【連載】佐野正弘のITインサイト 第158回
「au」よりも大幅値上げ、低価格の「UQ mobile」ほど厳しさを増すKDDIの新料金プラン
ゴールデンウィーク直前の4月24日に、NTTドコモが「ドコモ MAX」などの新料金プランを発表。賛否さまざまな反響を呼んだというのは前回紹介した通りだ。だが料金改定による値上げの動きは同社だけにとどまらないようで、ゴールデンウィークが明けた直後の5月7日にもKDDIが新サービス発表会を実施している。
NTTドコモに続き、KDDIが新料金プランを発表
そこで発表された新サービスの1つが、衛星とスマートフォンの直接通信サービス「au Starlink Direct」を、メインブランド「au」以外のユーザーでも利用できるよう、SIMによるサービスを提供すること。月額1,650円でau Starlink Directによるサービスのほか、KDDI回線の4Gによるデータ通信が利用できるというが、後述するサブブランド「UQ mobile」の新料金プラン契約者であれば、月額550円で利用できる優遇措置が用意されている。

衛星通信は災害などの非常時にも役立つだけに、有料とはいえ他社回線の利用者に向けてもサービスが提供されることは喜ばしいことだ。ただ、UQ mobileやオンライン専用の「povo」といったKDDIのサービス利用者であっても、au Starlink Directを利用するのに別途SIMを追加発行しなければならない点には疑問も残る。よりスマートに利用できるよう、今後何らかの改善も必要だろう。
だが今回の発表の中心となったのは、やはり新料金プランである。その1つとなるのが、メインブランドである「au」の新料金プラン「auバリューリンクプラン」だ。
これは、auブランドで既に提供されている「使い放題MAX+ 5G/4G」と同様、データ通信が使い放題となる料金プラン(ただし月当たり200GB超の通信で、通信速度を最大5Mbpsに制限)。月額料金は8,008円と、使い放題MAX+ 5G/4G(月額7,458円)と比べれば550円ほど高いのだが、新プランの中には複数の “価値” が追加されている。

その価値の1つとなるのがネットワークに関するもの。au Starlink Directが利用できるのに加え、これまで24時間当たり800円以上の追加料金がかかっていた国際ローミングサービス「au海外放題」も、月当たり15日間であれば追加料金なしで利用できるようになった。
それに加えてもう1つ、新たに追加されたのが「au 5G Fast Lane」である。これはKDDI回線で5Gの通信を利用している時に、au 5G Fast Lane非対応のプランや「UQ mobile」「povo」など他のブランド、あるいはKDDI回線のMVNOの利用者などよりも快適に通信ができる仕組み。au 5G Fast Laneの利用者向けにより多くの無線リソースを割り当てることで、混雑した場所などでの通信品質低下が起きにくくなる優遇策となるようだ。

そしてもう1つの価値がサービスに関するものだが、1つは指定のサブスクリプションサービスに加入することで、「Ponta」ポイントを獲得できる「サブスクぷらすポイント」。このサービス自体は使い放題MAX+ 5G/4Gなど従来プランでも提供されていたものだが、ポイント還元率が最大15%から、最大20%へと向上。さらに「Google One」などAIに関連したサービスが対象に含まれるなど、適用範囲も広がっている。

そしてもう1つ、追加されたのが「Pontaパス」である。こちらは従来、月額548円で別途追加する必要があったのだが、それがauバリューリンクプランでは料金プランに含まれる形となった。
一方で、auバリューリンクプランに適用できる割引サービスは従来プランと大きく変わらず、「家族割プラス」「auスマートバリュー」「au PAYカードお支払い割」の3つ。それゆえドコモ MAXと比べ、従来プランからの変化は少ないことからSNSなどでの反発の声も大きくはなかったようだが、裏を返すとその分インパクトも大きくはなく、順当に値上げが進んだプランという評価となりそうだ。
KDDIはかねて、顧客に価値を提供しながら取引先企業にも還元するという循環を継続する上では、価値に見合った対価を得ることが必要と訴えていた。それだけにauバリューリンクプランでも、その循環を継続するべく値上げを図ったのだろう。
その姿勢は他の料金プランに向けた施策からも見えてくる。KDDIはauバリューリンクプランの提供に伴って既存の使い放題MAX+ 5G/4Gなどを終了させるのではなく、継続する方針だというが、これらプランにもauバリューリンクプランで提供する価値の多くを追加する一方、月額料金は110円~330円程度値上げするとしている。

ただ既存プランの高付加価値化と値上げによって、auバリューリンクプランと使い放題MAX+ 5G/4Gとの違いはPontaパスの有無だけとなり、消費者から見るとプラン全体が複雑になった印象を受ける。Pontaパスをセットにせずに既存プランの改定だけをすればよかったのではないか?とも感じてしまうのだが、KDDIは2024年からローソンの経営にも参画しており、そちらでも成果を出す必要がある。それゆえローソンとの連携がより密になるPontaパスを料金プランに含めることで、auユーザーの送客をより促進したい狙いが大きいのだろう。

そしてもう1つ、より一層KDDIの値上げの姿勢を明確にしているのが、サブブランドのUQ mobileだ。KDDIはUQ mobileの新料金プランを、2025年6月3日より「コミコミプラン+」の後継となる「コミコミプランバリュー」と、「トクトクプラン」の後継となる「トクトクプラン2」の2つのプランにリニューアルするとしており、いずれも付加価値を高めながら月額料金を上げる形が取られている。
コミコミプランバリューは新たにPontaパスがサービスに追加され、サブスクぷらすポイントも最大20%還元となったが、月額料金が3,828円と、コミコミプラン+(月額3,278円)と比べ約550円の値上げがなされている。またトクトクプラン2も通信量が30GBに倍増し、なおかつサブスクぷらすポイントにも対応するようになったが、割引適用前の月額料金は4,048円。トクトクプラン+(月額3,465円)と比べれば、600円近い値上げとなっている。

一方で、既存の料金プランは新プラン提供に伴い全て受付終了するとのことで、4GBの小容量・低価格の領域をカバーしてきた「ミニミニプラン」の後継プランは提供されない。KDDI側の説明によると、トクトクプラン2で通信量によって月額料金が変わる段階制を採用しており、そちらを後継プランと位置付けていく方針のようだが、その内容はミニミニプランと比べ、大幅値上げと言わざるを得ないものとなっている。
実際、ミニミニプランの月額料金は通信量4GBで2,365円、各種割引を適用すれば月額1,078円での利用が可能だったのに対し、トクトクプラン2は先にも触れたように月額料金が4,048円。各種割引を適用し、なおかつ通信量を5GBいかに抑えれば月額1,628円にまで引き下げられるが、それでも通信量を考慮しなければ6割程度の値上げとなってしまう。
大容量プランが100~300円程度の値上げであるのに対し、UQ mobile、その中でも小容量・低価格のプランほど値上げ幅が大きいのは、やはり低価格のプランほど利益が少なく、値上げをしなければ提供が厳しくなっているが故だろう。加えて、NTTドコモの新料金プランでも小容量プランの注力度合いが大きく落ちたことを考慮すれば、あらゆるものの値上げが進む中にあって、儲からない小容量・低価格のプランからはもう手を引きたいというのが2社の本音なのではないだろうか。
既に大手2社が新料金を打ち出しただけに、残るソフトバンクも今後何らかの形で料金改定をしてくる可能性が高いが、同社もこれまで値上げの必要性を訴えてきただけに、新しいプランが出たとしても2社と傾向が大きく変わらないと筆者は見ている。行政の圧力で長く値下げが続いた携帯電話料金も、急加速するインフレで業界全体が限界を迎え、大きな曲がり角に差し掛かったことは間違いない。