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ブライアン・メイ、立体写真で銀河の歴史探訪する新著「Islands in Infinity: Galaxies 3D」発表

Munenori Taniguchi

Image:Markus Wissmann/Shutterstock.com

英国のロックバンド、クイーンのギタリストで天体物理学博士でもあるブライアン・メイが、作成に数年間もの歳月を費やしたという巨大銀河の3D写真を多数収録した書籍「Islands in Infinity: Galaxies 3D」を発表した。

ここ数年は非常に遠い宇宙の様子が写真として見られるようになった。特に、2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の運用開始によって、かつてなら見ることができなかった、百数十億光年の距離にある巨大銀河の姿がわれわれに届けられるようにもなっている。

ただ、これらの画像はその美しさで我々を圧倒するものの、本当のスケール感までは伝えてくれるものではなかった。その理由は、その写真が紙やスクリーンといった二次元の画像として示されているからだ。二次元の画像では、そこに含まれる数十億もの星や宇宙ガスの広がりと深さは伝わらない。

しかし、自らを天文オタク(astronomy nerds)と呼ぶブライアン・メイと、物理学者デレク・ウォード=トンプソン、天体写真家のJ-P・メツァヴァイニオの3人は数年前から、何光年も離れた場所からこれらの銀河を眺めることができたら、どう見えるかを人々に示すべく、今回の書籍の出版を目指すことにしたという。

ブライアン・メイといえば、クイーンのギタリストであるとともに、天体物理学博士の称号を持つ(宇宙塵に関する研究論文により、2007年に取得)科学者であることは、ファンの間では知らぬ者がいないほど有名な話だ(余談だが、クイーンのベースを担当するジョン・ディーコンも、チェルシー大学首席卒業、電子工学博士号を持つ秀才だ)。

そして、ブライアン・メイはその天文学の知識を活かし、宇宙探査や宇宙の神秘に関する天体のステレオ写真(Stereoscopic)を収録した書籍をこれまでに数冊発表してきた。

これまでの書籍が宇宙探査や私たちを取り巻く宇宙の一側面にフォーカスするものだったのに対し、今回の書籍は大きく視野を拡大し、広大な宇宙に散らばる数億もの銀河に着目したものとなっている。

Image:The London Stereoscopic Company

共著者で星と惑星の形成、そして星間磁場の研究を専門とするウォード=トンプソン氏は、この書籍に関し、「この本の素晴らしい点の一つは、この40年間で私たちの知識がどのように進化してきたかを物語ることができることだ」としている。

そして「例えば、私が学生だった頃、私たちは『普通の』渦巻銀河、つまり今皆さんが想像しているような、中心から渦巻腕が伸びている銀河に住んでいると教えられた」だが現在ではこの天の河銀河は「中心の突起の両端から渦巻き状の腕が伸びている棒渦巻き銀河」であることが判明している。これは「40年前には分からなかったことだが、新しい波長による観測、宇宙望遠鏡の進歩、赤外線衛星などの登場によって、ようやく分かった」ことだと説明した。

もうひとりの共著者で、フィンランドの天体写真家であるメツァヴァイニオ氏は、この書籍に収録されたいくつもの銀河を、精緻なステレオ写真に仕立て上げ、それを立体視するためのOwl viewerと称する立体メガネを設計した。

一般的なステレオ画像は、左右に離れた2つの位置から同時に(または時間差で)撮影することで、右目と左目からの視点を再現し、立体視を得る。これは、NASAのアポロ計画の宇宙飛行士らも用いた方法だ。

しかしブライアン・メイは今回の書籍にはこのやり方は通用しないと説明した。なぜなら、収録するのに選ばれた巨大銀河は、非常に遠い宇宙にあるため、撮影時にわずかにカメラを水平方向にずらした程度では画像にしたときの見え方に変化がないからだ。無理矢理やろうとすれば、何百万光年も離れた2つのカメラが必要になるかもしれない。

メツァヴァイニオ氏は、この問題を解決するために遠方の銀河を写した画像を2枚に複製し、その銀河に関する既存の科学的知識を駆使し、またウォード=トンプソン氏の協力も得て、一方の画像のピクセルを立体視画像としたときにあるべき場所へとずらす加工を加えることで、まるでその銀河のそばまで行ったときに見えるような立体視を得るステレオ画像に仕上げたとのことだ。もちろん、この製作においてAIなどは使われていない。

製作の際には、銀河の手前にあり邪魔になる星や銀河を取り除く作業なども行ったという。ブライアン・メイは「JPは、何千光年も離れた場所に立っているのと同じ視差を作り出す魔法のような技を持っている。これは素晴らしい眺めだ。われわれはかつて、こんなものを見たことがなかった」とこのステレオ画像を自慢した。

ウォード=トンプソン氏が執筆し、ブライアン・メイが編集したこの書籍は、現在私たちが深宇宙で見ることができる銀河の進化を解説しているのだという。収録されているのは、アンティークのペンダントのように青と金色に輝くNGC 253(ちょうこくしつ座銀河)や、池の波紋のようなリングを持つ棒状レンズ状銀河のNGC 3925、ウォード=トンプソンが「宇宙の列車事故」と呼ぶ、互いに衝突しあうNGC 4567と4568という2つの銀河などだ。

ブライアン・メイらはこの本が、遠く冷たい宇宙の奥深くに何があるのか​​に興味を持つ人々の、天文学への入り口になれることを願うとした。

ちなみに、この書籍は英国では40ポンド(約8200円)で販売されている。記事執筆時点で確認したところ、日本のアマゾンでは1万1050円だった。

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