トム・ハンクスの映画『天使と悪魔』で登場する研究施設です

CERNの超巨大ハドロン衝突型加速器が「排熱で地域暖房」を計画

Munenori Taniguchi

Image:CERN

ときにヒッグス粒子発見で物理的現実の概念を再定義するのに貢献したり、そのヒッグス粒子にさらされた人がゾンビになってしまうというインディーズホラー映画『Decay』の撮影や、ヘヴィメタルバンドMegadethのアルバム『Super Collider』のジャケットにも使われたりと、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)は、われわれ一般人にはそれがどんなものが理解し難いイメージばかりが一人歩きしているようだ。

実際のところLHCとは、全周が26.7kmもあるドーナツ型トンネルの中に、とてつもない速度で一対の素粒子をそれぞれ逆方向に飛ばし、それが衝突して粉々に吹き飛ぶのを観測して物理学的データを採取するのを目的とする設備だ。ますますわからないとは思うが、この記事ではそれは問題ではない。

問題は、このLHCが素粒子1対をとてつもない速度で飛ばし、正面衝突させてそれを観測するには、年間600~750GWh(ギガワット時)という、やはり想像が追いつかない規模の電力を消費する。ただ、それほどまでの電力を消費すれば大量の廃熱も発生するだろうということはわかる。

業務用の水冷式エアコンやそれ以上に巨大な設備などは、熱交換で発生する廃熱を蒸発式冷却塔(クーリングタワー)から大気中に放出するケースが多い。工場やビルの屋上などで、冬になると湯気を出している白い機械がそれだ。

超巨大なLHCにおいてもそれは変わらず、廃熱は蒸発冷却塔を通じて大気中に放出されていたが、CERNはこのたび、大型ハドロン衝突型加速器ビューティー(LHCb)実験という、新たな実験計画として、施設の環境特性を改善しながら、膨大な廃熱を有効活用する方針を打ち出した。

LHCbは、フランスのフェルネー=ヴォルテーの町近郊に横たわるLHCのリング状のある施設に熱交換器を設置し、この巨大粒子加速器が出す熱を周辺自治体の地域暖房システムに供給するというものだ。具体的には、フェルネ=ジュネーブ・イノベーション開発ゾーンと呼ばれる地域の数千戸の住宅と商業施設に熱を供給することになる。

Image:CERN

すでにLHCb実験は開始している。昨年12月から2台の5MW熱交換器によってフェルネー=ヴォルテールの新しい暖房ネットワークに熱エネルギーが供給され、地域暖房を実現しているとのことだ。

Image:CERN

LHCは設備の修理や改造に数年単位の期間を費やすことが多く、もしそうなったときに、この廃熱暖房システムを利用する地域の人々がどうするのかはわからない。だが、とりあえず大気に放出されるとてつもない廃熱が、そのいくらかでも回収して再利用されるのなら、それは良いことに違いない。

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