【連載】佐野正弘のITインサイト 第165回
U-NEXTとタッグを組んだ楽天モバイルの新プラン、料金戦略の大きな転換点となるか
サービス提供開始当初より、シンプルなワンプランであることに強くこだわってきた楽天モバイル。その楽天モバイルが6月23日、現行の「Rakuten最強プラン」とは別に、新たなプラン「Rakuten最強U-NEXT」を2025年10月より提供開始すると発表している。
「U-NEXT」をセットにした使い放題プラン「Rakuten最強U-NEXT」
これはその名前の通り、Rakuten最強プランに動画配信サービスの「U-NEXT」をセットにして提供したもの。楽天モバイルの代表取締役会長である三木谷浩史氏と、U-NEXTの取締役会長でU-NEXT HOLDINGSの代表取締役社長CEOでもある宇野康秀氏は共に、黎明期よりインターネットビジネスに携わってきた旧知の仲であり、2002年にも楽天(現在の楽天グループ)と有線ブロードネットワークス(現在はU-NEXT HOLDINGS傘下のUSEN)が共同で、映像主体のコンテンツポータル「ShowTime」を提供したことがあるという。

そうした経緯もあって、楽天モバイルでU-NEXTのセットプランを提供するに至ったようだが、その内容を見るに、単にRakuten最強プランにU-NEXTをセットにして提供したわけではないことが分かる。大きな違いの1つは、Rakuten最強プランの大きな特徴でもある、通信量に応じて料金が変わる段階制の仕組みがないことである。データ通信が使い放題で国内通話し放題の「Rakuten Link」も利用できるものの、料金は月額4,378円の固定制となっている。
Rakuten最強プランを上限まで利用した時の料金が3,278円、今回のセット対象となるU-NEXTの「月額プラン」の月額料金が2,189円となり、単純に合計すると5,467円となるので、Rakuten最強U-NEXTは両サービスを個別に契約した場合よりも実質1,089円安くなる計算となる。なお「最強家族プログラム」など、Rakuten最強プランに適用される割引サービスはRakuten最強U-NEXTにも適用されるので、最も安い価格であれば月額4,268円での利用が可能だ。

利用できるU-NEXTのサービスは基本的に月額プランと同じ内容で、32万本もの映像作品に加え、200誌以上の雑誌や3,000冊以上の児童書などが楽しめるというが、2025年10月頃からは「U-NEXT サッカーパック」の中から数試合を追加料金なしで視聴できる特典が用意されるとのこと。ただし、月額プランでは獲得可能な1,200ポイントの付与対象とはならない点に注意が必要だろう。
携帯電話サービスとOTTサービスとのセット契約によってお得に利用できる点は、競合他社のセットプランと共通している。だが、セットプランは対象となるサービスに興味がある人にはお得だが、そうではない人には魅力が薄いという弱点もある。それゆえ最近の事例でいえば、「DAZN for docomo」をセットにしたNTTドコモの「ドコモMAX」に対し、スポーツに興味のない人を中心にSNSなどで不満の声が少なからず挙がったことは記憶に新しい。
新プランがもたらす、今後の料金施策への影響とは?
もちろん楽天モバイルの場合、Rakuten最強U-NEXTの提供後も、既存のRakuten最強プランは継続提供されることから、シンプルな “ワンプラン” ではなくなってしまうが既存ユーザーの不満は起こりにくいと考えられる。ただ現在の市場環境、そして楽天モバイルの今後を見据えるならば、Rakuten最強U-NEXTの提供が楽天モバイルの料金施策の大きな転換点となる可能性が高いのではないかと筆者は見ている。
なぜなら楽天モバイルの業績は、黒字化が徐々に見えてきたとはいえ、今なお先行投資が響いて非常に厳しい状況にあることに変わりはないからだ。黒字化の達成に向けて同社は楽天モバイル自体での売上を高める必要があり、そのためには契約数とARPU(ユーザー1人当たりの平均売上額)を共に上げる必要がある。
このうち前者の契約数に関しては、2024年に導入した最強家族プログラムなどの割引施策が好調で大きな伸びを見せており、MVNOによるサービスも含めた契約数は890万と、間もなく900万に到達する規模に達している。

一方、課題となっているのは後者のARPUである。楽天最強プランは、通信量によって通信量が変化する段階制の仕組みを採用しているため、上限まで利用するユーザーだけでなく、Rakuten Linkによる無料通話や、「楽天市場」でのポイントアップに重きを置いて通信量をあまり使わないユーザーも少なからずいる。それに加えて月額料金の上限も3,278円と、競合より安く設定していることから、ARPUの大幅な上昇を見込みづらい。
しかしながら、楽天モバイルはその安さで支持を得ている部分が大きく、かつて展開していた月額0円施策の終了で多くの顧客を失った経験もあることから、KDDIのように既存の料金プラン全体を値上げするという策も取りにくい。そこで新たな手段として打ち出したのが、これまで貫いてきた “ワンプラン” を止め、より付加価値の高いRakuten最強U-NEXTを追加することだったといえる。
先にも触れたように、Rakuten最強U-NEXTは定額制であることから明確にARPUの向上が見込めるし、既存のU-NEXT利用者も大きなメリットが得られるため新規契約の獲得にもつなげられるという、二重のメリットが得られる。既存ユーザーの値上げは難しいだけに、楽天モバイルも経営改善のためにも、Rakuten最強U-NEXTには強い期待を抱いているのではないだろうか。

そしてもし、Rakuten最強U-NEXTがサービス提供後に大きな成功を収めたとなれば、楽天モバイルもセットプラン、あるいはそれに類する施策でユーザーに付加価値を与えながら、定額制の料金プランを提供する動きを広げる可能性が十分に考えられる。
その傾向を示しているのが、先に触れた2024年の割引施策である。2024年2月に最強家族プログラムなどを提供し、それが好評だったことを受けて、同年のうちに類似の割引施策を4つにまで一気に拡大している。
三木谷氏は現在のところ、同種のプランを増やす考えはないと答えていた。だが、スピード感が重視されるインターネットビジネスを長年手がけてきただけに、方針を急速に転換して類似プランの提供へと一気に踏み切る一方、Rakuten最強プランのアピールや特典を減らすなどして、徐々に定額プランに重きを置くというシナリオも考えられなくはない。その結果、今後楽天モバイルの料金が急ピッチで変化する可能性も意外とあり得るのではないかと筆者は見ている。