使われていない夜間に別の仕事に活用するアイデア
夜間は停止する「ヘリオスタット式太陽熱発電所」を小惑星や不審な宇宙機の観測に使う実験

米ニューメキシコ州アルバカーキにあるサンディア国立研究所の科学者が、太陽熱発電用の反射パネルを利用し、地球に接近する小惑星を観測したり、不審な宇宙機の発見に用いる方法を実験している。
サンディア国立研究所内には国立太陽熱試験施設(NSTTF)がある。この施設は、多数の動く反射鏡がひまわりの花のように太陽の位置に合わせて角度を変え、敷地中央に建てられた建てた塔の先端部に集光して、そこで発生する熱で蒸気タービンを回し発電する実験設備だ。

当然ではあるが太陽熱発電所は、太陽の光がなければ機能しない。つまり、この施設は日光が当たらない夜間は休止状態になっている。そこでサンディア国立研究所のジョン・サンダスキー氏らは、このヘリオスタットを夜間に動かし、地球近傍天体の探査に低コストで活用できないかと考えた。
そして、研究所主導の研究開発の一環として、サンダスキー氏は昨夏の夜を国立太陽熱試験施設で過ごした。敷地内に設置された212基のヘリオスタットのうちの1基に対し、自動追尾モード付きの天体望遠鏡のように、夜空の物体を追跡するように設定を施して実験を行った。
太陽光を集めて発電する場合、中央の集光塔ではおよそ100万ワットのエネルギーが得られる。しかしサンダスキー氏は、夜間に小惑星が発する、わずか1フェムトワット相当の光を集めるのにこの反射鏡を使い、小惑星の検出に適した条件を作り出した。
望遠鏡を用いた観測では、地球の自転によって夜空を移動するように見える星々を追跡するように望遠鏡そのものを動かして、タイムラプス撮影することで星々を観測する。
星の動きに合わせて撮影するため、通常の星々は光点として像を浮かび上がらせるが、もしそこに小惑星があれば、それは光の筋として映り込む。そしてそれを分析することで科学者はその天体までの距離や大きさ、軌道などを調べることが可能になる。
しかし、サンダスキー氏のヘリオスタットによる観測では、小惑星を観測するのに光の筋の画像を生成するのでなく、反射鏡で得られた範囲の光電流のパワースペクトルデータを収集した。これにより、もし小惑星(あるいは宇宙船)がその視界範囲を通過したとき、背景の星の光に対する周波数のズレがデータ上に現れ、そこから小惑星が背景の恒星を通過する速度を測定できるのだという。
サンダスキー氏は、「ヘリオスタットの向きを徐々に変えて、1分間に1回程度前後に動かすように」し、夜明けまでデータ収集を行った。小惑星の発見には至らなかったが、「ヘリオスタットを前後に動かして星を観測できることを実証した」と述べた。
サンダスキー氏は、これはまだ初期段階の技術だと述べている。だが、この技術が確立・実用レベルになれば、新しい観測所を建設するよりも費用対効果の高い小惑星観測が可能になるかもしれないとした。また、「特に地球近傍月周回軌道における宇宙船の探査という米宇宙軍の任務に役立つ」とし、NASAの小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)を低コストで補完する技術になる可能性も示した。
サンダスキー氏は国際光工学会(SPIE)の会議で研究結果を発表し、論文も発表した。「我々は、単独のヘリオスタットによる観測を複数台にスケールアップし、地球近傍天体の発見に貢献できる可能性を実証する機会を探している」そして、「この技術をスケールアップして、より小さな小惑星も検出できることを実証したい」とサンダスキー氏は今後の目標を語った。