詐欺のような話で詐欺でないような話

月面ホテルの宿泊予約開始、前金は25万ドルから。開業予定は2032年?

Munenori Taniguchi

Image:NASA

GRU Spaceと呼ばれるスタートアップ企業は、月面に高度な居住施設を段階的に建設し、最終的にはサンフランシスコのパレス・オブ・ザ・ファインアーツをモチーフにしたホテルを完成させる計画を発表した。そしてこのホテルに宿泊を希望する人に対し、25万〜100万ドルの保証金を支払うよう呼びかけた。

この保証金を支払った顧客には、早ければ2031年にも開始される予定の、同社の月面ミッションに参加するための訓練への参加権が与えられるという。だが、この話に聞いてすぐに25万ドルぐらい出せるかも…と思った人は、もう少し警戒心を持ったほうが良いかもしれない。

この企業は、カリフォルニア大学バークレー校を最近卒業したというスカイラー・チャン氏が設立した。いくら名門校の出とはいえ、創業者はまだ社会に出たばかり。しかも同社の従業員はチャン氏を含め2人しかいないというのだから、普通に考えればこれは詐欺話だ。

だがチャン氏は、大学ではNASAの援助のもと宇宙で実験するための3Dプリンターを開発し、インターンシップではテスラで車載ソフトウェア開発に携わったという。そんな経験を積む段階で、人類を月へ送るための画期的な技術を開発している会社や人々は大勢いるのに、その活動の大部分を支えているのは米国政府と億万長者が所有する企業だけだという事実に気づいたという。

そして、政府と大富豪(の会社)が2本の柱だと考えると、現状でそこに欠けていて第三の柱になりうるのが宇宙観光産業であり、月面にホテルを建設すれば周辺に道路や倉庫、基地といった構造物を建設する足がかりになって、経済圏が生まれるとチャン氏は考えた。ゆくゆくは、月から火星、小惑星、そしてさらに遠くにある惑星へと足を伸ばして資源を採取可能としていくことで、人類の宇宙進出を促進していくことができる考えであるという。

つまり「月面ホテルですよすごいでしょ泊まりませんか?」と宣伝ばかりして、ただただお金を集めようとするだけなら確かに胡散臭いが、チャン氏はその先まで見越して会社を設立したということだ。GRU Spaceの「GRU」が、Galactic Resource Utilizationを意味し、将来的に銀河の資源活用を目指す名前であることもその志を表している。

GRU Spaceは現在、2029年に民間の月面着陸船で重さ10kgのペイロードを月面に送り込むことを計画している。このミッションでは、風船のように膨張することで機能するインフレータブル構造物と、ジオポリマーと呼ばれるセメント代替物質と月面の砂であるレゴリスを用いて、現地でコンクリートのような素材を作り出すことを目指す予定だ。これらはいずれも、将来の月面ホテルの建設に用いられる。

続く2回目のミッションでも、さらに大型のインフレータブル構造物を月面に送り、資源開発能力を高める。そうして建設されたホテルは、2032年に開業するというロードマップになっている。このホテルには最大4人が滞在でき、その後冒頭に述べたパレス・オブ・ザ・ファイン・アーツ風の豪華な構造物を月面コンクリートで建設していく計画だ。

GRU Spaceはすでに、数々の成功企業を生み出したY Combinatorからシード資金を得るとともに、スタートアップ企業の活動を起動に乗せていくためのアクセラレータープログラムへの参加も決まっている。このプログラムによって、同社はさらに製品開発や資金調達の道筋を増やしてく計画だ。

ちなみに、冒頭に紹介した25万ドルから100万ドルというのは、あくまで完成した月面ホテルに宿泊するための予約保証金であり、最終的な宿泊費はさらに高額になる予定だ。そのため、宿泊希望者に対しては予約維持能力をみるための審査も厳正に行われる予定となっているという。

SF小説のように誰もが宇宙に進出できるようになるのはまだ数世代は先だろうが、大金持ちなら、もしかしたら数年〜十数年後には月に行くことができるかもしれない。

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