生物模倣デザインで月面でも歩き回れるはず
歩き回りながら住宅を3Dプリントするクモ型多脚ロボ。将来は月面基地建設にも?

住宅の建築には多数の人員と数か月ほどの工期、そして何千万円のコストがかかるものだが、近年は3Dプリント技術を用い、低コストでの住宅供給が実用化されつつある。
ホビー向けの3Dプリンターとは異なり、建築用の3Dプリンターは制作するものが家であるだけに、相当な大きさのものが必要になる。昨年、米テキサス州ジョージタウンには3Dプリンターで建てられた100棟の家からなる住宅街が誕生したが、 その住宅を建設するのに使われた3Dプリンターは幅14mもある巨大なものだった。
しかし、オーストラリアの技術スタートアップ企業Crest RoboticsとEarthbuilt Technologyが共同開発したシャーロット(Charlotte)は、3Dプリンターというよりは3Dプリント “ロボ” と呼ぶほうがしっくり来る。シャーロットはまるで蜘蛛のよう(と言っても6本足だが)に自ら歩行することができ、資材タンクから延びたホースを通じてペースト状の建築材料を吐き出し、積層して家を「積み上げ」ていく。その仕事ぶりは、約200平方m(約60坪)の住宅を1日で建設できるほどのスピードだ。
また、3Dプリント住宅の多くではコンクリートを材料として使うが、コンクリートの材料となるセメントの生産においては、莫大な量の温室効果ガスが排出されており、環境に優しいとは決して言えない。
だが、シャーロットが3Dプリントに使う素材は、Earthbuiltが開発した、砂、廃ガラス、破砕レンガを材料とするもので、CO2排出がほとんどないのが特徴だ。また、3Dプリントされた構造物は耐水・耐火性を備えており、従来の建築方法よりも遥かに迅速・安価に進められる。
シャーロットが目標とするのは、多くの国で住宅不足解消へ道を険しいものにしている労働力不足の問題と、往々にして遅れがちな建設プロジェクト進行の改善だという。もちろん、3Dプリント住宅はそれだけであらゆる市場、あらゆる気候、あらゆる顧客ニーズに対応できるものでもない。とはいえ、住宅価格が高くなりすぎてとても家を持つことなどできない人々には、シャーロットのような3Dプリントロボットによる安価な住宅は魅力的なはずだ。
ただ現時点では、この多脚ロボは開発段階であり、顧客のためにシャーロットが1日で家を建ててみせる様子を目にするには、まだ何年か待つ必要がある。
それでも、Crest RoboticsとEarthbuilt Technologyは、将来的に月面研究のための月面基地建設にこのシャーロットを使えるようにしたいと考えている。開発者らは、生物に着想を得た、車輪ではなく、歩行が可能な設計と自律的な移動能力が、月面での使用に最適だと述べている。

NASAのアルテミス計画では、早ければ来年2月にも打ち上げられる「アルテミス2号」で有人での月軌道周回を行い、続く「アルテミス3号」では、月面に着陸しての有人探査を予定している。その先には、月面基地の建設という目標も含まれているが、そのとき月面で基地を建設するのは、もしかしたらシャーロットかもしれない。
- Source: Crest Robotics
- via: New Atlas