Neuralink方式よりも電極が少ないため苦戦か

アップル、「脳波でiPhone操作」実現する新規格を計画中との報道

Image:Gorodenkoff/Shutterstock.com

アップルは今年後半、ユーザーが脳波によってiPhone、iPad、Macなどのデバイスを操作できる新規格を発表する見通しであると、The Wall Street Journalが報じている。

この取り組みは、神経技術スタートアップSynchronとの提携のもとで進められているという。同社はニューヨークに本社を置き、脳とコンピュータを繋ぐ「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)」技術を開発している企業である。

Synchronの最大の特徴は「Stentrode(ステントロード)」と呼ばれるデバイスにある。これは血管内手術に用いられるステントの内側に脳波を測定する電極を設置したもので、カテーテルを介して頸動脈から脳の運動野や感覚野近くの血管に挿入される。従来の開頭手術を必要とせず、ペースメーカーのように低侵襲な血管内手術で設置でき、被験者への負担が少ない。

このデバイスによって、重度の脊髄損傷やALS(筋萎縮性側索硬化症)患者など、手の自由が利かない人々もアップル製デバイスを操作可能になる。16個の電極が脳信号を検出し、それをインターフェース選択や制御のための入力に変換するという仕組みだ。

Synchronはすでに2019年から、米FDA(食品医薬局)の調査用医療機器免除制度のもと、10人の患者にステントロードを埋め込んだ実績を持つ。ピッツバーグ在住のALS患者Mark Jackson氏は、初期テスターとしてアップル製品の操作方法を学んでおり、Vision Proを使ってスイスアルプスの岩棚を覗き込む体験をした際には「足が震えた」と語っている。

アップルは2014年、補聴器に「Made for iPhone」認証を導入し、補聴器とAppleデバイス間でシームレスなBluetoothの無線通信を実現している。Synchronとの提携によるBCIにおいても同様のアプローチを追求し、業界標準の確立を目指しているとのことだ。

同社は2024年後半に、新たなアクセシビリティ機能の一環としてBCI制御をサポートする新規格を発表する計画だという。ただしこの技術はまだ発展途上であり、マウスや指による操作と同じ速度・精度を実現しているわけではない。さらに、FDAの正式承認を得るには今後数年を要するとみられている。

なお、アップルが進める方式は、イーロン・マスク率いるNeuralink社のアプローチとは大きく異なる。Neuralinkは脳組織に直接1000個以上の電極を埋め込む高侵襲型の方式を採用しており、被験者のひとりは思考によって滑らかにカーソル操作を行ったり、ゲームをプレイする様子も披露していた

アップルのBCI技術は、非侵襲性とユーザーアクセシビリティの両立を図るアプローチとして、今後の正式発表が待たれるところだ。

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