遺伝子改変した豚の腎臓は人の拒絶反応を弱め、患者の生存確率を高めます
豚から人への腎移植臨床試験、米国で承認。長期的な臓器の生存能力を研究へ

米食品医薬品局(FDA)は、バイオテクノロジー企業eGenesisが申請していた、豚からヒトへの腎臓移植の臨床試験開始を承認した。
eGenesisは、CRISPR技術を用いて改変した遺伝子を豚に植え付け、人に移植しても拒絶反応が出にくいものにするための研究を行っている。今回のFDAの承認は、治験薬申請(IND)に向けて同社が実施する3段階の臨床試験にGOサインを出すものだ。eGenesisは、各段階における治験の結果が次の段階への移行を支持するものである場合、被験者数を増やしていく予定としている。
ただし、この治験に加われるのは、専ら50歳以上で日常的に透析を受け、腎移植の待機リストに登録されている末期の腎疾患患者とされている。米国では、この待機リストに約8.6万人が並んでおり、血液型にもよるが平均待機期間は3~5年だという。また米国の末期腎疾患患者数は80万人以上とのことだ。
そうした人々にとって、実用レベルで適合可能であれば、たとえ豚の腎臓であっても必要であるはずだ。こうした遺伝子編集豚の研究はeGenesisだけに限らず、同種の研究を行っているUnited Therapeuticsもまた、近いうちにFDAに認可申請を行う予定だという。
全米腎臓財団のCEO、ケビン・ロンジーノ氏は「最近発表された異種移植に関する患者の声に関する報告書では、患者の皆様が臨床試験の進展を強く支持していることが示されました。皆様の声が届いていることを知り、大変嬉しく思います」と述べている。
今回のFDA承認と時を同じくして、eGenesisはニューハンプシャー州在住の54歳の男性への豚腎移植が成功したことを明らかにした。この男性は2年以上にわたり、週3度の透析を受けてきた。腎移植の申請も、本人の血液型が希少であったため、より長い待機期間が予想されていたが、eGenesisによって処置された豚の腎臓の移植手術を受けたことで透析が不要になり、6月21日にはめでたく退院できたと報告されている。
移植後、豚の腎臓がどれぐらいの期間、問題なく機能するのかは気になるところだ。数年前の段階では、長くて数週間~数か月といったところだったはずだ。ただ当時は重篤な基礎疾患を抱えた状態の患者でなければ移植の許可が降りなかったこともあり、長期的な臨床試験を行えなかった背景もある。
今回の結果には、移植を受けた男性が腎臓以外は全くの健康体であることも関係しているかもしれない。今後、医師らは臓器の長期にわたる耐久性を評価していく予定だ。