【連載】佐野正弘のITインサイト 第202回

インフレで注目される中古スマホ、Back MarketのCMOに聞く日本市場開拓の道筋

佐野正弘

長期化する円安に加え昨今の中東情勢の影響により、インフレが一層加速すると見られている昨今。それに加えて2025年後半からのメモリ不足が加わることで、スマートフォンの価格は今後一層高騰する可能性が高い。そこで今後一層注目が高まりそうなのが、中古のスマートフォンである。

かつてスマートフォンを激安価格で購入できた日本では、中古市場の認知や品質に対する懸念などもあって利用が広がっていない。その分、市場拡大の余地が大きいこともまた確かだ。それだけに最近、事業強化を図る中古スマートフォン事業者が増えてきており、その1つとなるのがBack Marketである。

東京・原宿で2026年3月24日から実施されている、Back Marketのポップアップイベント「リファービッシュ・ランドリー」。リファービッシュ品の整備プロセスを確認したり、実物を手にしたりできる

同社はフランスの新興企業で、中古品や返品されたスマートフォンなどの製品を修理・整備し、保証を付けて販売するリファービッシュ品(整備済み製品)を扱うマーケットプレイスを世界的に展開。日本にも2021年から進出している。

そのBack Marketが2026年3月24日から東京・原宿で国内初のポップアップイベント「リファービッシュ・ランドリー」を実施しており、開催に合わせて来日した同社のCMO、ジョイ・ハワード氏に、同社の日本におけるビジネスの現状について話を聞くことができた。

取材に応えたBack MarketのCMOであるジョイ・ハワード氏

昨今の世界的なインフレもあって同社は大きな成長を遂げており、2025年の流通取引総額は35億ドル(約5554億円)を超え、対前年比で32%成長している。ただ市場によって事業の成熟度には違いがあり、欧州や米国と比べると日本の中古スマートフォン市場開拓は遅れているとの認識を示す。

先に触れた歴史的経緯もその要因の1つだが、日本では中古スマートフォンの根幹となる買取・販売の両面で多くの課題があると筆者は見ている。その1つが中古スマートフォンの在庫自体が少ないことで、そもそもスマートフォンを買取に出すハードルが高いと感じている人が多いことに課題がある。

ハワード氏によると、Back Marketでもユーザーがスマートフォンを買取に出す心理的ハードルを乗り越えるため、さまざまな取り組みを進めているとのこと。海外では端末を振って買取査定額を提示する「Shake to Trade」や、スマートフォンの写真を撮影するとAIが端末を評価して査定額を表示する「Scan to Trade」などを提供しており、日本でも今後導入していきたい様子を示す。

スマートフォンを買取に出しやすくするため、海外ではスマートフォンを振って査定額を提示する「Shake to Trade」などの仕組みが導入されているという

ただ、日本で最も多くの人が懸念しているのは、スマートフォンに保存していた個人情報を正しく消せているのか?流出してしまうのではないか?ということだ。

Back Marketでも、買い取りプロセスの中でデータをちゃんと消去したか繰り返し伝えて注意を促すなど、ユーザーへの啓蒙と事前の注意喚起をするなどしているという。だがそれを目にするのは、買取に出すことを決断した人だけでもある。

ハワード氏も日本での個人情報保護に対するアプローチは「まだまだやるべきことが多いと痛感している」と答えており、個人情報に対する不安を解消していくには、まだ解決が必要な課題があるとの認識を持っているようだ。

もう1つの課題は、携帯4社が提供する端末購入プログラムの存在である。これはスマートフォンを長期間の分割払いで購入し、一定期間後に返却することで残りの支払いが不要、あるいは減少する仕組み。携帯各社は返却されたスマートフォンを中古市場に売却して残りの支払い分を補っているが、その多くは海外に売却されてしまっている。

日本ではスマートフォンを丁寧に扱う習慣があるため、世界的に見て中古品の品質が高いことから需要が大きい。一方で、国内の中古スマートフォン市場は発展途上で規模が小さいので、海外の業者に売却した方が、買取額が高いことがその背景にある。実際ハワード氏も、同社が欧州で販売されているiPhoneの一部モデルを調査したところ、中古で販売されているものの4割ほどが日本向けモデルだったと話している。

それだけにハワード氏も「売る側としても国内に(中古スマートフォンを)留めておいた方がいいと思う」と話すが、そのためには国内で中古スマートフォンが多く流通するよう需要を高めていく必要がある。そこで求められるのが、日本でリファービッシュ品をはじめとした中古スマートフォンの販売をいかに増やすのか、ということだ。

ハワード氏は日本市場でサービスを展開してきた学びとして、「日本では製品やサービスに触れる体験が必要。日本の顧客はディテールにこだわるので、しっかり理解し体験できることが重要」と話す。今回ポップアップイベントを実施したのも、リファービッシュ品に実際に触れ、その信頼性と認知を高める狙いが大きいという。

ポップアップイベントではBack Marketが販売するリファービッシュ品の展示も実施されており、その具合や品質を知ることができる

加えてハワード氏は、自身がこれまで参画した企業での経験から「カスタマーケアが成長の重要な要因」と説明し、品質にこだわりの強い日本では特にそれが重要だとも話している。

中古スマートフォン事業者の中にはカスタマーケアを軽んじる所も多いというが、同社ではカスタマーケアの最高責任者を置くなどして、顧客が購入した端末のケアやサポートに力を入れているとのことだ。

ただ日本では、購入時も実物を見たり触れたりした上で購入を決める傾向が強く、店舗を持たずオンラインでサービス展開しているBack Marketにとっては不利な部分もある。

とりわけその傾向が顕著に現れるのが、人口のボリュームが大きいシニア層であり、スマートフォンやオンラインのサービスに慣れていないこともあって、Back Marketの認知や利用に結び付きづらいことが課題だ。

リファービッシュ品を左からA、B、Cのグレード順に並べたところ。Cグレードのものは側面やカメラなどの傷がやや目立つが、Aグレードではほぼ目立たないレベルだ

ただ意外にもハワード氏は、世界的に見てBack Marketで最も伸びているのがいわゆる「Z世代」であるものの、それに続くのが55歳以上の高齢者層であると答えている。その理由はプロモーションにあるようだ。

実際欧州では、高齢層と相性のいいテレビCMを展開して認知を高めるとともに、「All you do you don’t need new」、つまりスマートフォンでやりたいことに必ずしも新しいものが必要な訳ではないという、同社が打ち出したメッセージが高齢層に響いて利用を伸ばしているとのこと。日本で同じ取り組みを実施するかは分からないが、高齢層に即したプロモーションで認知を高めることが重要なことは確かだろう。

一方、同社が最も伸びているというZ世代の開拓についても、日本では課題があるように感じている。なぜならそうした世代が最初にスマートフォンを購入する際、実際にお金を出すのは自身ではなく親となることから、比較的高額な新品のモデルを手にしやすく、中古スマートフォンに目が行きにくいからだ。

この点についてハワード氏は、親世代に対するメッセージの打ち出し方が重要との認識を示している。実際、海外では「子供は(スマートフォンを)落とす」という広告を展開して支持を集めたほか、最初から新品を購入しなくても、中古で色々なことができることを伝える、金融教育と絡めた取り組みも進めているとのことだ。

ポップアップイベントは若い世代が集まる場所で実施されることもあり、電子廃棄物をリユースしたアクセサリを作るイベントなども実施されている

ハワード氏はこれまで、いくつかの国際的企業を渡り歩いた経験から、日本で事業を展開することが、製品やサービスの品質向上に大きく貢献すると捉えていると話す。それだけに、日本市場の開拓はBack Marketのビジネス全体に大きな影響を与えることになると見ているようだ。

ただ世界的に見て日本は非常に特殊な市場でもあり、海外企業が容易に成功できない環境にあることは確かだ。それだけに同社が日本市場を攻略するには、長期的視野で日本の市場特性を理解し、腰を据えて取り組むことが求められるだろう。

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