【連載】佐野正弘のITインサイト 第219回
モバイル通信維持に今後は不可欠、でも理想とは異なる「インフラシェアリング」の現在地
NTTドコモが大都市部で通信品質を大幅に低下させて以降、モバイル通信の品質に再び大きな関心が集まるようになった。それだけにここ最近は、携帯電話会社同士の通信品質を巡る競争が再び激化しているようだ。
ただ将来的に、その高い品質を維持するのは容易ではない。年々増大する通信トラフィックに応えるには多くの基地局を設置する必要があるが、設置に適した場所は限られているので確保が難しいうえ、設置や運用にはコストもかかる。
それに加えて、少子高齢化で地方を中心に人口減少が続く中、採算性が厳しい地方での通信インフラ維持も大きな課題となってくる。人口減少は市場縮小だけでなく、インフラを整備する働き手の減少にもつながるだけに、将来的には多くの地域でインフラの維持そのものが難しくなる可能性もある。
そこで注目されるようになったのが「インフラシェアリング」である。これは従来携帯電話各社が個別に進めてきた、基地局などを設置するための場所、あるいは基地局やアンテナなどの設備を他の携帯電話会社と共用し、整備にかかる負担を抑えてネットワークを整備する仕組みだ。

インフラシェアリングは携帯各社が協力して展開する事例もあるが、専門の企業や団体が場所や設備を持ち、それを携帯電話会社に貸し出すケースも多い。最もよく知られるのが、地下やトンネル、あるいは大規模施設など、主として屋内のインフラシェアリングであろう。
こうした場所は屋外と違い、基地局などの設備を設置するのに十分な場所を確保するのが難しく、各社が個別に整備を進めるのは難しいので必然的にインフラシェアリングが必要となる。実際、高速道路のトンネルや地下鉄などのネットワーク整備・維持を担っている公益社団法人の移動通信基盤整備協会(JMCIA)は、携帯電話の黎明期でもある1994年に設立されている。

ただ屋外に関しては、長らく携帯各社が通信できるエリアや品質を激しく争っていたこともあって、インフラシェアリングの導入がなかなか進まなかった。だが現在主流の5Gを全国に早期普及させたい国の意向もあり、インフラシェアリングを推奨する動きは年々強まっている。
実際2018年には、総務省が「移動通信分野におけるインフラシェアリングに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」を策定。さらに2025年6月に公表された、日本のデジタルインフラ整備推進を図る「デジタルインフラ整備計画2030」では、2030年度末に5Gの基地局を合計60万局、そのうちインフラシェアリングによるものは30万局を目指すと明記されている。

それだけ国がインフラシェアリングに期待していることもあって、現在では多くのインフラシェアリング事業者が屋外のインフラシェアリングに取り組み、利用が進んでいると思う人もいるかもしれない。だが、実態はかなり違っているようだ。
そのことを示していたのが、2026年7月23日にJTOWERとJMCIA、そして住友商事と東急の出資で2021年に設立されたインフラシェアリング事業者、Sharing Designの3者が発起人となって設立した「インフラシェアリング推進協議会」の設立会見である。

これはインフラシェアリングを事業者同士だけでなく、産学の連携で業界が抱える課題解決に向けた取り組みを進めるもの。課題の1つはインフラシェアリングの市場の評価をするためのデータがなく、市場拡大する上での目標設定も存在しないことで、参入事業者がこれまで少なかった、新しい業界ゆえの課題ともいえる。
もう1つが、屋内のインフラシェアリングに関する課題だ。インフラシェアリングに参入する事業者は確かに増えているのだが、実はその多くは屋内のインフラシェアリングを手がける事業者で、しかも公共交通や不動産開発会社の資本が入っていることが多いという。それが物件毎の競争が生まれにくく、サービス競争につながりにくい要因へとつながっているようだ。
また、屋内のインフラシェアリングを実現するには、携帯電話会社と、土地や建物を保有する施設管理者との双方の合意が必要なのだが、必ずしも両者の意見が一致するわけではない。通信対策が必要なエリアに相違が生じることが多いのに加え、工事費用や賃料などの負担などに関する明確なルールがないこともあって、調整に時間がかかってインフラシェアリングが進まないケースも多いという。

そうしたことからインフラシェアリング推進協議会では、屋内のインフラシェアリングの課題を解決する専門の委員会を設置し、それら課題解決に向けたルール整備をしていくとしている。
一方、屋外のインフラシェアリングに関しては、専門委員会の設置どころか取り組みの言及すらほぼなかった。理由を筆者が質問したところ、JTOWERの代表取締役社長CEOである田中敦史氏は「そもそも弊社以外のプレーヤーが少ない」と答えていた。
JTOWERはNTTドコモなど、NTTグループから多くの鉄塔の譲渡を受けるなどして屋外インフラシェアリングに力を入れているが、本格的に屋外インフラシェアリングに取り組む事業者は、他にあまり存在しないことから課題も生じていない、というのが正直なところなのだろう。

その背景には、都市部の大規模再開発や、商業施設やアリーナなど大規模施設の建設が続いていることから、屋内のインフラシェアリングに大きな商機があると見て参入する事業者が増えている一方、地方が主体となる屋外のインフラシェアリングにはビジネス的なうまみが少ないと見る事業者が多いことが考えられる。
また、一時停滞した通信会社の品質競争が再び激化したことで、携帯各社が自社独自のインフラ整備を重視する傾向が強まっていることも、少なからず影響があるかもしれない。
ただ5Gを地方にもあまねく整備することを求める国の方針を考慮するならば、先のデジタルインフラ整備計画2030で掲げられた、インフラシェアリングによる5G基地局30万局設置という目標は、屋内ではなく屋外のインフラシェアリングを強く意識しているものと言えるだろう。
そのためには屋外のインフラシェアリングを担う事業者を増やす取り組みの方が、待ったなしの状況であるように思えてならない。
