【連載】佐野正弘のITインサイト 第210回

被災地に充電できる安心を、通信8社とモバイルバッテリーメーカー7社が手を組む理由

佐野正弘

現在では生活に欠かせないものとなった、スマートフォン向けのモバイル通信をはじめとした通信インフラ。それだけに重要性が高まっているのが、大規模災害発生時、いかにネットワークを早期に復旧させ、被災した人達を支援するかということだ。

そこで2026年5月18日、新たな取り組みを打ち出したのが、NTTグループ5社(NTT、NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモ、NTTドコモビジネス)とKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの通信8社である。8社は新たに、モバイルバッテリーメーカー7社と、大規模災害発生時における被災地への電源確保に関する連携協定を締結したと発表したのだ。

通信各社と協定を締結したのは、アンカー・ジャパン、INFORICH、EcoFlow Technology Japan、エレコム、オウルテック、CIO、ユーグリーン・ジャパンの7社。各社は2026年6月1日から通信各社と協力して、大規模災害時にモバイルバッテリーや充電ケーブルなどを調達・提供し、それを通信各社が被災地の状況などに応じて避難所へ配送する取り組みを進めるとしている。

通信8社とモバイルバッテリーメーカー7社は2026年5月18日、大規模災害発生時の被災地支援で協力するべく連携協定の締結を発表。6月1日から協力を始めるという

大規模災害時は停電が発生することが多く、被災地では電源の確保が難しくなるため、モバイルバッテリーの重要性が大きく高まることは間違いない。だが通信各社とモバイルバッテリーメーカーが、大規模災害時に協力する理由はどこにあるのかというと、その契機は2024年の能登半島地震にあるようだ。

そもそも通信8社が大規模災害での連携を図るようになったのも、2024年の能登半島地震がきっかけだった。能登半島地震では被害の大きさに加え、陸路が寸断されるとアクセスが困難なエリアが生じやすい半島という地形の影響もあり、通信インフラの復旧が困難を極めたことから、普段競合関係にある通信各社が協力して早期復旧に当たるという、これまでにない取り組みがなされたのである。

これが功を奏したことにより、通信8社は同年12月、大規模自然災害時に協力してネットワークの早期復旧を進める体制を強化すると発表。各社が保有する場所や設備などのアセットを共同利用することや、NTTグループとKDDIのみが保有している船舶を他の2社が利用できるようにし、非常時に海上からモバイル通信をカバーする、船舶基地局の展開を可能にするなどの取り組みが進められた。

能登半島地震での成果を受け、2024年に通信8社は大規模災害時の連携を正式に打ち出しており、災害時に各社のアセットを共用する取り組みが進められてきた

その協力関係はネットワークの復旧だけでなく避難所の支援にも及んでおり、2025年10月には避難所の支援における連携施策も発表。従来は各社が独自に避難所支援を進めていたため、避難所によって支援が重複したり、遅れが生じたりするという問題が生じていたことから、協力して各社が支援するエリアを分担し、抜けや漏れが生じない体制を整えたのである。

避難所の支援でも通信各社は連携を図り、支援するエリアを各社グループで分担することにより、支援の重複や遅れを回避できるようにした

通信会社が避難所で何を支援するのかというと、1つは通信環境の確保であり、衛星携帯電話や、最近であれば「Starlink」による衛星でのWi-Fi環境などが提供される。そしてもう1つはスマートフォンなどを充電するための充電設備なのだが、実際に避難所へ避難した人の間からは、モバイルバッテリーが欲しいという要望も多く挙がっていたという。

能登半島地震における通信各社の避難所支援。衛星通信に加え、スマートフォンなどの充電ができる設備も提供される

避難所に設置される充電設備は数に限りがあるため、充電のため行列に並ばなければならないこともある。だがモバイルバッテリーがあれば手元で充電ができる環境が得られ、避難者にとって大きな安心感につながることから、持っていくととても喜ばれるのだそうだ。

ただ実はモバイルバッテリーメーカーの側も、各社が独自に自治体と協定を締結するなどして、被災地へモバイルバッテリーやポータブル電源などを提供する取り組みを進めていた。今回参画した企業の中でも、アンカー・ジャパンやEcoFlow Technology Japan、エレコムなどは全国の複数の自治体などと防災協定と締結しており、能登半島地震でも実際に現地へ製品を提供している。

モバイルバッテリーメーカーも各社が独自に自治体と連携し、大規模災害時の製品提供などを進めてきた

ただそこで大きな課題となっていたのが、1つに個社の取り組みでは支援できる自治体に限りがあること。大規模災害は必ずしも提携した自治体で起きる訳ではなく、協定を締結していない自治体への製品供給には課題があった。

そしてもう1つは、自治体や被災現場との連携がスムーズにできないこと。大規模災害では被災現場が非常に混乱しているため、支援を申し出ても連携が取れず、製品を送ることができない、あるいは送ったとしても、被災現場の側で使い方が分からず有効活用してもらえないといった課題があった。

そこで、通信会社とモバイルバッテリーメーカーが連携することで、それら課題を解決し避難所へ確実にモバイルバッテリーを送り届け、活用してもらうというのが、今回の協定の狙いとなる。具体的にはまず、モバイルバッテリーメーカーが機材の調達や告知、チラシの作成などをした上で、通信各社が設ける配送拠点まで配送を手配する。

今回の協定で、モバイルバッテリーメーカーが製品などを用意して通信会社の配送拠点に送り、そこから通信会社が自治体のニーズに合わせて必要な製品を送るという

その後通信会社の側が、各拠点に集まったモバイルバッテリーを管理し、それぞれの避難所の状況やニーズに応じて、必要な製品を配送するという。なぜこのような体制を取るのかというと、通信各社が大規模災害時に現地のニーズを把握するため、被災自治体に「リエゾン」(橋渡し役)と呼ばれる人達を派遣しているためだ。

そこで通信会社がモバイルバッテリーの配送を管理することで、混乱した状況下でもリエゾン経由で得た情報を基に、現地のニーズに応じた物資を、必要なだけ届ける体制が整えられる訳だ。

メーカー各社が用意するモバイルバッテリーと、その使い方などを伝えるチラシ。モバイルバッテリーはサイズや容量などさまざまなものがあるが、実際に提供する製品はニーズに応じ変えていくことになるという

ちなみに、協定締結に参画したバッテリーメーカーの中に、モバイルバッテリーのレンタルサービス「ChargeSPOT」を展開しているINFORICHが含まれていることが気になる人もいるかもしれない。確かに同社はバッテリーの販売はしていないのだが、今回の協定では同社も、自社のモバイルバッテリーを避難所へ提供するとしている。

INFORICHはメーカーではないが、今回の協定では「ChargeSPOT」のサービスに用いているモバイルバッテリーを提供するとのこと

最近でこそ発火リスクなどマイナス面がフォーカスされがちなモバイルバッテリーだが、安全に取り扱っていれば便利なものであることは確かであるし、大規模災害時に手元にあることのメリットや安心感が大きいことは間違いない。それだけに今回、通信各社とメーカーが協力し、モバイルバッテリーを被災地に届けることの意義は非常に大きなものだと筆者も感じる。

ただ一方で課題となりそうなのが、モバイルバッテリーは充電しないと使えないことだ。出荷時の安全性を確保するためにも、モバイルバッテリーを満充電にした状態で送り届けることはできないので、避難所にいる人たちはモバイルバッテリーを受け取った後、充電しなければ十分に活用できないことになる。

その充電に関しても、避難所ではそもそも充電できる場所に限りがある。また充電できるコンセントなどを確保できたとしても、今回の協定で提供されるのはモバイルバッテリーと充電用のケーブルだけで、充電器は含まれていないことから、現地で充電器をどう確保するかも課題となってくるように思う。

そうした課題に対しては当面、通信各社のリエゾンと連携し、現地のニーズを聞きながら必要に応じた対応を取るとしている。ただ他にも災害時には想定外のことが多数起きる可能性があるだけに、通信会社とモバイルバッテリーメーカー側が、共に臨機応変な対応を取るために協力して訓練をするなど、平時からの協力体制や準備も不可欠となってくるのではないだろうか。

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