ジェネレーティブAIの進歩は選挙戦の風景も変える?

米共和党、「全編AI生成フェイク画像」の動画でバイデン氏を批判

Image:GOP/YouTube

共和党全国委員会(RNC)が、ジョー・バイデン大統領が2024年大統領選への立候補を表明したことを受け、大統領を批判する動画を公開した。米国では選挙において毎回、ライバル候補陣営に対しネガティブキャンペーンを仕掛けることが当たり前のように行われるが、RNCは今回、バイデン氏が再選した未来の米国をAI生成画像によってディストピア風に描いた広告を用意した。

RNCによれば、全編にわたってAI生成画像を使う広告は今回が初めてとのこと。問題の動画は、選挙で勝利し笑顔するバイデン氏とカマラ・ハリス副大統領の笑顔で始まる。ただ、すでにこの時点で雰囲気にはなにか不穏な感じがする。おそらくそれは、バイデン氏もハリス氏も異常に歯の数が多く見えるからだろう。最近のAI画像ジェネレーターは、ひと目では写真との区別がつかないほど精緻な画像を出力できるようになってきたが、手足の指の数や細かいものが集合したような画像では、やや混濁したような表現になることがある。笑顔から覗く歯もその例のひとつだが、この広告ではどこかおぞましい雰囲気を醸しだすのに一役買っているようだ。

そして動画の続きには、ニュースキャスターが中国による台湾侵攻を伝え、インフレによっていくつもの地方銀行が閉鎖し金融危機に発展する様子、移民申請者でごった返す国境警備の現場などが示される。また、違法なフェンタニル(合成オピオイド)の使用蔓延や犯罪の激化で、サンフランシスコの路上を鎮圧する軍隊の姿なども暗いトーンで示され、RNCが想像するバイデン氏再選後の未来を描いている。

これらはいずれも、共和党が民主党の政策を批判する際に指摘する問題を大きく強調して描いたものだ。視点を変えれば、この広告に描かれている風景は選挙後ではなく、今後数ヵ月の間に選挙戦の行方をめぐって繰り広げられる光景にもなりそうな気がしてくる。

民主党全国委員会は、共和党の広告動画に対し「彼らはAIに助けを求めるしかないのだろう」と余裕を見せるツイートを放っている。ただ、先月には民主党側の選挙チームがAIチャットボットを活用して寄付金を募集するための文章やEメールといったコンテンツの生成をするテストしていることが報じられていた

AIで写真や動画を改変するディープフェイク技術を使った嘘のコンテンツは、以前の大統領選でも出回っていた。使い方は異なるものの、2大政党が両陣営ともに、積極的にAIでコンテンツを生成して選挙戦を展開するのは、これまでになかったことかもしれない。

ちなみに日本では昨日、人工知能学会が大規模生成モデルを採用するAIについて「出力を鵜呑みにせず、長所・短所を理解した上で利用することが大切だ」と、ジェネレーティブAIが一般に拡がり始めた当初に一部で注意事項として言われていたことを、一般市民に向けて広く発信。さも本当のことであるかのようにでたらめな「幻覚」を、AIは出力する場合があると呼びかけていた。

選挙戦でのAI活用は、有権者に幻覚を見せるのでなく、冷静な判断を後押しするものであるよう望みたいところだ。

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