【連載】佐野正弘のITインサイト 第204回

ついに料金値上げに動いたソフトバンク、判断が遅れた理由はどこに

佐野正弘

代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏が、値上げの必要性を強く訴えていたにもかかわらず、競合が値上げに踏み切る中、携帯大手3社の中では唯一、メインブランドも含めた全体での値上げに踏み切らなかったソフトバンク。だが、そのソフトバンクが4月10日に記者発表会を実施し、ついに値上げを含めた料金改定を打ち出している。

その1つとなるのが、同社のメインブランド「ソフトバンク」で新料金を導入すること。新たに「ペイトク 2」「テイガク無制限」「ミニフィット 2」の3プランが提供されるのだが、その中でも主力プランとなるのは「ペイトク無制限」の後継プラン、ペイトク 2だろう。

2026年6月2日より提供予定の、ソフトバンクブランドの新料金プラン「ペイトク 2」。実質的な値上げがなされた「ペイトク無制限」の後継プランとなる

ペイトク 2がペイトクから大きく変化したポイントの1つが「PayPayカード」との連携強化で、ペイトク 2ではペイトクでポイント付与特典の対象外だったPayPayカードによる決済も、ポイント付与の特典対象となった。加えて会費が有料の「PayPay ゴールド」利用者に対するポイント付与率も強化されており、PayPayカード ゴールドの利用によるポイント還元率は、通常の2倍となる10%にアップする。

他にも「YouTube Premium Lite」が1年間無料で利用でき、2年目以降は10%オフで利用できるといった特典が新たに追加されるなど、サービス面では一定の強化が図られているのだが、気になるのはやはり料金だ。実際、ペイトク 2の月額料金は、割引を一切適用しない状態で月額1万538円と、ペイトク無制限(月額9625円)と比べると913円の値上げとなり、消費税込みで1万円を超えてしまっている。

そこから「新みんな家族割」(最大で月額1210円引き)、「おうち割 光セット」(月額1100円引き)、「PayPayカード割」(「PayPayカード ゴールド」で月額550円引き)を適用すると7678円となり、そこにスマートフォン決済の「PayPay」や、PayPayカードによる決済で付与されるポイント特典を加えることにより、実質負担額は3678円にまで抑えられるという。ただ実質負担金を抑えるには、PayPayカード ゴールド契約者でも毎月4万円の決済をする必要があるため、それなりに高いハードルがあることは変わらない。

ペイトク 2の仕組み。各種割引と「PayPay」などによる決済利用でのポイント還元で、実質負担額を最大3678円にまで抑えられるというが、割引などが一切ない場合の料金は月額1万円を超えてしまう

そしてもう1つ、ソフトバンクはソフトバンクブランド、そしてサブブランド「ワイモバイル」の既存プランの料金改定も打ち出しており、ペイトク無制限などで月額550円の値上げとなる。既存プランの値上げ自体はKDDIも実施しているのでそれ自体に驚きはないのだが、ワイモバイルの「シンプル3」も料金改定対象となり、月額220円の値上げがなされることには驚きがあった。

なぜなら、シンプル3は2025年9月に提供開始した料金プランであり、1つ前の料金プラン「シンプル2」から既に基本料が値上げされていたからだ。提供から半年ほどしか経過していない料金プランを再度値上げしたことは、消費者からの失望感が免れないように思う。

既存料金プランの値上げも発表しているが、2025年9月に提供したばかりの「シンプル3」も値上げ対象となっている

では一体なぜ、ソフトバンクは現在のタイミングで料金プランを改定するに至ったのか。同社の専務執行役員コンシューマ事業統括の寺尾洋幸氏は、今後もネットワークの品質を維持し続ける上で、コスト面で限界が訪れたことが大きな要因だと説明している。

料金改定の背景について説明するソフトバンクの寺尾氏。値上げを抑えるための努力を続けてきたが、コスト的に限界に達していたようだ

親会社であるソフトバンクグループが、ソフトバンクの前身の1つとなる英ボーダフォンの日本法人を買収し、携帯電話事業に参入してから今年で20年が経過するが、その間同社ではネットワークの品質改善に力を注ぎ、数万局だった基地局数を30万にまで増やしてきたと寺尾氏は話す。

だが動画視聴の増加などによって通信トラフィックが年々増加しているのに加え、昨今のエネルギー問題やメモリ不足などによる原価の高騰、そして次世代の「6G」に向けた投資をしていく必要もあり、ネットワークの維持にかかるコストは年々増加しているという。

そうした条件は、先行して値上げを実施したNTTドコモやKDDIも同様なのだが、ソフトバンクではこれまで、何とかしてそのコストを吸収するためコスト削減の取り組みを実施し、耐え忍んできたとのこと。だがそれら努力も限界が来ており、「さすがにもう、このままいくと今のネットワーク品質を維持できなくなる」(寺尾氏)ことから、今回値上げに踏み切ったという。値上げをしないよう限界ギリギリまで粘ったが、限界が来たというのが正直な所のようだ。

またもう1つ、現在のタイミングで料金改定に至ったのには、今回発表された新サービスの1つ「SoftBank Starlink Direct」も影響しているようだ。これは米Space Exploration Technologies Corp(スペースX)の衛星群「Starlink」と、スマートフォンとの直接通信ができるサービスで、KDDIが既に提供している「au Starlink Direct」と同種のサービスとなるが、サブブランドであるワイモバイルの主要料金プランでも無料で利用できる点が、KDDIとの大きな違いといえるだろう。

今回の発表会では、「Starlink」とスマートフォンとで直接通信ができる「SoftBank Starlink Direct」の提供開始も正式に打ち出されている

SoftBank Starlink DirectはスペースXとの関係で、現在のタイミングでの提供になったというが、既にコスト面では限界に来ていたことから、SoftBank Starlink Directに合わせた形で料金改定を打ち出すに至ったという。SoftBank Starlink Directが料金改定に直接影響した訳ではないものの、改定を打ち出すタイミングには大きく影響したようだ。

ちなみにソフトバンクは今回の発表会で、SoftBank Starlink Direct以外にもいくつかの新サービスを打ち出している。1つは200以上の国・地域でデータ通信が使い放題になる「海外データ放題」、もう1つはペイトク2やペイトク無制限など、一部の料金プラン契約者に対してより多くの通信リソースを割り当て、高速な通信を可能にする「Fast Access」である。

一部料金プランの利用者に対し、優先的に通信リソースを割り当て高速化する「Fast Access」の提供開始も発表している

Fast Accessに類するサービスは、KDDIも「au 5G Fast Lane」として既に提供しているが、宮川氏はかつて、料金に応じて一部ユーザーを優遇するような制御をするサービスには否定的な見解を示していた。だが寺尾氏は社内で議論の末、既存の顧客に悪影響が出ないよう、技術面での仕組み作りに目途が立ったことから提供に至ったとしている。

昨今のインフレは非常に厳しく、競合他社も既に値上げをしているだけあって、ソフトバンクの値上げはある程度やむを得ない部分がある。ただ一方で、ギリギリまで値上げを抑えたことが、ワイモバイルの実質的な2度の値上げにつながるなど、消費者にマイナスの印象を与えてしまった部分もあるように思う。

そこには同社が契約獲得をより増やしたいという判断も働いたと考えられるのだが、寺尾氏は競合の値上げによって「雪崩を打って何かが起きた訳ではない」とも話しており、値上げが顧客獲得に与えた影響は限定的だった様子を示している。

なのであれば他社に追随して昨年のうちに値上げする判断を下していた方が、消費者のイメージ低下を抑えられたのではないかと感じてしまうというのが、正直な所だ。

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