【連載】佐野正弘のITインサイト 第167回
迫る競合に「薄さ」と「低価格」で対抗、サムスンの折りたたみスマホ新戦略
韓国サムスン電子は7月9日、米国・ニューヨークで新製品発表イベント「Galaxy Unpacked」を実施した。例年、夏から秋にかけては折り畳みスマートフォンの「Galaxy Z」シリーズの新機種を発表している同社だけあって、今回の新製品発表で発表されたのも、やはりGalaxy Zシリーズの新機種「Galaxy Z Fold7」と「Galaxy Z Flip 7」などだが、中でも力が入れられていたのは横折りモデルのGalaxy Z Fold7の方である。

8.9mmの大幅な薄型化実現した横折りモデル「Galaxy Z Fold7」
最大のポイントとなるのは薄さだ。折りたたみスマートフォンはディスプレイを折り曲げるという構造上、閉じた状態では厚くなりスマートフォンとしての使い勝手が損なわれる点が課題となっていた。実際、Galaxy Z Fold7の前機種である「Galaxy Z Fold6」も、折りたたんだ状態での厚さは12.1mmと、1cmを超える厚さがあった。
だがGalaxy Z Fold7は、新しい構造のヒンジ「Armor FlexHinge(アーマーフレックスヒンジ)」を搭載し、チタン素材を取り入れるなどして構造を大幅に見直すとともに、「Sペン」に非対応とすることでディスプレイ内の素材を減らして課題を克服。8.9mmという大幅な薄型化を実現している。


もう1つ、大きな進化ポイントとしてアピールがなされていたのがカメラだ。スタンダードタイプのフラグシップモデル「Galaxy S」シリーズのUltraモデルには、約2億画素のイメージセンサーを搭載し、非常に高い画素数を生かした高精細で鮮明な画質を実現することに力が入れられている。だが、Galaxy Zシリーズは折り畳みという構造上の問題もあって、これまで2億画素のイメージセンサー搭載が見送られていた。
しかしながらGalaxy Z Fold7では、広角カメラに約2億画素のイメージセンサーを初搭載。カメラの数は3眼で、Galaxy S25 Ultraと比べ望遠性能は抑えられているものの、広角カメラでの撮影はGalaxy S25 Ultraと変わらない環境を実現できるようになったのだ。

加えて、昨今サムスン電子が力を入れているAIに関しても、Googleの「Gemini Live」が大画面で利用しやすくなったことをアピールしている。ほか、Galaxyシリーズの新しいインターフェース「One UI 8」の搭載によって、大画面とマルチタスクによるAIサービスとの連携がより進めやすくなっている。
激しさを増す折り畳みスマートフォンの技術開発競争
それだけ大幅な強化がなされたGalaxy Z Fold7なのだが、そこには折りたたみスマートフォンで、同社が非常に強い危機感を抱いていたことが、少なからず影響しているだろう。
日本では折りたたみスマートフォン、特に横折りタイプのスマートフォンは、提供するメーカー自体が少ない。それだけに実感しづらいが、海外とりわけ中国では、折りたたみスマートフォンに関する技術開発競争が非常に激しくなってきている。
実際Galaxy Z Fold7と同様に、折りたたんだ状態で1cmを切る横折りタイプのスマートフォンは、既にファーウェイ・テクノロジーズやOPPO、HONORといった中国メーカーが市場に製品を投入している。サムスン電子は、折りたたみスマートフォンでの競争力を維持するためにも、横折りタイプのスマートフォンを強化する必要があると判断したのだろう。
ただ、事前にいくつか噂が出ていた3つ折りタイプのスマートフォン新機種は、今回発表されなかった。3つ折りタイプに関しても、ファーウェイ・テクノロジーズが既に「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」を市場投入するなど、他社の先行を許している。それだけに、競合のキャッチアップという側面ではまだ道半ばといえるだろう。
一方で競合への対抗として、実は非常に大きな意味を持つ新製品が「Galaxy Z Flip7 FE」である。Galaxyシリーズで「FE」が付くモデルは、フラッグシップモデルの要素を取り入れながら低価格に抑えたモデルとなるが、折りたたみスマートフォンのFEモデルはGalaxy Z7 Flip FEが初となる。

Galaxy Z Flip7 FEは、5000万画素のカメラやAI関連機能への対応など、Galaxy Z Flip7の要素を随所に取り入れながらも、デザインはGalaxy Z Flipシリーズの前機種「Galaxy Z Flip6」に近いものを採用。ディスプレイサイズなどを抑えコストダウンを図ることにより、価格は899.99ドル(約13万2,000円)を実現している。
なぜ現在のタイミングで、同社が価格を抑えた折りたたみスマートフォンを投入するに至ったのかといえば、そこにはやはり中国メーカーの存在が大きく影響している。
というのもここ最近、米国を中心として中国レノボ・グループ傘下のモトローラ・モビリティが、Galaxy Z Flipシリーズと同じ縦折りタイプのスマートフォン「razr」の販売に力を入れている。米IDCの調査では、2025年第1四半期に同社が、縦折りタイプのスマートフォンでトップシェアを獲得したとされている。

その原動力となっているのが低価格モデルの存在だ。実際モトローラ・モビリティは、高性能の最上位モデル「motorola razr ultra」シリーズだけでなく、より低価格なスタンダードモデル「motorola razr」シリーズを提供。日本での現行モデル「motorola razr 50」も、発売日のオンラインストアでの価格は13万5,800円と、折りたたみスマートフォンの中では安価な値付けとなっていた。
それだけに、とりわけ米国市場に力を入れているサムスン電子としては、急伸するモトローラ・モビリティに対抗する上で低価格の折りたたみスマートフォンが必要と判断して、Galaxy Z Flip7 FEの投入に至ったのではないかと考えられる。
残念ながら現時点での日本発売は未定なのだが、日本でも価格高騰に消費者が疲弊し、折りたたみスマートフォンの普及が進まなくなってきているだけに、その普及を促す上でも積極的な投入を大いに期待したいところだ。