【連載】佐野正弘のITインサイト 第224回
30GBでも2000円未満、MVNOだから実現できる「HISモバイル」新プランの狙い
携帯各社の料金プランが相次いで値上げしただけでなく、最近ではスマートフォンの著しい値上げが大きな話題となるなど、モバイル通信にも物価高の波が急速に押し寄せている。それだけに、料金節約のため今後注目が高まりそうなのが、かつて「格安スマホ」として脚光を浴びたMVNOである。
2026年8月28日には、そのMVNOの1つであるH.I.S.Mobileが、現在の市場環境に対応した新料金プランを発表している。同社はその名前の通り、旅行会社大手であるエイチ・アイ・エスが、MVNOの1つである日本通信との合弁でモバイル通信事業を展開している企業だ。
同社が展開している国内向けモバイル通信サービスの「HISモバイル」は、小容量から低価格で利用できる日本通信のサービスの流れをくみ、これまで小〜中容量帯のサービスを低価格で利用できる料金プランを積極的に提供してきた。実際、同社の従来プラン「自由自在2.0プラン」は、月額550円で通信量1GB、さらに通信量を100MBに抑えれば月額280円で利用できるプランを用意するなど、低価格に強みを持つ。
そのHISモバイルが新たに発表したのが「自由自在3.0プラン」であり、大きな特徴は、全ての料金プランが月額2000円を切ること。データ通信量が最も多い30GBのプランは月額1999円という非常に安い料金で提供されるし、最も安い100MB〜1GBのプランであっても、自由自在プラン2.0と同じ料金が維持されている。

H.I.S.Mobileの代表取締役社長である猪腰英知氏によると、同プランの提供に至った背景として、1つに携帯大手3社の料金プラン値上げを挙げている。
各社は料金を値上げ、あるいは据え置く一方で、通信量を増量してお得感を打ち出すキャンペーン施策を増やす傾向にあり、2026年8月にはahamoが通信量を30GBから40GBに増量するキャンペーンを実施している。だが、料金は据え置かれたままだ。

値上げは昨今の物価高を受けたもの、通信量の増量は動画視聴の増加など、モバイル通信で大容量通信をするニーズが増えたことを受けたものではある。だがMMD研究所の調査データによると、ユーザーの月間データ利用量は確かに以前より増加傾向にあるが、依然7GB未満という人が5割を超えているという。
そのデータをさらに細かく分析すると、毎月のデータ通信量を把握している人のうち、通信量30GB未満の人は9割近くに上るとのこと。猪腰氏はこの結果から、多くの人は通信量が不足してしまうという不安から、通信量が大きめのプランを選んでしまう傾向にあると捉えているようだ。
そこで猪腰氏は、ユーザーに求められているのは安心して利用できるだけの通信量上限と、契約後に通信量を引き下げられる仕組みであると判断。その結果導き出されたのが、通信量30GBのプランを含め全てのプランが2000円未満という、今回の新プランになるとのことだ。

つまり自由自在3.0プランは、30GBの通信量で月額1999円という安さで安心感を与えて契約してもらい、その後毎月の通信量を確認。通信量が少なければより安くて通信量が少ないプランに移行してもらうことで、過剰な通信量に料金を支払い続ける必要がない仕組みを整え安く利用してもらうというのが、狙いとなるようだ。

なぜ、物価高の中にあってこれだけの安さを実現できるのかといえば、そこにはMVNOの特性が非常に大きく影響している。MVNOの通信料は携帯大手のネットワークを借りる際に支払う「接続料」に大きく左右されるが、その接続料は年々下落傾向にあるため、物価高の影響をあまり受けることなく無関係に通信料金を引き下げやすいのだ。
ただ物価高で周辺コストが値上がりしているだけに、接続料の低廉化だけでこれだけの安さを実現し、維持することは容易ではない。そこで猪腰氏が、料金低廉化を実現する上でのポイントに挙げているのが「(料金プランを)変えてといっても変えてもらえない人が一定数いる」ことだ。
つまり30GBのプランを契約した後、一定の人達は通信料を見直すことなく、最初のプランを契約し続ける可能性が高い。全ての人が必ずしも低廉なプランへ移行する訳ではないことから、30GBプランの利用を増やすことで収益面でのバランスを取ることができると見ているようだ。
もう1つ、猪腰氏が新プランを打ち出した背景にあるのが、価格だけでない付加価値による競争が、MVNOの間でも強まっていることだという。実際最近では、航空会社のサービスと連携してマイルや旅行に関する特典が得られる「JAL Mobile」「ANA Mobile」などのように、安さ以外の付加価値で利用者を獲得するMVNOが増えてきている。
そしてH.I.S.Mobileは、先にも触れたように日本通信と、旅行会社であるエイチ・アイ・エスとの合弁会社だ。そこで自由自在3.0プランではエイチ・アイ・エスの強みを生かして、eSIMによる海外でのデータ通信を1年に1度、4GB分(15日間利用可能)提供する施策を2026年10月1日より開始予定としている。

1年に4GBという通信量は少ないように思えるが、1年に一度、5〜6日間の海外旅行をする分には十分な量だと猪腰氏は話す。さらに今後は、エイチ・アイ・エスの基幹システムを刷新するのに合わせる形で連携を強め、独自の付加価値を強化していく考えのようだ。
まとめると、30GBの通信料でも契約しやすい価格面での安心感と、エイチ・アイ・エスの系列ならではの付加価値で競合との差異化を図り、契約拡大につなげるのが、自由自在3.0の狙いであることが分かる。だがそれだけで契約数を大きく伸ばせるかというと、課題も少なからずあるように思う。
携帯大手より規模が小さいだけに、知名度や販路といった課題も依然大きいのだが、もう1つ大きな課題となってくるのが通信回線だ。H.I.S.Mobileのサービスはこれまで、NTTドコモのネットワークを借りてサービスを提供してきたが、最近ではそのNTTドコモの通信品質低下が多く指摘され、評価を大きく落としている。
ただ、同社は日本通信がサービス提供を支援している。そして日本通信はNTTドコモと、他社にはない独自の契約を結び、高音質の音声通話を低価格で提供できるなど、さまざまな優位性を発揮している。それを生かす上でも、H.I.S.Mobile はNTTドコモ回線を選ばざるを得ない実情がある。
今後、競合のMVNOのように通信品質の面で評価が高いKDDIやソフトバンクのネットワークを選択できないことが大きな課題となってくるように思う。この点について猪腰氏は、日本通信と長く交渉をしており、「現実的に見え隠れしている状況がある」と話すが、他社回線によるサービス提供がいつになるのか、NTTドコモ回線と同じ内容のサービス提供ができるのかという点はまだ見えていない。
さまざまな強みを持つ2社の合弁で立ち上げられたH.I.S.Mobileは、MVNOとして多くの強みを持つ一方、それが足を縛る要素となっている部分もある。その縛りをいかにクリアしてスピード感あるサービス展開につなげられるかが、同社の勝負どころになってくるといえそうだ。
