地表に流れ出た溶岩の温度が700℃ぐらいです

溶岩の中でも平気?700℃で安定動作する超耐熱チップ開発、宇宙探査やAIコンピューティングを変革する可能性

Munenori Taniguchi

Image:temp-68GTX/Shutterstock.com

半導体チップは通常、負荷の高い処理をさせると温度が上がるため、ヒートシンクと呼ばれる冷却用の金属ラジエーターや、そのヒートシンクに空気を送り続ける冷却ファンによって、安定動作を実現している。

半導体チップはだいたい、200℃ぐらいになると性能が低下し始め、さらに温度を上げていくとしまいには熱暴走~故障に至ってしまう。半導体は温度が高くなると電気抵抗が小さくなり、そのせいで電流がより多く流れ、さらに発熱するという悪循環で、制御不能状態に陥ってしまうからだ。

だが、南カリフォルニア大学の研究者たちは、700℃に達しても動作し続けることが可能な新しいメモリーデバイスを発表した。700℃といえば、だいたい火山の噴火で地表に流れ出た溶岩が固まりはじめるぐらいの温度であり、通常の半導体チップが動作できる温度ではない。

しかし、最近Science誌に掲載された論文で発表された新しい試作メモリーチップは、溶岩の温度である700℃でも安定動作できるという。上部電極にタングステン、下部電極にグラフェンを用い、中間絶縁層の酸化ハフニウムを挟み込むサンドイッチ構造をしている。しかも、この数値は試験装置で設定できる最高温度に過ぎないため、おそらくそれ以上の温度でも動作するはずとのことだ。

研究の筆頭著者であり、南カリフォルニア大学の工学教授であるジョシュア・ヤン氏は、この半導体チップが「これまで実証された中での最高温動作メモリーだ」と述べた。

このメモリーチップは「メモリスター」と呼ばれる電気デバイスで、上部電極に用いたタングステンは、あらゆる金属の中で最も高い融点(3422℃)を誇り、下部電極のグラフェンは炭素原子1個分の厚さしかない平らなシート状素材だが、非常に強度が高く耐熱性にも優れる特徴を持つ。

これらの素材で、半導体の性質を持つ酸化ハフニウムを挟み込んだ構造のデバイスは、700℃の高温下でも50時間以上データを保持し、リフレッシュの必要がなく、その温度で10億回以上のスイッチングサイクルに耐え、わずか1.5ボルトで数十ナノ秒の動作速度で動作するデバイスが誕生したというわけだ。

実は当初、研究チームはグラフェンを用いて別の種類のデバイスを開発しようとしていた。しかしその実験では思うような結果を得ることができなかった。だが、実験の過程で偶然この耐高温メモリスターを発見することになった。

研究チームが詳しく調べた結果、このデバイスの仕組みを解明することに成功した。従来のデバイスでは、熱によって上部電極の金属原子がセラミック層をゆっくりと移動し、下部電極に到達する。すると、両電極が永久的に接続(短絡、ショート状態)になり、電流が流れ続ける状態から抜け出せなくなる。つまり故障した状態になる。

しかし、今回発見したデバイスは、グラフェンがその故障に至るプロセスを防止するため、短絡は起こらない。そして、上記のような故障状態にもならないとのことだ。

研究チームは、電子顕微鏡、分光法や量子レベルのシミュレーションなどを用いて、このプロセスが原子レベルでどのように機能するかを正確に解明した。こうした深い理解により、研究者たちは同様の性質を持つ他の材料を特定できるようになり、その結果、将来的にこの技術の大量生産が容易になる可能性が出てきた。

この技術が実用化に至れば、たとえば温室効果により地表温度が約460℃もあるという金星に着陸し、継続的に観測や探査を行うロボットを作ることも可能になるかもしれない。地中深くの極めて高温な環境を探る地熱掘削でも、正常に機能する電子デバイスを作ることも可能になるかもしれない。

さらに、大量のエネルギーを消費し莫大な熱を排出するため、冷却機能も重要になるAIデータセンターでも、高温動作が可能なデバイスは重要な役割を担えるようになるかもしれない。

ただし現実に目を向ければ、まだ発見されたばかりの研究初期段階の技術でしかない。ヤン氏は、完全なコンピューティングシステムを構築するにはメモリーデバイスだけでは不十分であり、高温環境で動作するロジック回路の開発と統合も必要となることを強調した。

製造の現場では、すでにタングステンと酸化ハフニウム素材は、半導体チップに広く用いられている。ただしグラフェンの応用に関しては、TSMCやサムスンなど大手半導体企業が積極的に技術開発を行っているところであり、いまだ研究段階といったところだ。

数年~十数年後には、もしかすると超耐熱仕様のCPUやメモリー、ストレージが実用化され、宇宙探査の可能性が広がり、AIデータセンターの能力が大幅に向上して、生成AIもいまより飛躍的に賢くなっているかもしれない。

ちなみに、この研究は南カリフォルニア大学のUSC先端コンピューティング学部が主導したが、主要な測定と材料特性評価は米空軍研究所が協力し、理論解析では熊本大学が貢献した。

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