2024年「以降」はいつ?
「ロシア2024年以降ISS離脱」はどの程度深刻視すべきか。専門家は留まる可能性の指摘も
ロシアの宇宙機関Roscosmosは7月26日、2024年以降にISSの運用から撤退する予定だと発表した。一方、NASAのビル・ネルソン長官はこれに対して「NASAは2030年まで国際宇宙ステーションを安全に運用することを約束し、パートナー各国とも調整している」と述べた。さらにNASAは、ISSについて「地球低軌道における重要な存在を保証するため、将来の使い道を模索し続けているが、どのパートナーからいかなる決定も知らされていない」とロシアの発表があくまで非公式なものであることを強調した。
ISSの多国間協定は現在、2024年にその期限が切れる予定だ。しかし昨年12月、ホワイトハウスは軌道上の貴重な実験室でもあるISSの運用を2030年まで延長する意向を表明。欧州、日本、カナダはこの考えに賛同している。ロシアはドミトリー・ロゴージン氏がRoscosmosのCEOから解任され、後任となったユーリ・ボリソフ氏によってその方針が転換されるのを期待する声も一部にはあったものの、ボリソフ氏が「2024年以降」にISSから撤退することをプーチン大統領に報告する様子がテレビで報道された。
現在、ISSの運用ではロシアは米国からの電力供給を受け、米国はISSの高度を保つため、ロシアの推進装置に頼っている。この相互依存関係は、宇宙ステーションの運営に深く関わっており、どこかの国が「もうやめた」と言って出ていったとしても、簡単にその国のモジュールだけを切り離して済む話ではない。
NASAは、ISSの制御の難しさ、ソフトウェアの相互依存性、モジュール間の多数の接続要素のため、これらを切り離すことは「大きなロジスティック上の、また安全上の課題」を発生させると付け加えた。
要するに、ロシアが抜けてしまうとISSの運用は非常に難しくなることが考えられる。ジョージ・ワシントン大学の宇宙歴史学者で政策アナリストのジョン・ログスドン氏は、今回の発表はロシアがISSのパートナーシップから撤退し、新たに計画している独自の宇宙ステーションの開発に人材と資金を投入するという意思表示だと述べた。そして、ロシアはおそらくかなり前から、緊急時対応策を練ってきていただろうと語った。
ただ冒頭に記したように、NASAのネルソン長官はロシアから正式なISS運用からの撤退宣言を受けていないとしている。NASA本部のISSディレクター、ロビン・ゲイテンズ氏もネルソン長官と同様、ロシアからの正式な意思表示はないと述べ「おそらくロシアも、われわれと同じように、今後どのような選択肢があるかを探っているのだろう」と述べたとのこと。
NASAのISSプログラムマネージャー、ジョエル・モンタルバーノ氏は、2030年まではこれまでどおりISSの運用を継続できると信じている。モンタルバーノ氏は、ロシアが米国人飛行士の輸送にソユーズ宇宙船を提供するかわりに、米国はSpaceXのCrew Dragon宇宙船にロシア人飛行士を乗せるという、座席交換協定の発表のために当時モスクワに出向いていたとのこと。
ただ、もしロシアが本当にISSから降りた場合、ロシアのセグメントはどこの国が利用するのかといったことなども考えておく必要はあるかもしれない。ロシアがそれを望むかどうかはわからないが、ログスドン氏は「他国による利用を排除することはできない。話し合いが必要だ」と述べている。
実際のところ、ロシアが本当に2024年にISSを離れるかはわからない。声明では「2024年以降」と述べており、言葉のうえではそれが2030年だったとしても2024年以降に違いはない。そしてISS離脱後すぐに自国の宇宙ステーションを建造すると言っていることに関しても、ウクライナ情勢がロシア経済に及ぼす影響などを考えると、難しそうにも思える。
現在、軌道上にある宇宙ステーションはISSだけではない。中国は「天宮」の最初のモジュールを昨年5月に打上げ、すでに飛行士が滞在している。またインドも自国の宇宙ステーションを打ち上げる計画を進めている。これらの宇宙ステーションは、それぞれの国が独自に運営するものであり、ISSのような平和協定的相乗り運用は期待されないと考えられる。
またロシアは近年、中国有人宇宙局(CMSA)との協力関係を太くしており、月面基地の建設計画をはじめとした、宇宙活動における協力体制の構築を進めている。その一環として、ロシアがCMSAの宇宙ステーション計画を支援する可能性もありそうだ。米国は2011年に制定した法律で、NASAが中国の宇宙機関と協力することを禁じている。そのため中国の宇宙飛行士はこれまでISSに滞在したことがない。
この先、いったいどの方向へ向かうのかわからないISSだが、このような状況でも、ロシアと米国の宇宙機関が和解してISSの運用を継続するという意見もないわけではない。スミソニアン航空宇宙博物館のティーゼル・ミュア・ハーモニー氏は「たとえ冷戦時代であっても、旧ソ連とアメリカは宇宙空間で協力しようとした。その関係性は(月のように)満ち欠けしている」と述べている。