだ。

NTTドコモが導入している「MantaRay SON」はノキアが開発したシステム。NTTドコモは今後、MantaRay SONを基地局単位から、基地局をクラスタ化してエリア単位での最適化に広げていくという

もう1つ、通信品質向上に向けた大きな取り組みとして、引馬氏が打ち出したのが不動産デベロッパーとの連携である。

NTTドコモは2026年8月24日、三菱地所と大手町・丸の内・有楽町エリアでの次世代スマートシティの構築連携に合意している。また2026年9月3日には、三井不動産と、その傘下で屋内のインフラシェアリング事業を手掛ける三井不動産ネットワークイノベーションと、資本業務提携契約を締結している。

NTTドコモは2026年8月24日に三菱地所と、大手町・丸の内・有楽町エリアでの次世代スマートシティの構築連携に合意。非常に多くの人が訪れる同エリアで、景観を維持しながらTri-Band Massive MIMOやミリ波などを活用した通信品質対策を進める狙いがある

なぜ不動産デベロッパーとの連携が必要かといえば、それは同社が力を入れる大都市部での通信品質対策のためだ。引馬氏は都市部であっても、電柱があるような場所であれば、地権者と交渉して基地局を設置する余地があるというが、「大都心は電柱などもなく、街が綺麗になっている。こうした所で(壁に)無線機を張り付けようとしても、駄目と言われてしまう」と話す。

しかもトラフィックがより一層増える今後に向けては、通信品質対策のためより遠くに飛びにくい「ミリ波」も活用していく必要があり、一層基地局を多数設置しなければならない。それを大都市の中心部で、しかも街に溶け込ませて設置するには、街を開発する不動産デベロッパーと協力して知見を得ながら進めていく必要が出てきていると引馬氏は述べ、今後もより多くの不動産デベロッパーと連携を進めていく考えを示している。

通信品質に関して、今なお批判の声が多いNTTドコモだが、品質改善に向けた取り組みを強化し着実な改善が図られていることは確かだろう。

ただ、そのことをユーザーが認知し、体感してもらうには、最新ネットワークの能力を発揮できるよう5G SAのオプションを契約して新しいスマートフォンに買い替えてもらう、あるいは対策したエリアの通信品質向上を周辺の人達に通知するなど、ネットワークだけにとどまらない取り組みが求められる。

NTTドコモはそうした部分の取り組みが、まだ道半ばという印象がある。真に改善を進めるには、ネットワークの対策だけでなく、デバイスやマーケティングなど、全方位的な通信品質向上の取り組みを強化していく必要もありそうだ。

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