2トンの力で吸い付け

「ダウンフォース」で天井貼り付き走行。McMurtryのハイパー電気自動車が実現

Image:McMurtry

F1マシンの空力特性のすごさを説明するとき、よく引き合いに出されるのがダウンフォース(マシンを地面に押しつける力、飛行機の揚力の逆)である。走行中に発生するダウンフォースがマシンの重さを上回るため、もしジェットコースターのように宙返りするコースがあっても、そのまま落下せずに走行できる、などと言われるものだ。

そんなダウンフォースによる天井面貼り付き走行を、1台の自動車が実演した。McMurtry Spéirling Pure VP1(マクマートリー・スピアリング・ピュア・VP1)だ。

F1マシンは、マシン前面から当たる風を利用してダウンフォースを発生するため、停止した状態ではその恩恵を受けることができない。一方、Spéirlingの場合はファンを使って車体下面の空気を吸い出すことで、強力なダウンフォースを発生させる。そのため、停止状態でもファンを回しさえすれば路面に吸い付いた状態を維持できる。

最近、そのダウンフォースの強力さを証明するような実験をMcMurtryは実施した。McMurtryはまず、まるでMötley Crüeのトミー・リーが使用した360度回転ドラムキットのように、回転して逆さまになる台座を製作した。そして、そこにSpéirlingを乗せ、ファンを作動させた状態で実際に天地を逆にしてみせたのだ。

Image:McMurtry

コクピットに座ったドライバーのトーマス・イェーツの目は、最初はやや不安そうだったが、落ちないとわかってからは自信の表情に変わったように見えた。 ちなみにイェーツはメルセデスのF1パワーユニット部門出身で、デイビッド・マクマートリー卿とMcMurtry Automotiveを共同創業した人物。同社のマネージングディレクターでもある。

イェーツは真っ逆さまになった台座に貼り付いたSpéirlingを慎重に、数十センチメートルだけ前進させた。ほんのわずかな距離だが、これが、人が乗った自動車が初めて天井面を走行した瞬間になった。

Spéirlingが停止すると、逆さになった台座が再び回転して最初の水平状態に戻り、前方のスロープからSpéirlingは地面に降り立った。

冒頭に紹介した、F1マシンのダウンフォースの大きさを説明する話とはやや趣が異なったが、自動車がそのダウンフォースで天井面に貼り付き、しかも走行できることをMcMurtryは証明した。

ただ、どんなクルマでもこんなことができるわけではないのは言うまでもない。Spéirlingは車体下部に2万3000rpmで回転するツイン電動タービンを搭載し、途轍もない勢いで空気を吸い出し、後部の排気口へ吐き出すことで2トンを超えるダウンフォースを発生させている。まるで巨大な掃除機だ。こんな仕組みは現代のF1マシンには搭載できない。

実は過去のF1には、この仕組みを持つマシンがほんの一瞬だけ存在した。その件については過去記事で触れているのでそちらをご参照いただきたい。

ちなみに、その記事ではMcMurtry Spéirlingがグッドウッドのヒルクライムコースの新記録を打ち立てたことを紹介しているが、今回の逆さまチャレンジの数日後、このクルマは英国の人気自動車番組『トップ・ギア』のテストコースでも最速記録55.9秒を樹立している。これは元F1ドライバーのヘイキ・コバライネンが F1マシンのルノーR24で記録した59.0秒を3.1秒も短縮する異次元の速さだった。

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