国内未発表のフルカラー「Kindle Scribe」も誕生

「Alexa+」対応のデバイスで何ができる? Amazonの新Echo、Fire TV、Kindle現地レポート

山本 敦

米Amazonが、独自の生成AIエージェント「Alexa+」に対応するEchoシリーズやFire TVシリーズを含む新しいデバイスを発表した。米国時間9月30日、ニューヨークで開催された発表イベントに筆者も参加して、現地で新製品を体験した。

米Amazonがニューヨークで開催した新製品発表イベントでは、Alexa+に対応するEchoシリーズやフルカラー対応のKindle Scribe Colorsoftなど、期待の新製品が多数発表された

今回発表されたラインナップには、日本での発売予定がまだ決まっていないフルカラー対応の電子ペーパー端末「Kindle Scribe Colorsoft」も含まれている。読むだけでなく、専用スタイラスペンによるノートテイクもできる従来のKindle Scribeが進化して、さらにAlexa+と連携する機能も追加する。

Alexa+の日本上陸はいつになるのか?

Alexa+(アレクサプラス)は、アマゾンが今年の2月に発表した、独自の生成AIモデルを基盤とするパーソナルアシスタントだ。英語による自然会話に対応しており、翌3月からは米国に居住するスマートディスプレイ「Echo Show」シリーズのユーザーに向けて、アーリーアクセスとしてソフトウェアアップデートを通じたサービスを順次開始した。

Alexa+は月額19.99ドル(約3,000円)で有償提供されるサービスだが、Amazonプライム会員は無料で利用できる。発表会に登壇した米AmazonのAlexa&Echo部門バイスプレジデント、ダニエル・ラウシュ氏は「Alexa+に対応するスマートデバイスでオンラインショッピングや音楽再生、パーソナルアシスタントとの会話を楽しむユーザー数は、アーリーアクセス開始前と比べて数倍以上に増えている」と述べ、米国で好発進を遂げたことを強調した。

米国でアーリーアクセスカスタマーから提供を開始したAlexa+。好調なスタートダッシュを切ったことを、責任者のダニエル・ラウシュ氏がアピールした

今回の発表会で、アマゾンはスマートスピーカーのEchoシリーズ、Fire TVシリーズのスマートテレビとストリーミングデバイス、次世代のKindle ScribeとRingのセキュリティカメラをAlexa+に対応するプロダクトのラインナップに加えた。

残念ながら、今回の発表会でもAlexa+の日本上陸に関する具体的な時期や方法が発表されなかった。筆者はこれまでにアマゾン幹部への取材で「Alexa+は必ず日本で提供する」という言質を得ている。殊にアジア太平洋地域の中で、日本はアマゾンのデバイスが好成績を残している国だからだ。ある幹部は「先進テクノロジーに対する感度が高い、日本のユーザーに認められることがアマゾンのデバイスやサービスが成功したことの証」だとも語っている。

英語以外の言語や米国以外の地域への展開をアマゾンが慎重に進めている背景には、Alexa+が言語によるコミュニケーション力を備えても、提供先の国や地域の文化や習慣に馴染まなければ、快適な体験をつくることができず、早晩ユーザーに見放される恐れがあるからだろう。筆者も日本語でAlexa+と会話できる日が待ち遠しく感じるが、この際はぜひ良いものを完成させてもらいたいと思う。

Echoはスピーカー構成を刷新。新開発のAIチップを搭載

日本で発売が決まったアマゾンの新製品を中心に、発表会を取材して得た情報も加えながら体験を報告する。まずはEchoシリーズのスマートデバイスだ。

米国と同じEcho Dot Max、Echo Studio、Echo Show 8、Echo Show 11の4モデルが日本に上陸する。時期はそれぞれ、スマートスピーカーの2モデルが10月下旬、ディスプレイを搭載するShowシリーズが11月中旬を予定している。

Echo Showシリーズに初の11インチモデルが登場
Echo Show 8は11インチのモデルとほぼ変わらないデザイン。ディスプレイの傾斜角度が変更できる
左がEcho Dot Max、右がEcho Studio

すべてのモデルで、内蔵するスピーカーシステムを再設計した。コンパクトな球体デザインを継承しながら、専用設計のマルチドライバーを搭載。Echo Dot Maxはウーファーとカスタムメイドのトゥイーターを組み合わせた2ウェイ構成だ。第5世代Echo Dotはシングルスピーカー構成なので、デモンストレーションを聴き比べると明らかにサウンドの切れ味とたくましさが違う。このサイズのスピーカーが出せるサウンドとしては十分に満足できるレベルだった。

シアタールームで第5世代Echo Dotとの比較試聴も行った。音の厚みが明らかに向上している

単独でドルビーアトモスに対応するEcho Studioは、前世代のモデルからデザインを一新した。筒型の形状から、新製品は球体のデザインになり、サイズもぐんとコンパクト化している。スピーカーグリルは3Dニット編みの素材として、サウンドの透過性を高めることに注力した。試聴すると、空間の鮮やかな広がりときめ細かなサウンドを楽しませてくれた。

さらに、2ch対応から一気に5.1ch対応に拡大した「Alexaホームシアター機能」により、最大5台のEcho StudioとEcho Dot Max、Fire TVを組み合わせた本格的なイマーシブサウンド環境が作れるようになる。

進化した「Alexaホームシアター機能」では、最大5台までのEcho StudioとEcho Dot Maxを自由にレイアウトして、本格的なイマーシブシアターが楽しめる

新しいEchoシリーズには、アマゾンが独自に設計したチップセット「AZ3」が搭載されている。前世代のAZ2から処理性能と効率を向上させ、新たにAIアクセラレーターを組み込むことで、AIエッジデバイスとしての処理能力が全般に高められている。ディスプレイ付きのEcho Showシリーズには、音声処理に加えて画像処理をエッジ側でスムーズにこなすための強化版「AZ3 Pro」チップが採用されている。

アマゾンの独自開発によるAZ3/AZ3 Proチップが搭載される

新しいEchoシリーズには、AIアクセラレーター上で動作し、超音波センサーや加速度センサーなど複数のセンサーを組み合わせて室内環境を検知する自動音場補正機能「Omnisense(オムニセンス)」が搭載された。Fire TVを接続するとこの機能が起動する。複数台のEchoスピーカーを室内のランダムな位置に配置しても、音響条件を自動解析して最適なイマーシブサウンドに整えられる。

先端のセンシングテクノロジーによる自動音場補正機能「Omnisense」を搭載

なお、Alexaホームシアターとオムニセンスの機能を利用するには、Fire TVと2台以上の新しいEchoスピーカーを組み合わせる必要がある。スピーカーは徐々に買い足してもいい。Echoシリーズの旧機種には対応していないので要注意だ。

Alexa+に話しかけて定型アクションを簡単作成

Echo Showシリーズには、初めて11インチのモデルが追加された。アマゾンが2021年に発売し、モーション機能によりユーザーが話しかけた方に自動で首を振る10インチモデル「Echo Show 10」(第3世代)よりも、本体はだいぶコンパクトになった。片手で持ち上げられる。

11インチのEcho Showも片手で持ち上げられるサイズ感だ

Alexa+の活用を前提として、新たに設計されたEcho Showシリーズでは、AIエージェントに質問すると音声に加えてディスプレイに表示されるテキストやビジュアル情報が返される。音声のみのスマートスピーカーよりも直感的なコミュニケーションが図れそうだ。

発表会では、フィンランド発のウェアラブルメーカーであるOura(オーラ)が、Alexa+と連携して来年初にも新しいウェルネス・ガイダンスの機能を提供することも明らかになった。OuraアカウントをAlexa+に接続すると、Oura Ringにより取得したユーザーの生体データがEcho Showシリーズ上でモニタリングできるサービスだ。

Alexa+に話しかけると、ユーザーの睡眠スコアを確認したり、最適なワークアウトのメニューを提案してくれる。Alexa+からその日の食事のメニューを声で入力して、オーラのアプリに記録する機能なども揃う。

Alexa+とオーラによるヘルスモニタリング機能のイメージ

Alexa+を活用すると、モバイルアプリでは面倒に感じられた定型アクション(ルーティン)の設定が簡単にできるという。例えば「毎晩真夜中までに(Ringのスマートロックで)すべてのドアが施錠され、電気が消えていることを確認して」といった具合に、Alexa+に話しかけるような感覚でシンプルにリクエストができる。アマゾンのラウシュ氏は、このような手軽さがAlexa+のアーリーアクセスカスタマーにも受け入れられていると語る。

アマゾンにとってパートナー企業にあたるソノス、ボーズ、サムスンにLG、さらにBMWなどは、Alexa+による体験を自社のデバイスに組み込む準備を進めているという。日本でAlexa+が提供される頃には、対応デバイスの選択肢がさらに充実しているかもしれない。

Alexa+をビルトインする製品のエコシステムも広がる

新Vega OSを搭載するFire TV Stickが発売される理由

Fire TV Stickシリーズには新しい4K対応のストリーミングデバイスとなる「Fire TV Stick 4K Select」が加わる。日本の報道発表では4K/HDR高画質、Alexa対応音声リモコンの同梱などの特徴がハイライトされているが、米国ではAlexa+にも対応する。

新しい「Fire TV Stick 4K Select」。ルックスは現行品とほぼ変わらない

7,980円(税込)という「お求めやすい価格」も実現したとされているが、米国の売価は39.99ドル(約6,000円)なので、為替の影響等々により日本の価格は少し高めの設定になったのかもしれない。

日本では現行モデルのAmazon Fire TV Stick 4Kが9,980円(税込)で販売されている。本機と入れ替わる形でFire TV Stick 4K Selectがラインナップに加われば、フルHDモデルのFire TV Stick HD(税込6,980円で販売)と比べてもお得感がある。Fire TVスマートテレビの普及とも相まって、もしFire TV Stickシリーズの需要が伸び悩んでいるのであるとすれば、Alexa+対応が加わるSelectを投入して再度需要を喚起する狙いもあるのだろう。

本機にはアマゾンが独自に開発したLinuxベースの「Vega OS」が搭載される。従来から採用されているAndroidベースのFire OSと同等のサービス互換性を備えながら、軽量化と開発コストのパフォーマンスを最適化したという。この新製品で初採用されるが、今後はFire TV StickシリーズがVega OSに入れ替わり、Fire TVのスマートテレビはAndroidのフィーチャーを継続するためにFire OSを引き続き採用することになりそうだ。

アマゾンが新規に開発したLinuxベースの「Vega OS」が搭載される

Vega OSに移行後も、Fire TV Stickで利用できるアプリやサービスは従来と変わらないようだ。デベロッパ向けにスムーズに移植するための開発キットが用意される。

米国向けにFire OSを搭載する新しいスマートテレビのラインナップも発表された。OEMのブランドを借りない、Amazonのオリジナルブランドから発売される。フラグシップの「Fire TV Omni QLED」が479.99ドル(約7.2万円)と、価格も非常に手頃だ。

アマゾンが自社ブランドで展開するFire OS搭載のスマートテレビ「Fire TV 2-Series」。159.99ドル(約2.4万円)から

発表会に新しいFire TVスマートテレビの展示はなかったが、代わりに現行モデルをベースとした試作機で、Alexa+の音声操作を紹介するデモンストレーションに触れることができた。

映像配信サービスから『アリー/ スター誕生』を検索して、Alexa+に「この男性が出演しているほかの映画を探して」と自然な会話調のリクエストを投げると、ブラッドリー・クーパーが出演した映画やテレビ番組を見つけてくれる。ストリーミングコンテンツについてはシーン単位の検索も可能。また、例えば「スーパーヒーローものは見たくない」といった具合に、検索結果を “引き算” するリクエストにも対応する。

米国では、YouTube TVやAmazon Prime Videoで観られるスポーツ番組のライブ配信も、Alexa+による自由会話調の検索対象になる。Alexa+が日本に上陸する際にも、アプリが対応すれば音声によるチャンネル検索やタイトル検索の操作もできるようになりそうだ。

フルカラーで書けるKindle誕生。AI機能も充実

日本では米国から約9か月遅れるかたちで、フルカラー表示に対応する電子書籍リーダーの「Kindle Colorsoft」が7月下旬に発売を迎えた。

今回、アマゾンの発表会では充電不要な専用スタイラスペンで、電子ペーパーディスプレイ「書く」こともできるKindle Scribeシリーズの新製品が発表された。

フルカラー表示の「Kindle Scribe Colorsoft」を壇上で紹介する、デバイス・サービス部門シニア・バイスプレジデントのパノス・パネイ氏

「Kindle Scribe Colorsoft」はフルカラー表示に対応するフラグシップモデル。米国の価格は629ドル(約9.4万円)だ。グレースケール表示のKindle Scribeも残るが、フロントライトの有無で2製品展開となる。フロントライト搭載のモデルが499ドル(約7.5万円)、フロントライト非搭載のモデルが429ドル(約6.4万円)だ。

あえてフロントライトのないモデルを開発した理由は、「オフィスや学校のように、常時明るい室内で使われることを前提とした。電子ペーパーによる読み書きが楽しめるKindle Scribeを少しでも手頃な価格で手に入れたいというニーズに応えるため」だとアマゾンの担当者は語っていた。

Kindle Colorsoftよりも鮮やかなフルカラー表示に対応するKindle Scribe Colorsoft。サイズは11インチ。第2世代のKindle Scribeよりサイズが大きくなった

新しいKindle Scribeは本体の設計を大きく見直している。現行第2世代のKindle Scribeから、本体の厚さを0.4mm薄くした5.4mmの筐体は、質量が400g。MediaTekの最新クアッドコアSoCと大容量メモリを積み、ページ送りのスピード向上など操作性を高めた。

右は筆者が持参した第2世代のKindle Scribe。わずかに本体が薄くなっている

フロントライト付きのモデルは側面に70個のLEDモジュールを載せて、ベゼルを細くしながら画面を均一に明るく照らせる。ペンが画面を滑る際の摩擦を高めるため、新しいテクスチャ加工ガラスを搭載した。ディスプレイの構造も再設計して、視差をほぼゼロにまで抑えている。

筆者も実機による筆記を試したが、専用ペンによるグリップ感が第2世代のKindle Scribeからさらに向上していた。なお、専用のスタイラスペンは充電不要。第2世代のモデルに付属するペンも使えるが、側面マグネットの配置が異なることから装着が安定しない。第3世代のKindle Scribeに付属するペンを使う方が良さそうだ。

専用スタイラスペン
LEDフロントライトの有無が異なるKindle Scribeが発売される

ホーム画面のユーザーインターフェースも刷新している。新しい「クイックノート」機能にアクセスすると素早くメモが取れたり、最近開いたり追加した電子書籍、ドキュメント、ノートブックにもすぐにたどり着ける。

Kindle ScribeをWi-Fiに接続して、Google DriveやMicrosoft OneDriveと連携できる。それぞれクラウドドライブに保存したドキュメントを取り込んだり、本機で作成したPDFのエクスポートもより簡単にできる。

グーグルとマイクロソフトのクラウドドライブと連携する

AI検索機能も追加する。任意のキーワードを設定して、手書きのノートから該当するファイルをAIが見つけ出す。例えば「ローマ旅行の計画」について書き留めたノートを探し出して、AIが内容を要約したり、AIに質問をしながらKindle Scribe上でローマ旅行の計画を深く練ることもできる。

アルファベットは手書き文字による検索に対応

検索キーワードをKindle Scribeのソフトウェアキーボードで入力するのはさぞかし面倒だろうと思っていたが、次世代のモデルは手書き文字をデジタルタイピングに変換してくれる機能も搭載するようだ。もちろん、アルファベットだからできる技だろう。今後、新しいKindle Scribeシリーズが日本語対応を済ませて上陸する際に、この機能も日本語対応を果たせるのか注目したい。

AI検索の機能がユニークだ。デモンストレーションはなかったが、Alexa+にも対応を予定している

そして、新しいKindle ScribeシリーズはAlexa+の一部の機能と連携する。米国では来年初めごろに、Wi-Fiでクラウドに接続したKindle ScribeからAlexa+へノートやドキュメントを送信し、その内容についてAlexa+とチャットができる機能が追加されるようだ。

今回の発表会では、Kindle ScribeでのAlexa+のデモンストレーションは準備が整っていなかった。実際はどのようなスピード感でAlexa+とやり取りができるのだろうか。試す価値がありそうだ。

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