【連載】佐野正弘のITインサイト 第194回
mineoの“生き残り策”、巨額投資の「音声フルMVNO」参入で“携帯4社”に対抗できるか
低価格のモバイル通信サービスを提供し、かつては「格安スマホ」などの名称で人気を博したMVNO。だが現在は携帯大手3社や新興の楽天モバイルなどに押され、存在感が低下してしまっているのが実情だ。
そうした状況下にあって、MVNOが今後存在感を高めていく上では何が求められるのだろうか。2026年1月27日に、MVNOとしてモバイル通信サービス「mineo」を提供しているオプテージが事業説明会を実施し、「音声フルMVNO」と「MVNO Operation Kit」という2つの取り組みを打ち出しているのだが、この2つはまさに、今後のMVNOが生き残るための道筋を示したものとなっている。

mineoは契約回線数が137万に達しているMVNOの大手サービス。だがそれでも全契約回線数が1000万を超える楽天モバイルなど、携帯4社と比べれば規模は非常に小さく、より多くの利用者を獲得して事業を拡大するには課題があるという。
その1つは、携帯電話会社からネットワークや設備を借りるという、MVNOとしての立場に起因する制約だ。mineoをはじめ多くのMVNOは現在、モバイル通信に関する一部の設備だけを自社で保有する「ライトMVNO」と呼ばれる形態で運営している。SIMを携帯電話会社から借りないとサービス提供できないなど、MVNO側がサービスの自由度を高めるのが難しい状況だ。

楽天モバイルも、そうしたMVNOならではの制約があっては携帯大手に対抗できないとして、MVNOから携帯電話会社へと転身を図った経緯がある。だが、その楽天モバイルが巨額の赤字で苦しんでいるように、自ら全国に基地局を整備してネットワークを構築するとなると、非常に大きなコストがかかりビジネスを成立させるのが難しくなってしまう。
そこで今回、オプテージが選んだのが「音声フルMVNO」への転換である。フルMVNOとは、分かりやすく言えば基地局以外の多くの設備を自社で持ち、ネットワークを運用すること。ライトMVNOとは違って自らSIMの発行ができるなど、サービスの自由度が非常に高くなる。
ただフルMVNOになるには、自ら基地局を設置するほどではないとはいえ、かなり大きな設備投資が必要になる。それだけに参入には二の足を踏むMVNOが多く、実際にフルMVNOとしてサービスを提供しているのは、同じくMVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)など数社しか存在しない。
加えてデータ通信だけでなく、音声通話に関する設備も自社で持って運用するとなると一層サービス提供のハードルは上がるため、これまで音声フルMVNOへの参入を打ち出しているのは日本通信1社のみ。同社は2024年2月に、NTTドコモのネットワークを用いた音声フルMVNOとしての参入を表明しているが、その後サービス開始の予定日を2026年5月24日から2026年11月24日に延期するなど、実現に苦戦している様子である。

それに続いたのがオプテージで、あえてリスクを取ってハードルの高い音声フルMVNOへの参入を表明した。同社はau(KDDI)回線を用いて音声通話も含めたフルMVNOによるサービスを2027年度下旬に提供する予定としており、将来的には現在ライトMVNOとして提供しているサービスと同様、au以外のネットワークも用いたマルチキャリア音声フルMVNO事業者となることを目指すという。
確かに音声フルMVNOとなればサービスの自由度は大きく高まり、データ通信だけでなく音声通話に関しても多様なサービス設計が可能になるなど、サービス面での魅力を大きく高められる。それだけに、MVNOであるオプテージが今後の生き残りを図る上で、積極的に投資をし、自ら音声フルMVNOとなる選択肢を取ったことは、大いに評価すべきだ。

一方で気になるのが料金である。ライトMVNOは自由度が低いが、その分設備投資を大きく抑えられることが低価格を実現する要因の1つとなっていた。だが、音声フルMVNOとなり多額の設備投資をしたとなれば、そのコストがユーザーの料金に跳ね返って “格安” ではなくなってしまう可能性も出てくる。
この点について同社の取締役常務執行役員・モバイル事業推進本部長である松本和拓氏は「(設備投資が)かなり負担になってくることは間違いないが、一方で設備を自分で持つことは、接続料金を下げるメリットもある。これを天秤にかけてコストを維持し、サービスの幅を広げることをやっていきたい」と回答。音声フルMVNOとなっても可能な限り現行のサービスと同じ水準の料金は維持したいとしている。
そしてもう1つ、オプテージが今回打ち出した「MVNO Operation Kit」も、MVNOが生き残りを図る上で重要な取り組みとなるものだ。
低迷傾向にあるMVNOだが、実はその数は年々増加傾向にあり、2024年末時点で1991社に上っている。その理由は小売りや交通など、通信とは関係ない異業種からの参入が増えているためだ。

モバイル通信で直接ビジネスをする従来のMVNOとは異なり、こうした企業はモバイル通信を顧客接点の1つとして活用するなど、本業のビジネス強化のためにモバイル通信を活用しようとしている。ただ、通信とは無関係の企業がMVNOに参入するには、専用の技術や設備が必要なだけでなく、運用・サポート体制の構築、そして通信事業独自の法制度を理解する必要があるなど、非常に多くのハードルをクリアする必要があり障壁は高い。
それゆえ最近では、異業種企業のMVNO参入をサポートすることに力を入れるMVNOが増え、新たなビジネスとなりつつある。最近の例であれば「nuroモバイル」「nuro光」などを展開するソニーネットワークコミュニケーションズから独立したミークが、ミークモバイルという企業を設立し、異業種企業のMVNO参入を支援する「MVNO as a Service」というサービスを2025年10月より提供開始している。

MVNO Operation Kitも同様に、オプテージがMVNOに参入したい企業を支援する仕組みとなるのだが、大きなポイントとなるのは自由度と低コストを両立する仕組みであることだ。
MVNOの支援形態にはさまざまな形態がある。ここ最近増えているのは、通信サービス自体は支援元の企業が包括提供し、そこに支援先の企業のブランドを付け、独自の付加価値などを追加してユーザーにサービス提供する「ホワイトラベル」と呼ばれるもの。ミークのMVNO as a Serviceもこれに類するもので、支援元企業が用意した仕組みをそのまま使うのでコストを抑え短期間でサービスを開始できる一方、サービスの自由度は低い。
そこでMVNO Operation Kitでは、オプテージが提供する通信関連の機能やサービスと、パートナー企業が提供する機器やアプリなどの商材、そして支援先企業のサービスなどを組み合わせ、共同でサービスを作り上げる仕組みを構築。ホワイトラベルより自由度が高いサービスを実現しながらも、サービス開始までにかかる時間やコストを抑えられるメリットがあるそうで、すでに5社が導入を検討しているという。

「格安スマホ」としてMVNOが注目されてからおよそ10年が経過するが、これまでの経緯を振り返っても、MVNOが得意としてきた安さだけで携帯4社に対抗するのが難しくなっていることは間違いない。MVNOが利用者を増やすには、携帯4社とは異なるニーズを満たすことが求められているが、そのためにもサービスの自主性を高める音声フルMVNOは欠かせない存在といえるし、MVNOの多様性を広げる上でもMVNO Operation Kitのような取り組みも重要なものとなる。
今回のオプテージの取り組みは非常に意欲的なものであり、その分リスクも伴う。だがそれだけに、成功すれば業界での存在感を大きく高める可能性もあるだろう。いずれも具体的なサービス展開はやや先となるようだが、MVNOの将来を見据える上でも同社の今後の展開が期待されるところではないだろうか。
