【連載】佐野正弘のITインサイト 第189回
悲願の1000万契約も「安泰ではない」楽天モバイル。2026年は“大きな節目”に
2019年に自らインフラを敷設する携帯電話会社としてサービスを開始した楽天モバイル。その楽天モバイルが、2025年12月25日、2020年4月のサービス本格開始から5年8か月で、目標としてきた1000万回線契約をついに突破した。
大手3社を除く独立系の携帯電話会社(PHSも含む)で1000万契約を達成したサービスは、これまで存在しない。現在は合併しソフトバンクの一部となっているイー・アクセスやウィルコムも、ソフトバンク傘下となる前の契約数は400万件クラスである。1000万契約を達成するのは難しいだけに、楽天モバイルが6年に満たない期間でそれを達成したのには驚きがある。

ただ実は、MVNOとしての時代を含めるならば、楽天(現在の楽天グループ)の携帯電話事業への取り組みは、2012年からと意外と古い。同社傘下のフュージョン・コミュニケーションズ(現在は楽天コミュニケーションズ)が、同年にNTTドコモのMVNOとして提供開始した「楽天ブロードバンド LTE」が、現在の楽天モバイルの事業へとつながる重要な存在といえるだろう。
当時はまだ携帯電話料金が高かったこともあり、MVNOが低価格なモバイル通信サービスを提供する「格安スマホ」として急速に注目を集めるようになった。そこで2014年にフュージョン・コミュニケーションズは「楽天モバイル」のブランドで音声通話付きのモバイル通信サービスを提供開始し、MVNOとして携帯電話事業を本格化させたのである。

その後楽天モバイルは、「楽天」ブランドの知名度の高さと、有名人を積極的に起用したテレビCMなどによって契約数を順調に拡大。多数の企業が参入し一気にレッドオーシャン状態となったMVNO市場の中でトップシェアを獲得することに成功したのだが、楽天グループは2017年12月に突如、自らインフラを持つ携帯電話事業として新規参入することを明らかにしたのである。
自らインフラを持つとなれば、設備を借りるMVNOと比べ投資額が桁違いとなる。それだけに、参入を疑問視する声が少なくなかった。だが三木谷氏は、大手3社からネットワークを借りるMVNOのままでは自由なサービスを展開できず、「奴隷のようなもの」だと発言した。
真に大手3社に対抗する存在になるためには、自らインフラを持ち独自性のあるサービスを提供する必要があると判断したようだ。2018年には現在の楽天モバイルとなる「楽天モバイルネットワーク」を設立し、携帯電話事業へ正式に参入することとなった。
独自性に強くこだわるだけに、楽天モバイルはサービス開始当初から、新しい技術を全面的に採用している。たとえば、ネットワーク設備の機能を汎用のサーバーとソフトウェアでこなす仮想化技術や、基地局などの無線設備を特定のベンダーに依存しない、オープンな仕様のものを採用する「オープンRAN」などだ。
サービス面でも、現在の「Rakuten最強プラン」にも続く低価格でデータ通信が使い放題の料金プランや、国内通話が無料でできる「Rakuten Link」の提供など、独自色の非常に強いサービスを展開している。

ただ、ネットワーク整備にかなり苦戦したのも事実である。楽天モバイルが自社ネットワークによるサービスを開始したのは2019年10月だが、この際提供できた「無料サポータープログラム」は事実上の試験サービスというべきもの。サービス開始の前後には、ネットワーク整備の遅れや通信障害の発生などによって何度も行政指導を受けており、慣れないネットワーク整備に苦戦する様子を見せていた。
そうした状況に危機感を覚えた楽天モバイルは、楽天グループのリソースを全面的に活用してネットワーク整備の拡大に全力を注ぎ、2020年には5年前倒しで基地局整備を進める方針を示した。その結果、2022年には4年前倒しで、4G回線の人口カバー率96%を達成したとしている。

加えて2020年4月には、料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」を打ち出して本格的な携帯電話サービスを開始。それに伴い先着300万人に、1年間月額0円で利用できるキャンペーンを打ち出し大きな話題を呼ぶなど、攻めの姿勢を強めることとなった。
だがそのことが仇となった部分も少なからずあり、ネットワーク整備の大幅な前倒しの結果、短期間のうちに大幅な赤字を計上。また月額0円施策で獲得した顧客を逃さないためにも、2021年に投入した新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」で、月当たりの通信量が1GB以下の人は月額0円で利用できる仕組みを導入したが、その影響で月当たりのARPU(1ユーザー当たりの平均売上額)が1000円を切るなど、収益につながらず赤字解消の目途が立たない状況が続くこととなった。

結果、楽天モバイルの大幅な赤字で楽天グループの経営不安もささやかれるようになり、一時は楽天モバイルの身売りも噂されたことから、楽天モバイルも戦略を大幅に転換。そのことを象徴しているのが、1つに2023年6月、KDDIと再びローミング契約を締結したことだ。
楽天モバイルはサービス開始当初より、自社ネットワークの整備ができていないエリアをKDDIとのローミングでカバーしていたが、自社網の整備を急いだ結果、ローミングでカバーしているのは人口が低く、整備をしても採算性が低い地方のエリアが主となった。そこで楽天モバイルはKDDIとのローミング契約を延長し、赤字の原因となっている設備投資を大幅に抑えながら、全国を広くカバーできる態勢を整えたのである。

もう1つは月額0円施策を止めることで、楽天モバイルは2022年に提供した「Rakuten UN-LIMIT VII」で、月額0円で利用できる仕組みを廃止。その結果、一気に20万以上の契約数が減る事態も招いたが、業績改善に大きく寄与したこともまた確かである。
そして2023年から現在に続く「Rakuten最強プラン」の提供以降は、ネットワーク整備を抑制した分のコストを顧客獲得に充て、契約数を増やすことに注力。2023年には法人向けの料金プランを開始し法人需要の獲得にも乗り出したほか、2024年には「最強家族プログラム」などの割引施策を相次いで打ち出している。

これら施策が好評を得て、契約数を大きく伸ばしたことは確かだろう。実際、楽天モバイルが2025年11月7の950万契約から、およそ1か月のうちに契約を50万以上伸ばしたのには、大口の法人契約などが大きく影響したと三木谷氏は話している。
2025年には、大手3社の値上げが相次ぐ中にあって、三木谷氏が9月にRakuten最強プランを「値上げしない」と宣言。低価格を維持して顧客獲得にまい進する姿勢を見せていたが、一方で楽天モバイルは新たに、映像配信の「U-NEXT」をセットにした上位プラン「Rakuten最強U-NEXT」を追加。付加価値のある高額なプランを提供することで、ARPUの向上にも力を入れるようになった。

そうした紆余曲折を経て、楽天モバイルはようやく1000万契約を達成するに至った訳だが、契約者が増え経営面での不安が減少してきたこともあってか、三木谷氏は黒字化を急ぐよりも、成長を重視する姿勢を示している。それだけに楽天モバイルは、2026年も顧客獲得を重視し、より一層契約数を増やすことに力を入れるものと考えられる。
ただその2026年は、9月末をもってKDDIとのローミング契約が再び切れる年でもある。先にも触れたが、楽天モバイルが現在顧客獲得に全力を注ぐことができるのは、ローミングにより地方のエリアを自社で整備する必要がないからでもあり、契約を再延長できないとなれば戦略の前提が大きく崩れてしまうのだ。
一方で、楽天モバイルがローミングに依存しながら顧客獲得重視の低価格戦略を取り続けることには、競合から反発の声も出ている。それだけに楽天モバイルにとって、2026年は同社の今後をも大きく左右する、非常に大きな節目の年となることは間違いないだろう。
