ソニーが「クリエイターとの共創拠点」公開。日本発の実写映像コンテンツ強化へ
ソニーは東京都港区の本社内に、外部の映像クリエイターとの新たな共創拠点となる「Digital Media Production Center Japan(DMPC Japan)」を開設した。施設の本格稼働に先立ち、2月12日には国内メディア向けの説明会が行われた。
ソニーはこれまで、米国ロサンゼルス北部のハリウッド近郊、そして英国バッキンガムシャー州のパインウッド・スタジオ内にDMCを設立してきた。DMPC Japanは世界で3番目の拠点となる。
説明会に登壇した、ソニー株式会社 ニューコンテンツクリエイション事業部 事業部長の田渕達人氏に、DMPC Japanが次世代の映像技術の発展やクリエイター育成にどのように関わっていくのか、展望を聞いた。

実写映像が醸し出す空気感やリアリティは“AIには生み出せない”
DMPC Japan設立の背景には、映像制作に携わるクリエイターの間で「フィジカルとバーチャルの融合」をさらに押し進め、これまでにない新しい映像コンテンツを生み出したいという機運が高まっていることがある。
生成AIによる画像・動画生成の新しい技術も台頭しつつある一方、「実写映像が醸し出せる空気感やリアリティの価値は今後も変わらないだろう」と田渕氏は持論を語る。
ソニーは独自開発によるハードウェア、ソフトウェアをからめた映像制作のプラットフォームを長年に渡り、国内外の映像制作のプロフェッショナルのために提供してきた。多彩なソリューションと最新鋭の機材、そしてソニーのエンジニアが持つ知見を世界各所のDMPCに集めて、クリエイターを支える拠点として機能させることが同社の狙いだ。

DMPC Japanは、ソニーの “お膝もと” である東京都内の本社に構える施設であることから、クリエイターとソニーのエンジニアがとても近い距離でコミュニケーションを交わせる。これは先に開設された米国・英国のDMPCにない特色として打ち出せるだろう。
当施設がクリエイターに提供する価値は、主に以下の3点に集約される。
1つは技術検証とワークフローの試行がここで行えることだ。ソニーによる最先端の映像制作機器、ソフトウェアを活用しながら、撮影からのカラーグレーディング、テスト上映までの一連のワークフローをワンストップで検証できる。
2つめに、クリエイターとエンジニアの接点になることも期待されている。最前線で活躍するクリエイターの潜在的な課題を組み上げ、ソニーの技術者が製品開発に活かせる「Win-Winの関係」を構築したいと、田渕氏も期待を寄せる。
そして3つめが、次世代人材を育成する教育機関的なミッションだ。本施設の開設に先立ち、2026年1月には若手クリエイターや学生を支援する目的として、ハリウッドで活躍する撮影監督のオーレン・ソファー氏を講師に招き、映画撮影の最新技術と創造的アプローチを学ぶワークショップが開催された。

このイベントは日本の文化庁、独立行政法人 日本芸術文化振興会のほか、日本映画撮影監督協会(JSC)が主催したものだが、ソニーは今後も同様にクリエイター同士が活発に交流できるコミュニティとしても、DMC Japanの機能を整備する構えだ。
ソニー最新鋭のプロ向け映像制作機器が集まる
施設は主に4つのゾーンに大別され、それぞれの場所にはソニーの最新機材やテクノロジーが投入されている。
実写映像の撮影を行うスタジオには、ハイエンドシネマカメラ「VENICE 2」を中心としたラインナップが揃う。特筆すべきは、他所のDMPCに先駆けて日本が導入した本格的な美術セットだ。

このセットは日本映画テレビ美術監督協会の監修のもとに制作。壁の質感にあえてウェザリング(汚し)を施してリアリティを持たせたり、照明設備にも独自の工夫を凝らした。
実際の映画撮影の現場と同等のクオリティを再現しつつ、ソニーによる最先端の機器による試写ができると、同社のスタッフは完成度の高さに胸を張る。クリエイターが持ち込んだ他社製の機材による試写や、ソニーの機材との実力比較などもこの場所で行える。

スタジオの側には、撮影した素材を即座に確認・編集できるポストプロダクションブースを設置した。ここにはソニーが誇る世界標準の4K液晶マスターモニター「BVM-HX3110」や、同じコンテンツを大画面テレビに表示した際の画質確認もできるよう、コンシューマ向けテレビの「BRAVIA 9」も置かれている。
撮影した映像素材のカラーグレーディングや編集もここで行えるように、ハイグレードなワークステーションも構えた。ソフトウェアは「DaVinci Resolve」や「Adobe Creative Cloud」のツール一式を揃える。機材はクリエイターの要望も聞きながら、随時最新のハイスペックな環境にアップグレードするという。

編集を完了した映像は、バーチャルプロダクションエリアに設置した大型ディスプレイに映し出しながらディテールを確認できる。
このバーチャルプロダクションエリアのディスプレイには、ソニー独自の高精細LEDディスプレイである「Crystal LED VERONA」を使っている。高精細な実写映像を背景に映しながら、演技する役者の映像をリアルタイムに合成するデジタルクロマキー撮影が可能だ。

2026年1月にソニーが発売したばかりの「OCELLUS(オセラス)」も導入した。OCELLUSはバーチャルプロダクションやXRコンテンツの制作において、現実のカメラが空間のどこにあり、どちらの方向を向き、レンズがどのように設定されているかをリアルタイムに把握するためのカメラトラッキングシステムだ。
複眼イメージセンサーユニットとプロセッシングボックス、レンズエンコーダーの3つの主要コンポーネントが連携。これにより、カメラの位置を自由に動かしながら背景の映像と正確に同期させ、高度なバーチャル撮影を可能にする。

OCELLUSはIRマーカーを必要としないビジュアルベース方式を採用したことにより、設営負荷が大幅に軽減される。屋外や障害物のある環境でも高精度なカメラトラッキングができることも、このシステムがもたらすメリットに数えられる。
DMPC Japanのスタジオには実写だけでなく、3DCGの映像コンテンツの制作環境も整えた。バーチャルプロダクションにおいて、実写と3DCGの技術を掛け合わせて制作する映像コンテンツのニーズも高まっているからだ。
スタジオの一角にはソニーがXYN(ジン)のブランドのもとに展開する空間キャプチャーソリューションの技術や、モーションキャプチャーを簡易に行える「mocopi」、大小の空間再現ディスプレイが常設される。

この豪華な施設を誰が使えるのか
ソニーは、この豪華な映像制作設備を誰のために開放するのだろうか。
当初は施設の監修にも携わっている日本映画撮影監督協会(JSC)のメンバーから「人づて」に利用を促進することが想定されているという。田渕氏は、ここで提供する機材やソフトウェアはプロフェッショナルグレードのものばかりなので、特に当初は必然的に映像制作のプロフェッショナルを中心に使われることになるだろうと語る。
施設および機材は無料で利用できる。その背景には、この施設がソニーにとって直接的な収益を得るための拠点ではなく、クリエイターとの共創を促進するための施設として位置付けられているからだ。施設の運営や予約管理などのマネジメントは、グループ会社であるソニーマーケティングが担当する。

ソニーグループの中には、映像制作のポストプロダクションおよび制作技術全般のエキスパートとして、クリエイターの創作活動を最前線で支えるソニーPCLという企業もある。クリエイターはこれまで通り、ソニーPCLから必要な機材をレンタルしたり、制作技術に関連するサポートを受けることもできるだろう。
では、DMPC Japanの役割はどのようにすみ分けられるのだろうか。田渕氏はDMPC Japanが「制作に入る前の技術検証やテスト撮影ができる場所」であるとしながら、「制作のワークフロー全体を俯瞰しながら、課題を見つけられることも大きなメリットになる」と説いている。
クリエイターがDMPC Japanの設備を使いこなせるようになれば、新しい手法を試し、その成果を実際の現場で素速く活かせる好循環も生まれそうだ。
DMPC Japanは、ソニーのプロフェッショナル向け製品を手掛けるエンジニアの拠点と近接している。この環境によってクリエイターのフィードバックが開発現場へ迅速に共有されるため、OCELLUSのような実用性の高いデバイスが次世代製品として形になるまでのスピードも加速する。
ソニーが日本発の実写映像コンテンツを強くする
DMPC Japanの説明会には、ソニーマーケティング株式会社から取締役 執行役員 B2Bビジネス本部 本部長の中川一浩氏も出席した。

中川氏によると、日本のコンテンツ産業は現在、米国と中国に続く世界第3位のポジションにあるという。日本のコンテンツ産業の「強み」は、ただむやみに規模を追い求めるのではなく、質の高いクリエイターの存在や魅力的なIPに代表される独自の武器を持つことだと筆者は考える。
特にアニメやゲームに関連するコンテンツの海外輸出は、今後の日本経済を牽引する原動力になることが期待されている。中川氏は「昨今は日本発の実写映像のコンテンツも、世界的に高い評価を受けている」とし、DMPC Japanを実写コンテンツの発展にも貢献する施設にしたいと意気込みを語った。

DMPC Japanは、ソニーが掲げる「クリエイターに近づく」というパーパスを体現する拠点だ。ここは最新技術を誇示するショールームや、施設のレンタル収益を主眼とした場所ではない。中長期的な視点で制作技術の進化を支援し、世界のクリエイターと連携しながら、独自の表現を支える役割を自ら担おうとするソニーの姿勢は注目に値する。
今後、この場所を起点に、日本特有の繊細な美術表現と最先端のデジタル技術が融合し、世界を驚かせる新たな映像体験が次々と生み出されることを楽しみにしたい。
