吹き替えにも吹き替えの楽しみがあります
Prime Video、アニメの「AIによる英語吹き替え」をひっそりと削除

米国のAmazon Prime Videoは、アニメ作品の英語吹き替えにAI生成音声を使ったことで視聴者から激しい非難を浴びたことを受け、ひっそりと当該作品の吹き替え音声を削除した。
AI吹き替えを使用していた作品は『BANANA FISH』や『ヴィンランド・サガ』や『ノーゲーム・ノーライフ』などの英語吹き替え版で、視聴者らはそれ以外にもAI生成による吹き替えがあると指摘している。
AIの音声を当てられた作品は、随所でキャラクターの感情表現などのがまったくシチュエーションに合っていない。酷いときはロボットのように聞こえるところもあり、「笑えてしまうほど酷い」と酷評されている。
AI吹き替えに激怒しているのは、視聴者ばかりではない。AIがエンターテインメント業界に侵入することに対して批判の声を上げてきた声優らも、当然ながらこの動きを激しく非難している。アニメ業界で活躍し、『ドラゴンボール超』のフリーザ役で知られるダマン・ミルズ氏は、「『BANANA FISH』の吹き替えにAIを使うというAmazonの選択は、われわれパフォーマーにとって大きな侮辱だ。AIはあらゆる言語におけるパフォーマーの生活を脅かし続けている(この問題について大きな声を上げている日本の声優たちでさえも例外ではない)」とXで意見を述べた。
さらに、ミルズ氏は「8年も前にリリースされ、スケジュール的に差し迫る物でもなかった作品の吹き替えにAIを使う行為は、われわれへの侮辱であり、消費者を激怒させ、芸術性を完全に破壊するものだ」「彼らが成し遂げたのは、粗悪な製品を作って多くの人々を怒らせただけだ」と、AI生成の吹き替えを適用したAmazonを厳しく非難した。
動画ストリーミングサービスにおける生成AI問題としては、今年の夏にアニメ専門チャンネルCrunchyrollで物議を醸したAI生成字幕の例が記憶に新しいところだ。問題となったのは『Necronomico and the Cosmic Horror Show』と題された新作アニメで、その初回のドイツ語字幕のなかに「ChatGPT said : 」という、無意味だが非常に物議を醸すであろう文言が紛れ込んでいるのが発見され、この作品の字幕がAIによって生成されたことが発覚した。
この件は、字幕を付与したスタッフがきちんとチェックしていれば、取り除けたはずのケアレスミスだ。サービス全体の字幕の質に不満を訴えてきた目の肥えたアニメファンらは「明らかに作品の質を気にしないサービスに対し、どうしてわれわれが料金を支払わないといけないのか?」とSNSでその不満をぶちまけた。字幕の質の悪さの正体が、ChatGPTを使った手抜き作業のせいだったことが明らかになったからだ。
今回のAI生成吹き替えも、8年間にわたって英語吹き替えを待ち望んでいた『BANANA FISH』のファンにとっては侮辱的なことだったはずだ。海外映画やアニメのファンの多くは、それを演じる声優のファンでもある。そこを生成AIで置き換えてしまうことに何の問題も感じないサービスに視聴者が満足するとは思えない。Amazonは単に問題の吹き替え版を削除するだけで良いと思っているのかもしれないが、視聴者はきっとサービスへの信頼を失っていることだろう。
- Source: Daman Mills(X) Amime Corner
- via: Futurism
