これでもAnthropicより割安とのこと

アップル、Googleと年間10億ドル規模のAI契約か。刷新版Siri強化のため

多根清史

Image:Mamun_Sheikh/Shutterstock.com

アップルが2026年3月にリリースを予定している刷新版Siriについて、同社がGoogleの「Gemini」に依存する形で開発を進めていると報じられている。その詳細をBloombergが明らかにした。

数日前、アップルの動向に詳しいMark Gurman記者が、AI搭載の新Siriに採用されるAIプロバイダーとして、GoogleがAnthropicとの競争を制したと報じていた。今回はその続報である。

前回の報道では、アップルの最終選定においてAnthropicのモデルの方が性能面で優れていたが、Googleが提示した価格が安価だったことが決め手になったとされていた。また、すでに結ばれている検索エンジン契約も考慮されたようだ。

Gurman氏によると、アップルがGoogleに支払うライセンス料は年間およそ10億ドルで最終調整が進んでいるという。

新Siriに採用されるカスタムGeminiモデルは、1.2兆パラメータという巨大規模のAIになる見込みだ。パラメータとはAIモデルの複雑さを示す指標であり、アップルが独自に開発しているクラウドAIは1500億パラメータ、iPhoneなど端末内で動作するローカルモデルは30億パラメータに留まるとされ、その差は圧倒的である。

この外部技術を組み込むプロジェクト「Glenwood」は、Siri刷新の責任者に任命されたマイク・ロックウェル氏(元Vision Pro開発責任者)が監督しているという。

もっとも、Geminiモデルが担当するのはSiri全体の機能ではなく、情報要約や計画立案といった部分に限定される。これらはSiriが複雑なタスクを整理・実行するうえで中核となる領域であり、その他の機能には引き続きアップル自社のAIモデルが使われる見込みだ。

Geminiはアップルの「プライベートクラウドコンピュート」環境上で稼働することも確認されており、ユーザーデータがGoogle側と共有されることはない。アップルが重視するプライバシー保護は維持されるとみられている。

また、この新契約は現在のOpenAIとの連携とは異なる。ChatGPTはSiriに統合され、ユーザーとの会話に直接関わる仕組みだが、Geminiはあくまで内部処理用のAIとして動作する。2024年にもアップルとGoogleは同様の提携に近づいたが、その際は実装には至らなかったという。

つまりGeminiはSiriの裏側で動くAI基盤であり、Googleはあくまでバックエンドの技術提供者にとどまる。ユーザーに「Google製AI」が見える形では提供されない。

ただし、アップルはGeminiを長期的な依存先とは見ていないという。社内では1兆パラメータ級の自社クラウドAIモデルの開発が続けられており、将来的にはそれに置き換える方針とされている。

一方で、アップルからAI人材の流出が続いており、主にMetaが高額報酬(最大2億ドル超)で引き抜いているとの報道もある。ただし、MetaはAI分野に多額の投資を続けている一方で、マイクロソフトやGoogleのような明確な収益化モデルを打ち出せておらず、10月の決算発表後には株価が11%以上下落していた

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