ストレージ倍増で価格維持、「iPhone 17e」から見える“アップルを取り巻く複雑な事情”

佐野正弘

2026年3月に相次いで新製品を発表した米アップル。中でも注目を集めたのは2026年3月4日に発表された、10万円を切る新機軸の低価格MacBook「MacBook Neo」だろうが、アップルはもう1つ低価格の新製品「iPhone 17e」を2026年3月2日に発表している。

iPhone 17eは2025年にiPhoneの低価格モデルとして投入された「iPhone 16e」の後継となり、その内容はiPhone 16eにかなり近い。実際、本体サイズやデザインはiPhone 16eを踏襲しており、背面のカメラは4800万画素の1眼構成。ディスプレイのフロントカメラ部分も「Dynamic Island」ではなく、旧来のノッチを採用しておりやや古さを感じさせる。

低価格モデルの新機種として投入された「iPhone 17e」。デザインなど多くの部分は「iPhone 16e」を踏襲している(Image:Apple)

ただ、iPhone 16eで不満に挙がっていた点のいくつかは改善がなされており、代表的な所でいえば背面のワイヤレス充電は「MagSafe」に対応し、充電器を貼り付けられるようになった。他にも前面のガラスに「Ceramic Shield 2」を採用して擦り傷への耐性が向上、またカラーバリエーションもブラックとホワイトに加え、ソフトピンクを加えた3色構成となり選択肢を増やしている。

iPhone 16eでは非対応だった「MagSafe」に対応。対応するワイヤレス充電器やアクセサリなどを貼り付けられるようになった(Image:Apple)

そしてより多くの人を驚かせたのが、性能と価格のバランスが大きく変化したことだろう。iPhone 17eのApple Storeにおける日本での販売価格は9万9800円と、iPhone 16eの発売当初の価格と変わらず、10万円近い値段であることから、低価格モデルとはいえ依然高額であることに変わりはない。

だがiPhone 17eは、価格を維持しながら性能もアップしているのだ。チップセットに関して言えば最新の「A19」を搭載しているが、iPhone 16eもチップセットは最新のものを搭載していたし、「iPhone 17」が搭載するA19と比べGPUの性能が抑えられていることを考えると、そこに大きな驚きはない。

ストレージは、iPhone 16eが128GBと256GBモデルの2モデル構成であったのに対し、iPhone 17eは256GBと512GBの2モデル構成に変更されている。AI需要の高まりでメモリやストレージが大幅に高騰しているにもかかわらず、ストレージを倍増して価格を維持したことには大きな驚きがあった。

しかしなぜ、iPhone 17eはストレージを倍にして価格を維持できたのか。そこには1つに、従来のアップルのセオリーを活用して低価格を進めやすくなったことが挙げられる。

先にも触れたように、iPhone 17eはiPhone 16eのボディデザインをそのまま採用している。iPhone 16eは「iPhone 14」をベースに開発されたと見られているが、カメラ数や充電端子などが変更されているため、iPhone 14のボディをそのまま使い回すことはできず、新たにボディデザインを起こす必要があったことが、期待ほど安くならなかった要因の1つと見られている。

だが、iPhone 16eで今後の低価格モデル向けのベースを用意できたので、それをベースにiPhone 17eを開発することでコストは確実に抑えやすくなったといえる。それに加えてモデムも自社開発の「C1X」を搭載するなど、iPhone 16eで培ったセオリーを取り入れて価格を抑えているようだ。

iPhone 17eのボディデザインなどはiPhone 16eを踏襲しており、ベースモデルを変えていないことが価格の維持に貢献している部分も大きい(Image:Apple)

メモリやストレージが大幅に高騰している中、それだけで価格を抑えるのは難しいだろう。それゆえアップルはiPhone 17eで本体の販売から得られる利益を減らし、価格を維持したのではないだろうか。

一般的にスマートフォンの開発期間は2年前後とされ、iPhone 17eのような低価格モデルは、より短い期間で開発がなされていると考えられる。それでも、開発時点でここまでメモリやストレージが高騰することは想定していなかっただろう。もちろん部材の高騰に合わせて本体価格を上げるという手段を取ることも可能だが、低価格モデルはとりわけ価格が重視されるだけに、価格を上げると顧客が離れてしまう。

しかもアップルは、iPhone 17eの発表に合わせてMacBook Neoも発表していることから、従来の高価格・高付加価値路線から、低価格のラインアップを拡充し顧客の幅を広げる戦略へと舵を切っていることが分かる。それだけに低価格モデルで顧客の期待を裏切ることはできず、メモリやストレージ高騰で生じた損を被って従来の価格を維持するという判断に至ったのではないだろうか。

アップルはiPhone 17eと同時期に、iPhoneのチップセットを搭載して低価格を実現した「MacBook Neo」を発表。これまで距離を置いていた低価格モデルの強化に、大きく舵を切っている(Image:Apple)

もっとも、単に利益が少ない低価格モデルを投入するだけでは、価格競争に巻き込まれてしまいアップルの経営にも影響が出てしまいかねない。そこで気になるのが、そもそもなぜアップルが現在のタイミングで、低価格モデルに力を入れるようになったの?である。

筆者が推測するに、そこにはハードだけでなくエコシステム全体で売上を高める狙いがあるのではないだろうか。アップルはハードだけでなくOSやアプリストアの「App Store」、そして「Apple Music」「Apple TV+」などのサービスも自社で開発・提供しており、自社のエコシステムに顧客を囲い込むことで売上を伸ばすというのが、アップルの現在のビジネススタイルとなっている。

アップルは自社でハードだけでなくOS、そしてサービスも提供しており、2026年1月21日にはフィットネスサービス「Apple Fitness+」を日本でも開始している(Image:Apple)

だが世界的にインフレが進む中にあって、エコシステムの入り口となるハードが高騰してしまうと、エコシステムに流入するユーザー自体が減少してしまいかねない。そこでアップルは低価格のモデルを増やし、エコシステムの間口を広げる戦略へとシフトしたのだろう。

そしてエコシステムに顧客を取り込めば、その中でさまざまなサービスを利用してもらうことにより、売上向上につなげられる。アップルが独自のエコシステムを持ち、エコシステム全体でのビジネスを重視するようになったことが、ハードの利益を削ってでも低価格モデルを増やす要因となっているのではないだろうか。

とはいえ、ブランド価値を損なわないためにも低価格化には限界がある。iPhone 17eもお得感が高まったとはいえ、10万円近くと非常に高額であることに変わりはなく、昨今の不安定な世界情勢によって、インフレが一層加速する可能性が非常に高い。それだけに、低価格モデルの強化に踏み込んだアップルは、今後一層悩みが増えることになるかもしれない。

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