【連載】佐野正弘のITインサイト 第179回
正当進化でAIをより強化、Googleの折り畳みスマホ「Pixel 10 Pro Fold」レビュー

Googleの新しいスマートフォン「Pixel 10」シリーズとして発表された4機種のうち、「Pixel 10」「Pixel 10 Pro」「Pixel 10 Pro XL」は2025年8月に発売されており、本誌でも既にレビューしている。だが折り畳みタイプの「Pixel 10 Pro Fold」だけは唯一、発売が2025年10月9日と遅くなっていた。
そこで今回、発売日に合わせる形で、Pixel 10 Pro Foldをお借りできたのでレビューを実施したいと思う。ただしあくまで発売前の端末による短期間でのレビューであり、全ての機能を確認できている訳ではないことはあらかじめご了承いただきたい。
まずは外観を確認すると、他のPixel 10シリーズと同様、基本的には前モデルをしている。それゆえ前機種「Pixel 9 Pro Fold」で大きく変わった、カメラ周りのデザインなども踏襲されていることから、見た目には違いを見出しにくい。

サイズも開いた状態で約150.4W×155.2H×5.2Dmm、折り畳んだ状態で約76.3W×155.2H×10.8Dmm、重量は258gと、Pixel 9 Pro Fold(開いた状態で約150.2W×155.2H×5.1Dmm、折り畳んだ状態で約77.1W×155.2H×10.5Dmm、重量257g)と比べ大きな違いがある訳ではない。

それゆえ折り畳んだ状態で薄さ8.9mm、重量215gと、閉じた状態でも一般的なスマートフォンらしさを実現した韓国サムスン電子の折り畳みスマートフォン「Galaxy Z Fold 7」と比べれば、分厚く重く感じてしまう。だがそれでも、サムスンの前機種「Galaxy Z Fold 6」と比べれば薄く、重量の差も小さいだけに、従来の折り畳みスマートフォンとして見れば一般的なサイズ感といえるだろう。
ただ強化されている点もいくつかあり、1つは折り畳んだ状態で前面に位置するカバーディスプレイのサイズが、Pixel 9 Pro Foldの6.3インチから6.4インチへと大型化された。これにはディスプレイのベゼルをより狭くしたことが影響しており、よく見ると折り畳んだ状態で左側面のベゼルが狭くなっていることが分かる。

2つ目はバッテリー容量で、一般的なスマートフォンと同じ5015mAhのバッテリーを搭載しより長く利用できるようになった。Pixel 9 Pro Foldは4650mAh、Galaxy Z Fold 7は4400mAhとされているだけに、純粋なバッテリー容量で比べれば優位性があるし、他のPixel 10シリーズの端末と同様に、Qi2規格に対応した「Pixelsnap」も備わっているためワイヤレス充電がしやすくなったのもメリットだ。
そしてもう1つは、新たにIP68の防水・防塵性能を備えたこと。Pixel 9 Pro Foldで既にIPX8の防水性能には対応していたのだが、新たにIP6Xの防塵性能に対応し、Galaxy Z Fold 7(IP48)より高い防塵性能を備えた。安心して利用できる場面が大幅に広がったことは、何かと不安要素が多い折り畳みスマートフォンを利用する上でメリットになること間違いない。
続いてカメラを確認すると、背面のカメラは4800万画素/F値1.70の広角カメラと、1050万画素/F値2.2の超広角カメラ、1080万画素/F値3.1で光学5倍ズーム相当の望遠カメラの3眼構成で、フロントカメラは折り畳んだ状態、開いた状態共に1000万画素/F値2.2となっている。ハード性能でいえばPixel 9 Pro Foldと大きく変わっていない。

それゆえ3眼ともに5000万画素クラスの性能を備えたPixel 10 Pro/Pixel 10 Pro XLと比べ性能が抑えられているのはもちろん、望遠カメラを備え3眼構成となったPixel 10と比べても、超広角カメラの性能がやや低く抑えられている。Galaxy Z Fold 7も2億画素のイメージセンサーを搭載した広角カメラ以外の性能は抑えられているだけに、この辺りは薄さが求められる、折り畳みデバイスゆえの難しさかもしれない。



それゆえデジタルズームの倍率も、Pixel 9 Pro Foldと同様20倍までとなり、AIによる補正も従来の「超解像ズーム」まで。Pixel 10 Proなどで新たに導入された、生成AI技術を用いた「超解像ズームPro」には対応しないので、そちらを期待していた人にはやや残念な所かもしれないが、「生成マジック」や、Pixel 10シリーズの新機能「カメラコーチ」など、生成AI技術を活用した他の機能は利用可能だ。

ただ大画面が生かせる折り畳みタイプのPixel 10 Pro Foldでいうならば、AI関連機能はカメラ以外の方が、メリットが大きい。例えば「Gemini」を利用する上でも、深掘り調査するためドキュメント量が多くなる「Deep Research」などは、大画面のPixel 10 Pro Foldの方が、結果が見やすく「ドキュメント」に内容を移して編集することなどもやりやすい。

それに加えて他のPixel 10シリーズと同様、Google製の最新チップセット「Tensor G5」を搭載していることから、「マジックサジェスト」などオンデバイスでのAI技術を活用した機能も使用できる。ただマジックサジェストは利用できるシーンの条件が意外と限られており、音声通話を翻訳する「マイボイス通訳」も、筆者が試した限り日本語環境ではうまく利用できなかった。新機能に関して現時点では、今後の進化に期待というのが正直な所でもある。

では、Tensor G5のAI関連以外の性能はどうなのか。主要なゲームで試してみると、米クアルコムのハイエンド向けチップセット「Snapdragon 8 Elite」を搭載した機種と比べるとグラフィック関連の設定が低くなる傾向にあり、ゲーミングでは依然弱さがあるようだ。
ただPixel 9 Pro Foldで発売当初課題となっていた、ゲームの全画面表示はデフォルトで対応するようになっている。ゲームによってはフロントカメラの位置にボタンが被るなどの問題は依然あるものの、以前の機種と比べれば大画面を生かしたゲームプレイがしやすくなったのは嬉しい。

まとめると、Pixel 10 Pro FoldはPixel 9 Pro Foldと比べハード面での進化は少なく、ハード面で大きく変化した競合のGalaxy Z Fold 7と比べるとインパクトは弱い。ただバッテリー性能や防水・防塵性能など着実に改善・強化されている部分は多く、満足感は確実に高まっているとも感じる。
一方、Pixelシリーズが力を入れるAI関連の機能に関しては、Geminiが大きく進化していたり、「NotebookLM」がプリインストールされていたりするなど、大画面を生かしやすい機能やアプリは増えたと感じる。とはいえ、その多くはアプリさえインストールすれば他のスマートフォンでも利用できてしまう。
新機能のマジックサジェストなどの “真に新しいPixel” でしか利用できない機能は、まだポテンシャルを十分発揮しきれていない印象を受ける。Pixel 10 Pro Foldの優位性を高めるには一層、Tensor G5の実力を存分に発揮できる、オンデバイスで処理するAI関連機能の進化・強化が求められるだろう。